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第三章
衝撃の告白【1】
しおりを挟む立ちのぼる陽炎の向こう、恋しい姿が滲んで揺れている。涙を浮かべているわけでもないのに、儚く揺れている。
「あっ、嶋村さーん!」
大きく手を振り、こちらへ駆けてくる長身。今日も会えた。それだけで嬉しい。知らず、心臓が躍る。
鼓動が高鳴る切なさを、乃亜は初めて知った。
「あの、すみません。不躾な質問なんですけど、もしかして嶋村さん、体調悪いんじゃないですか? どうも痩せてきたように感じるんですけど」
「え……」
開口一番、ズバリと切り込まれた。乃亜の心臓が、恋の疼きとは別物の躍動を刻む。
言い当てられてしまった。ユージンに片想いしていると自覚してから、一週間。日に日に食欲が減退している。昨夜はレトルトのお粥を残してしまったし、今朝は何も食べていない。昼休憩の今は、敷地内の庭園でスポーツドリンクをちびちび飲んでいたところだ。
ろくに食べていないのに、連日、花を吐いている。
こじらせた想いの結晶を花の形で吐き出しているのだから、本人の栄養状態はそこに関与していないのは明白なのだが、花吐き病という奇病のメカニズムは本当に不思議だ。
不思議なことは、もっとある。リナリア、バラ、ガーベラに水仙。日々、自らが生み出す花がどれも本当に美しいことに、乃亜は気づいてしまった。誇らしいやら悲しいやら、だ。
が、どれほど美しくても、他者にとっては病の感染源となる花。恋情の証の花を自分の手で焼却する毎日が、彼を精神的に追い詰めている。
「そう、でしょうか。大丈夫ですよ。確かに合同発掘調査の準備で忙しいですが、体調は万全です」
けれど、真実は誰にも伝えることはできない。真剣な表情で心配の言葉をくれた金髪のカメラマンにこそ、嘘をつかなければ。
「本当ですか?」
「もちろんです。嘘をつく理由がありません。なんなら、来週、健康診断があるので、結果をお知らせしましょうか? 実は私、文化財研究所で一番の健康優良児なんですよ」
「えー、マジですか? 俺、事務員さんに裏取っちゃいますよー?」
「構いませんよ。事務職の皆さんもご存知のことですから」
これは本当。来週、健康診断があることも、乃亜の健診結果が常に良好なことも。だから、最も隠したい現在の体調についての嘘に信憑性が持たせられた。
「そうなんですね。あー、でも、嶋村さんなら頷けちゃいます。健康管理、完璧そうですもん。俺はだめだなぁ。毎日のように夜更かししてるから」
無理をして笑う乃亜の『大丈夫』は、ユージンに信じてもらえたようだ。
よし、これで良い。それに、ちょうど会話も途切れた。昼休憩が終わるまでにまだ間があるが、何か理由をつけて立ち去ろう。
「リン……」
「嶋村さんの健康が確認できたので、安心して俺の話が出来ます。今日は大事な話があって来たんですよ。俺、応募してた海外の企画に起用されたんですよ。次の仕事から北京を拠点にアジア各国を巡るんです」
え……。
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