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第三章
衝撃の告白【2】
しおりを挟む「初めての大きな仕事なんですよー。もう、今から楽しみで楽しみで!」
そうか。
「国内もいいけど、やっぱ海外の仕事は滾るっていうか。連絡もらってから、ずっと大興奮なんですよ」
あぁ、そうか。もう、〝その時〟が来てしまったのか。
「んで、嶋村さんにも一緒に喜んでもらいたくて来ちゃいました」
「おめでとうございます。良かったですね」
ちゃんと発声できているだろうか。なんとか笑みは浮かべられたが、声音まではコントロールできない。
「ありがとうございますっ。今回は北京の会社との契約ですけど、その企画で結果を残して、いずれは海外をメイン拠点にして仕事するのが夢なんです」
いつか関東支社に戻っていく人だとは、わかっていた。別れの日は見えていた、承知していた。
けれど、こんなにも突然に海外に行ってしまうとは思っていなかったから、乃亜の胸で覚えのある痛みが蠢き始める。その疼痛は、ここで披露してはいけないもの。
早く。早く、この場を去らなければ。
「俺の親父のこと、まだ言ってなかったですよね。父はサマルカンドでシルクロード都市遺跡の発掘調査をしている研究者なんです。父の影響で、俺も歴史遺産に関わる仕事に就いたみたいなところがあって。なので、ようやく夢に一歩近づけました。嶋村さん、今日くらいは俺と祝い酒を酌み交わしてくれませんか?」
無理。
「あの、すみませ……今日は都合が悪くて……それに、もう仕事に戻らなくてはいけないので、これで……」
「嶋村さん?」
「失礼、し……」
最後まで言えただろうか。途方もない吐き気を抑えるために口を覆ったから、相手は聞き取れなかったかもしれない。
けれど、乃亜はもう背中を向けてしまった。ましてや、振り向くなど論外。
「嶋村さん!」
小さくなった呼びかけが、ユージンから距離を取れた証拠だとわかっているが、走り続ける。足を止めてはいけない。恋する人から逃げなければ。
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