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第一章
彼と彼の関係【1】
しおりを挟むその関係は、偶然と思いつきから始まった。
「口、開けろ」
暗澹たる夜が始まり、墨汁を塗り広げた空が暁の朱鷺色に変わるまでの、密やかな時間。
「教えた通りにできるところ、ご主人様に見せてみろ」
「ん、ぅっ」
誰も知らない。誰にも知られてはいけない。この場を満たしている淫靡な空気と、それを放出している二人の男の関係を。
「どうする? 今日は吐き出してもいいぞ」
「……ぁ、っ……飲んだ」
ズボンの前をくつろげ、そこから取り出した男の象徴を相手の口に突っ込んで奉仕させていた者、花宮煌がいつも通りに相手に判断を委ねると、煌の前に膝をついていた男は喉を鳴らして口内のものを嚥下し、ご丁寧にも「飲んだ」と報告をした。
「吐き出してもいいっつったのに、また飲んだのか。これがそんなに好きか? ん?」
床に片膝をついた煌が、ずっと見下ろしていた男と目線を合わせる。癖のない濃茶色の髪にその長い指を這わせ、右頬だけに薄い笑みを浮かべた。
「上級貴族は舌が肥えてるはずなのに、青臭ぇ子種を好んで飲みたがるとは、滑稽じゃねぇか。とんだお笑い種だな」
かつて、煌には親の決めた許婚がいた。その娘に「語尾が甘く響く、罪作りなお声」と評された美声でお世辞にも上品とは言いがたい嘲笑を向けると、煌に奉仕していた男がふいっと目を逸らした。黒縁眼鏡のレンズの奥で、深い黒瞳がわずかに揺らぐ。
「別に好んでなどいない。旨いとも思わない。無理矢理に出席させられるパーティーで口にする味気ない料理と大差ないと思うだけだ」
淡々とした答えが、煌に返ってきた。
怜悧さが前面に出た整った顔立ちからは、煌がぶつけた嘲りに対する反論の感情は窺えない。ただ、てらりと濡れた唇が先程までの口淫の名残を思わせ、色めいているのみ。
「いやいや、大差ありすぎだろ。そういうとこが変わってるっつってんだ。特権階級が集まるパーティーで食う料理と、精液の味を一緒くたに片づけねぇぞ。普通はな……ほら、苦いじゃないか」
ほら、と相手に唇を寄せた煌が大きく顔をしかめる。自らが放った精の味をわざわざ舐めて確認したわけだが、その理由が、目前の男の濡れた唇と色気にふらふらと誘われたからだとは思い至らない。
「まぁ、いい。続き、しようぜ。来いよ。大尉殿?」
来い、と煌が誘っているのも、彼の寝台ではない。辺境の駐屯地で最も広い私室を使うことを許される身分ではないのだ。
煌の階級は軍曹。この部屋の持ち主は、煌が手を引いている相手、土岐奏人大尉だ。
「先に脱げよ。大尉殿。その後、俺を脱がすことを許してもいい」
陸軍大尉であり、辺境騎兵連隊の隊長でもある奏人に、なぜ、煌が命じる側に立てているのか。なぜ、階級も身分も遥か格下の煌に性奴隷のように奉仕することを奏人が良しとしているのか。
そのきっかけは、半年前の満月の夜に遡る。
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