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第二章

キス、キス、キス【2】

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「はっ! おおお、俺! まず、謝らなきゃだったっ。ごめん! 無意識の事故とはいえ、気持ち悪いことしちゃってごめん。ごめんなさい!」

 正座に座り直し、誠心誠意、謝った。

 そうだよ。俺、ばかだ。『ホラー映画・キス事件』の真相を解明する前に謝罪じゃん。

 いくら温厚な椿だって怒るに決まってる。突然、男にキスされたんだ。

「ごめん、椿。でもあの、こんなこと仕出かしたヤツだけど。絶交はしないでもらえると、すごくありがたいんだけど……だめかな?」

 顔が見られない。怖くて。

 恐る恐る尋ねた言葉は、俯いたまま発した。絶交って言われるかもしれないと思ったから。もしも、冷たい視線を浴びながら突き放されたら、と想像しただけで恐怖に震えたから。

 あははっ。めっちゃ怖がりじゃん。ホラー映画好きが聞いて呆れる。

「千明?」

「は、はいっ!」

 いよいよ死刑宣告? やだ、やだっ。絶交だけは、やめ……。

「順序が変わるけど、二番目の質問から答えていくぞ。まず、俺は怒ってない」

 え、マジ? 怒ってない?

「次、三番目。絶交はしない」

「あ、ありがとっ」

 良かったぁ。

「それで、最初の問いに戻るが。お前がいきなりキスした理由が俺にわかるわけない。お前の心理なんだから」

「で、ですよねぇ」

「だから、聞かせろよ。キスの直前、お前がどんなことを考えてたのか。あれは無意識の事故? そんなことないだろ。無意識の行動にも必ず明確な理由がある。それを掘り起こすために、もう一度、その時に戻ろう」

 掘り起こす、か。それ、良いかも。

「ほら、思い出せ。キスの直前、何を思って顔を近づけてきた?」

「睫毛、長いな。イケメンだなって思ってた」

「それだけ?」

「ううん、まだある」

 正直に答えてるのは、椿が優しいから。声と表情がすげぇ優しいから。

「鼻筋がすっと通った綺麗な横顔だな。指も綺麗。そんで良い匂いするって思ったらドキドキして頭がぼーっとして。気づいたら、お前が飲んでたりんごジュースの味が唇に乗ってて、あれ? なんでキス? って質問してた」

「ははっ。あの短時間にすげぇいっぱい考えてたんだな」

「気持ち悪いヤツでごめん」

 恐縮しきりです。

「いや、謝らなくていい。逆に聞くけど、男が男にキスしたら気持ち悪いのか?」

「え?」

「千明は、俺のこと、どう思ってる?」

「親友」

「即答サンキュ。つまり、好き?」

「うん」

「じゃあ、お前は、好きって思う友だちなら全員にキスする?」

 え……。

 ズバリと切り込まれた問いに、息が止まる。

 好きって思う友だち、全員にキス?

「しない。無理」

「じゃあ、どうして、俺にはキスできたんだ?」

「それは……」

 やばい。どうしよう。

 どうしよう、どうしよう。俺、今、気づいちゃった。

 段階を踏んで重ねられた椿からの問いは、俺自身も気づいてなかった〝想い〟をざくりと掘り起こし、暴いた。

「千明。なぜ黙ってる?」

 ドキドキの理由は単純明快。俺、椿が好き。いつの間にか、想いが勝手に噴き出すくらい好きになってたんだ。

 でも、それを言ったら絶交される。

「答えが出ない? それとも言えない? なら、俺の答えを先に聞いてくれる?」

 ——チュッ

 え?

「俺は、千明になら何度でもキスできるよ。お前が好きだから。——出会った日から、ずっとお前に恋してる」

「ええぇっ?」

 何度でも、と。その言葉通り、キスを続けて降らせてくるイケメンの腕の中で絶叫を放った。

「なんだよぉ。絶交されると思って俺が言えなかったこと、サクッと言うなよ。俺だって、椿が好きだぁ」

「嬉しい。お前からの不意打ちのキスもすげぇ嬉しかった。だから、逃がさないよう、必死で質問責めにした」

「あの質問で自覚できたよ。サンキュ」

 良かった。気づけて。本当に良かった。

「千明、好きだよ」

「俺も好き。大好きっ」

 今日、自覚できたから、明日からは親友で恋人同士っていう二重の幸せが始まる。これ、最高じゃね?


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