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弐
月影に謡う 【五】
しおりを挟むけれど、隠形の術で姿も気配も消していたのだから、徒人の私に見つけられるはずもなかったわね。
「うん。あおうめを、くってたときだ。みつなりより、すき? うずらまる、より?」
そして理解した。突然の質問の意味を。〝あの会話〟のことを尋ねられているのだと。
「光成お兄様のことは、とても好き。今も毎日、大好きって思う。だけどね、その『好き』と同じくらいの気持ちを抱ける人がね、他にも現れたの」
珠子に告げた、あれについて。
「うずら丸? 少し間違いがあるわ。間違いというより、聞き間違いね」
「きき、まちがい?」
「えぇ、そうよ」
純真なうずら丸だから、間違いはちゃんと訂正しておかなければ。
「『光成お兄様より』、ではないわよ。『光成お兄様と同じくらい』よ。私の一番は、ふたりいるの」
そう、ふたり。
大事で、大切で。その人と居ると心がぽかぽかと温まる相手は、ふたり。
「みつなりと、まもり、か? うずらまるは? うずらまるは、ちがう? ともだち、じゃない?」
「あら、うずら丸ったら」
なんて可愛らしいことを聞いてくるんだろう。膝の上で立ち上がり、たどたどしい人語で尋ねてきた相手は、真紅の瞳をゆらゆらと揺らしている。
「うずら丸、心配しないで」
だから、ぴんっと縦に伸びた白い体躯を抱きしめて告げてあげるの。
「うずら丸が、一番よ」
「うずら、まる?」
「そうよ。私が珠子に話していた、『大切なふたり』は、うずら丸と光成お兄様なの」
『大好き』で、私の胸の内を温めてくれるのは、あなたたちだけ。
「そうか。うずらまる、いちばんか。みつなりと、ふたりで、あつこの、いちばんだな。うれしい」
「私も嬉しいわ。うずら丸、私とお友だちになってくれて、ありがとう」
「じゃあ、まもりは? まもりは、にばん? なんばんめだ?」
え?
「真守様?」
どういうわけか、とても期待に満ちた目で真守様の順番を尋ねられているのだけれど、なぜかしら。
「あつこ。まもりは、なんばん?」
「真守様……真守様は……うずら丸、あのね。真守様には、順番は無いの」
真守様は、別の括りなんだもの。『好き』ではなく、『信頼』の枠。
私は、誰よりも真守様を信頼しているの。真守様だから、うずら丸を安心して預けられているのだし。
何より、光成お兄様の話題で一緒に盛り上がれる唯一の『同志』なのですもの! 同志、すなわち信頼枠!
「なんだ。じゅんばん、ないのか。まもり、ばんごうも、つけてもらえない、かわいそうなやつ、だったか」
ん?
「どうしよう。うずらまる、まもりに、わるいこと、したかも、しれない」
うずら丸?
「たまこが、みつなりに、ほうこく、してたから、おなじこと、まもりにも、いった」
「……何を?」
「あつこが、こいしてる、あいてが、まもり、だって」
「えっ?」
「うれしい、しらせ、だって。たまこ、こうふんして、ないてた。だから、まもりも、うれしくしてやろうと、おもって、おしえてやった」
え……。
「そうしたら、まもり、はなぢ、ふいた」
「……」
「いまも、やねのうえで、はなにつめた、かみを、あかくそめてる。じゅんばんも、つけてもらえない、みじめなやつ、なのに。わるいこと、した」
……どうしましょう。
「あ、あつこ。みつなりたちの、えんそう、おわったぞ。びゃくえんさまと、まもりを、よんできてやる。まってろ」
「あっ、うずら丸! 待って!」
『待ってろ』じゃないわ。あなたが待って! 待ってよ!
誤解されたまま、どうやって真守様と顔を合わせたらいいの?
「うずら丸ーっ!」
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