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ひりつく、疵(きず) 【3】
しおりを挟む「幸村さん、今日は本当にすみませんでした。おまけに駅まで送っていただくなんて……私、駄目駄目で恥ずかしい。ほんとにごめんなさい」
「あー、気にしないで。優里ちゃんだって残業してくれたんだし。それに、結果的には解決しただろ? 問題ないよ」
「でも、私があんな失敗しなかったら残業しなくても良かったのに」
「大丈夫! また明日から頑張って取り戻してくれればいいから、ね?」
「……はい」
落ち込んでる優里ちゃんを何とか励まそうとしながら、駅までの道のりをゆっくりと進んでいる。
閉店後、いつも通りにレジ合わせを始めた優里ちゃんが蒼白な顔で厨房に現れた時は、何事かと思った。
直後、『千円足りませーん』と泣き出したから、明日の仕込みを放り出して対応した。
レジ内の金額を数え直してレシートと突き合わせても合わず、さらに泣き出す優里ちゃんを宥めながら、レジ横のファイルに手を伸ばせば、そこからヒラリと千円札が落ちてきた。
それを見て、『どうして、そんなとこに』とまた泣き出すのを慰めながら、結局俺がレジ合わせを終わらせたんだ。
自営だし、最悪の場合は俺の財布から何とかすればいいと考え、先に帰っていいと言ったのに、泣きながらも残業する責任感の強い子ではある。
いつもの退勤時間ならともかく、今は酔っ払い客も増えてる時間帯だ。そう思って駅まで送っていくことにしたんだが、その道程でもまた泣き出されそうで正直弱っていた。
ああぁ……これって、俺が泣かせてるみたいな雰囲気だよなぁ。
「うーん……えっ?」
傍目には、俺たちどう見えるんだろうと目線を周囲にさまよわせた俺は、目に飛び込んできた光景に息を飲んだ。ぴたりと、その場で立ち止まってしまう。
「幸村さん? どうしたんですか?」
優里ちゃんの声が、雑音に紛れて聞こえない。
「何が……あっ、先輩さんだ! きゃーっ! ラブラブ! ラブラブだわぁっ」
「優里ちゃん、静かに! 黙って!」
叫び声を上げた優里ちゃんを抱き抱えるようにして、その場から離れる。大急ぎで。
けれど、目に焼きついた光景は、頭から離れてはくれない。
「幸村さんっ。先輩さんって、彼女いたんですね! あんな、人が多いところで堂々と抱きしめ合っちゃうくらい熱烈な恋人同士なんだぁ。いいなぁ、いいなぁ! 憧れちゃうーっ」
さっきから、脳内のノイズが酷い。
興奮気味に話す優里ちゃんの声が、途切れ途切れにしか聞こえない。
でも、何を言ってるのかは、本当はわかってた。
俺にも、それは見えていたから。
今だって、簡単に思い出せる。はっきりと。まざまざと。
先輩が、女性を抱きしめていた。きつく、きつく。とても情熱的に。
きっと、あの女性に違いない。
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