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眩しいキミに、近づきたくて。
しおりを挟む「ねぇ、さくちゃん。ママがケーキ焼いてくれたの。一緒に食べよ?」
「あ? ケーキ? お前、今日、誕生日だっけ?」
「ううん。あのね、誕生日じゃないけど、今日はケーキを食べてお祝いする日なんだって」
「ふーん。よくわかんないけど、いいよ。今から行く」
窓越しに話してたさくちゃんの影が、ミントグリーンのカーテンの向こうに消えた。おうちの人に何かを叫んでる大きな声とともに。
きっともう、うちの玄関に向かって走ってる。お隣さんだから走らなくてもいいのに、きっと走ってる。
さくちゃんは、そういう子だ。
活動的で好奇心旺盛。ちょっと乱暴だけど、明るくて元気で、いつも大勢の友だちに囲まれてるクラスの人気者だ。
地区の小学生の陸上記録を持ってるくらい、足も速い。
――ピンポーン
「おーい、ルカー! 来たぞー」
「わっ、もう来た。やっぱり速い」
階段をおりる途中、玄関から聞こえてきた呼びかけに、顔がくしゃってなった。
「はーい」
今日は、一月六日。冬休みの終わりまで、あと少し。新学期が始まったら、さくちゃんはまた皆の人気者に戻ってしまう。
その前に、『お隣さん』の特権で、たくさん仲良くしとかなくちゃ。
「うわわわっ! うんまぁーい! おばちゃん、このケーキ、すんごいうまいよっ! 最の高!」
「さくやちゃん、ありがと。ガレット・デ・ロワっていうのよ。一月六日にカトリックのお祝いで食べるケーキなの」
ふあぁ、すごい食べっぷりだ。作ったママも嬉しそう。
「あれ? ルカ、あんま食べてないじゃん。ケーキ、苦手だったか?」
「ち、違うよっ。ゆっくり食べてるだけ」
突然、さくちゃんの顔がどアップになったから慌てた。
唇にパイとクリームをつけたまんまのお間抜けな顔なのに、ドキッとした。
真っ直ぐな黒髪とキリリとした太目の眉。くるんっとした綺麗な黒瞳がすぐ近くまで寄ってきたから、見慣れてるはずなのに、心臓がすごい勢いで踊り始めた。
ほっぺに熱が集まったのを感じながら、口を開く。
「さ、さくちゃん。あのね、あのねっ。このケーキ、『当たり』があるの!」
「当たり?」
「そう。切り分けたケーキの中に一個だけ陶器の人形が入ってて、それを引いた人はその日一日、王様になれるんだって」
「それって、コレのこと?」
「あ!」
ドキドキから逃げるためにケーキの仕掛けの話をしたら、それはもう、さくちゃんのケーキから顔を出していた。
「やったぁ! 当たりだ!」
白いドレスを着た陶器の人形をつまんで嬉しそうに笑ったさくちゃんが、眩しい。すごく。
「今日一日、サクが王様だぁ!」
「違うよ。さくちゃんはお姫様でしょ? ——僕の」
「え?」
花嫁人形を握りしめたさくちゃんがアワアワと口を開け閉めするから、その唇についたクリームを指で取ってニッコリ笑ってみせた。
皆の人気者に戻る前に、今日一日だけでいいから、僕のお姫様になってね?
【了】
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*作者ご都合主義の世界観のフィクションです
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