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第四章
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しおりを挟む冬麗。今日の風は、意外にも温かい。
私は、冬が好き。晴れた冬の空が好き。
見上げた空のどこまでも透き通った蒼色は、じっと目を凝らすと柔らかな希薄さが落ち着きをくれるから、ずーっと見ていたい。
「ところで、ひかる」
「んー? なぁに?」
「チョコ、渡せたの? 麻生くんに」
「ぶふっ!」
吹き出した。ココアを。
「ちょっ、鮎佳! タイミング!」
熱々をフーフーして、そっと口に含んだ瞬間だったから大惨事にはならなかったけど、もう少しタイミングがずれてたら顔にココアをぶちまけて火傷してたかもしれない。空気の読めない親友を盛大に睨みつけた。
「ココア、吹いちゃったでしょ。火傷したらどうすんのよっ」
せっかく冬空を見上げて、まったりしてたのに!
「それは、ごめん。まさか、そんなに動揺するとは思ってなかったのよ」
「べ、別に動揺なんて……してない」
「してたじゃない。麻生くんの名前を出しただけでドリンクを吹き出した。私は、彼にチョコを渡せたのかを聞いただけなのに。義理チョコを」
「……今日の鮎佳、意地悪だ」
義理チョコって、わざわざ区切って言い直さなくてもいいじゃない。
知ってるくせに。
コンビニで買った義理チョコをさくっと渡すだけで済んでた今までのバレンタインと違って、本気チョコを手作りするという暴挙に出た今年の私のおかしなテンションを。
義理チョコに見せかけた本気チョコを凪にあげたいって思ってしまった、私のこと。
二人で一緒に作ったんだから知ってるくせに。
「意地悪、か。意地悪したつもりはないんだけど。わざと麻生くんの名前を出したのは、ひかるに思い出してもらいたいことがあるからよ」
「私に? 何を?」
何だろ。
鮎佳は、こういう思わせぶりなことを言う子じゃない。歯痒いくらい何にでも真面目で不器用な子なんだ。だから、堅物の親友に真剣に聞いた。
「何を思い出すの?」
「ひかる、もしかして忘れちゃった? 二年前、私に言ってくれたこと」
「二年、前」
「そう、二年前の秋よ。叶わない片想いをずっと引きずってた私に言ってくれた。『玉砕するってわかってて告白するのはアリだ。断られた後もジメジメ引きずっていい。引きずりながら、みっともなく前に進もう。それを支えるために私がいる。私がいることを忘れるな!』って」
「あ……」
「私を抱きしめて一緒に泣いてくれたのは、誰? ひかるでしょ? あの日のこと、忘れちゃった?」
忘れてない。覚えてる。
「あの励ましが、どれだけ私に力をくれたか。私はひかるが親友で良かったって心から思ってるのに、ひかるは忘れちゃったの?」
「忘れてないよ。ちゃんと覚えてる」
忘れるわけない。
自己評価がとんでもなく低い親友に何とか前向きになってもらいたかった。あの時のことを忘れるわけない。
「じゃあ、全く同じ言葉を私があなたに送りたいって気持ちも、わかってくれるよね?」
「鮎佳……」
「頑張れ、ひかる。まだ間に合う。せっかく作ったチョコが可哀想でしょ」
「うん」
「ほら立って。体育館に行きなさい」
「うん」
ベンチに置いた手に、鮎佳の手が触れた。ポンポンと優しい感触が手の甲に当たって立ち上がるように促されたから、素直に従う。
ボブカットの親友の前に立って、その子と同じ静かな笑みを私も返した。
「行ってくる。頑張ってみる」
「うん、いってらっしゃい。——あ、そうだ、ひかるー」
「え?」
踵を返して歩き出したところで、呼び止められた。首だけ捻って振り返ると、ひらひらと片手を振ってる親友がにっこり笑った。
鮎佳がにっこり。すごく珍しい。
「ひかるが二年前に私にくれた励まし、もう一つあった。せっかくだから、それも言いたい。聞いてから出発してくれる?」
「うん、聞く」
「何があっても私はひかるの味方だから大丈夫。安心して告白して、もしもだめだったら、ざっくりすっぱり華麗にふられてきなさい」
「うう……やっぱり、今日の鮎佳は意地悪だっ。行ってくる!」
そうだ。それも覚えてる。私、全く同文の身も蓋もない励ましも鮎佳に送ってた。二年後に、私が言われる立場になるとは思ってもみなかったなー。
「ふふっ」
脱力しながら歩く。
何があっても自分が味方だから大丈夫、かぁ。すごいパワーワードもらっちゃった。じゃあ、できるだけ頑張らなくちゃ。
大丈夫、大丈夫。頑張れ、私。
簡単よ。〝義理チョコ〟をさらりと渡すだけなんだから!
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