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キミの熱に、焦がされる。
#6
しおりを挟む「……あのさ。軍服、似合ってたよ? すっごく! 宮さまと並んでたお前、めちゃめちゃカッコ良かった。ふたり、超お似合いに見えたしっ。俺、すっげぇヤキモチ妬いたよ?」
胸に込み上げる嬉しさを口にする代わりに、別のことを伝えた。これも大事なことだと思ったから。
「お前が妬いたのか? 俺に? いつも妬いていたのは、俺のほうなのに?」
そうしたら、思いもしなかった言葉が返ってきたんだ。
「なっ、何言ってんだよ。俺のほうこそっ……俺のほうが、ずっとヤキモチ妬いてた! あの子にだって、ずっとっ……あっ!」
「は? 『あの子』って、誰だ?」
しまった。これだけは絶対に口にしないようにって、さっきから気をつけてたのに。驚きすぎて、つい口を滑らせちまった。俺、馬鹿じゃん。
俺にいっぱいキスしてくれた土岐だけど。きっと土岐は、白藤ちゃんのこと、女子の中では特別扱いしてる。そんな微妙な立ち位置にいる女の子のこと、こんな時に不用意に口に出したりして、俺ってマジで大馬鹿だ。
「武田? 言え」
うあぁ……駄目だ。めっちゃ目を細めて、見られてるっ。この目つき、怖ぇよう。
「ししっ、白藤ちゃんのこと、です。だってさ、お前、白藤ちゃんには優しいよ? この前なんか、迷わないように3年の教室までついて行ってあげてた。今日だって、軍服パラダイス終わった後、あの子がステージに駆け寄ってくの、見たもん。だから俺、つらくて、グラウンドから逃げ出したんだ」
ああぁ、こんなジメジメしたこと聞かされて、土岐、引いてんじゃねぇかな? つうか、呆れて嫌われちゃわねぇかな?
あ、それやだ。どうしようっ。どうしよう!
「噛みしめるな。唇が切れたら、どうする」
「あ……」
土岐の指が、唇に乗った。いつの間にか、きつく噛みしめてたみたいだ。
「お前、誤解してる。取りあえず、ひとつずつ答えていこうか」
え、誤解?
「まずひとつめ。白藤さんを3年の教室まで連れて行ったのは、その時、お前が秋田と文化祭の打ち合わせ中だったからだ。方向音痴の彼女のために秋田が打ち合わせを中断しようとしてたろ? そうなったらお前が困るだろうから、俺が代わりに行ってやろうとしただけだ」
……え?
「それなのに、お前までが一緒に行くって言い出したよな? それも、宮城先輩に『今日も憧れてます』って言うためだって、ほざいて。それを聞いて、俺はひどく気分が悪くなった。だから彼女だけを連れて行った。が、正解だ」
あれ?
「もうひとつ。コンテストのステージに駆け寄ってきてたのは、白藤さんだけじゃない。花宮先輩の妹も一緒に居たぞ」
「えっ、花宮ちゃんも居たん?」
「あぁ。元々、あの軍服の衣装を作ったのは花宮だからな。白藤さんは彼女につき合って、というか衣装を作った花宮に対して喜んでただけだ」
マジか。花宮ちゃんも居たなんて。俺、見えてなかったよ。
宮さまの妹で、俺と同じクラスの花宮ちゃん。高身長の宮さまとは真逆で超小柄だから、気づかなかったんかな?
いや、俺が土岐と白藤ちゃんしか見てなかったからかもしんない。
「ということで、誤解の答え合わせが終わったと思うんだが、まだ何か質問があるか?」
「あ、ありま、せん……すんましぇん」
なんか、力抜けた。全部、誤解だったとか……つか、また陰で俺のために動いてくれてたって聞かされて、口元が派手に緩んじゃう。
マジか、土岐。俺、お前に本気で好かれてるって自信、持ってもいいんかな?
「質問がないなら、俺の話も聞いてもらおうか。俺のほうが、いつもずっと色んな相手に妬いてたぞ。お前には、憧れて尊敬してる先輩がふたりも居るし。どこに行ってもムードメーカーのお前の周りには男女問わず人が集まるし、その全員に笑いかけて仲良くじゃれあったりしてるお前に、いつもすごく焦れていた。とどめは、これだ。見てみろ」
「……っ、これっ!」
「秋田が送りつけてきた。ちょうど俺がお前の代わりに軍服を身につけてる時にな」
土岐に見せられたスマホの画面。そこに表示されてるモノに絶句した。
「お前が常陸に壁ドンされて、顔を寄せ合ってる画像だ」
はい、その通り。これ、明日の出し物の宣伝用にって、秋田に無理やり撮らされたヤツです。
幽霊役の着物のまま、常陸と一緒にあんなコトやこんなコトのあれこれをヤらされた、アレな画像です。
「常陸に股を割られて、さらには腰まで撫でさせてる画像を見せられた直後に、お前から俺の居場所を尋ねるメッセージが届いた。ムカついてたのもあるし、軍服イベントが始まるまではその件を内緒にしておくつもりだったから既読スルーにしたんだ」
「そう、だったんか。てゆうか秋田、なんでお前に送りつけたりしたんかな?」
「気づいてるからに決まってるだろ? 俺の気持ちに」
「えっ?」
「でなきゃ、いくら仲間を助けるためって言っても、クラスが違う俺をアイツが二つ返事で受け入れるわけない。現に、明日は秋田が幽霊役やるだろ? 同じクラスでもない俺が濡れた着物を着てまで必死にお前のこと助けようとしてるのを、何とも言えない生温かい目で見てたよ、アイツ」
秋田ぁ……なんか色々とすごいな、アイツ。うん、これ以外の感想が浮かんでこねぇよ。
「まぁ、そんな些細なことは別にいい。それよりも、秋田がこの画像を等身大パネルにして明日の宣伝に使うらしい。クラスの行事だから終わるまでは目を瞑っておいてやるが、終わり次第、そのパネルを蹴り倒してもいいよな? ――特に、常陸の顔の部分を」
え? 秋田にバレてることは些細なことなのに、壁ドンのパネルは蹴り倒すの?
土岐、お前のほうこそ、すげぇわ。イロイロと……。
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