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終章
いい子で待て
しおりを挟む「ねぇ、いっちゃん。これ、嵌め直してくれる?」
「あ? 時計をか?」
「うん。改めて、チカをいっちゃんに繋いでよ。この〝手枷〟で」
「そういうことか。いいぞ。さらにガッチリ念入りにしといてやる」
いいのか? と聞かないところが壱琉らしい。
不敵な笑みを見せ、チカの要請に即座に応えてくれる美しい男をチカは惚れ惚れと見上げる。
はあぁ……いっちゃんって、自信満々なドヤ顔してる時が一番綺麗なんだよねぇ。性格がどれだけ悪くても、好き。ほんと好きーっ。
そうして、手早く嵌め直してもらった腕時計に唇を寄せ、微笑んだチカを壱琉も眩しく見つめる。
あー、こいつ。ほわほわ笑ってるくせに、なんでこんなに色っぽいんだ。愛らしさと艶かしさが腕組んでラインダンス踊ってんじゃねぇか。俺のチカ、マジで最高に可愛い。
「ところで、いっちゃん」
互いへの盲目愛コメントがそれぞれの脳内で一段落した後、壱琉の袖を控えめに引いたチカが真剣な表情を見せた。
「なんだ。まだ何かあるのか」
「えーとね。ついでだから、もう一つの告白もさせてくれる?」
「ん? もう一つ?」
「チカがウィーンに出発する日なんだけど。実は、もう決まってるの。三月三日なんだ」
「は? さんがつ、みっか?」
「いっちゃんの誕生日なのに、離れ離れになる記念日にしてごめんね。でも、新生活への旅立ちだから、チカ的に気合を入れるのにもちょうどいいかなと思って」
「や、待て。そんなに早く行くのか? せめて三月いっぱいは……」
「あ、いっちゃんの誕生パーティーはちゃんと前日に盛大に行う予定だよー。心配しないでっ」
「違う。そっちじゃない」
「あー、スッキリしたー。これで全部言えたよー。ウィーン行きを快く後押ししてくれたいっちゃんのおかげだね。ありがと。大好きっ」
「待て、チカっ」
「いっちゃん、違うよ。待つのは二人で、だよ。いっちゃんとチカが二人で歩める未来を、二人で待つんでしょ?」
「お前……俺にも、いい子にして待ってろって言ってんのか?」
「もちろんだよ。凶悪な表情が一番綺麗ないっちゃんがチカ限定で『いい子』になってくれるなんて、最高の餞別だもんっ」
——いい子で待て。
壱琉がくれたパワーワードを大事に抱えて、チカは朗らかに笑う。
多少の問題は確かに残っている。ただそこにいるだけで女性を惹きつけてしまう壱琉の困ったフェロモン体質や、これまでチカが管理してきた彼の食事内容や健康状態など。気がかりが無いとは言えない。
けれど、二人の幸せな未来はもう確定している。
その日も、チカの手には壱琉の腕時計が嵌まっているだろう。何があっても二人を繋ぎ続ける、愛の枷が。
【了】
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