百戦錬磨のバードは美味なる籠絡に首ったけ!

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
3 / 12

吟遊詩人(バード)の決意

しおりを挟む


 港町ルーンの湾外には、一箇所だけ、他とは逆回りになる海流地点がある。

 そこは常に白波を高く散らし、うねりと風音を絶え間なく巻き起こしているのだという。

 陸路でルーンへやってきた僕は、その現場を見たことがない。

 水平線から昇る曙光の色に染まり始めた港で既に立ち働いている、金髪碧眼の船乗りや褐色の肌の行商人を見やり、羨ましく思う。

 この早起きの働き者たちなら見たことがあるんだろうなぁ、と。

「次は海路にしてみるかな。いや、その前にまずファナを口説き落とさないとだよ。さて、仮眠、仮眠」

 目に映る全てが次から次へと朝陽の金色《こんじき》に美しく燃えていく光景に目を眇めつつ、うーんっとその場で大きく伸びをした。

 朝まで続く資産家邸の宴での荒稼ぎを終えた身には、清冽な曙光は少々眩しい。

「ふあぁ、眠ぅ……」

「――おい、聞いたか? 昨夜は、水晶楼の歌姫が狙われたらしいぞ」

「例の盗賊か? で、歌姫は無事なのかっ? まさか、その前の被害者のように大怪我を負ったり――」

 ……ん?

 濃い潮の香りをぶつけてくる風を吸い込みつつ、大きく欠伸をした僕の背後で交わされ始めた物騒な会話に、思わず聞き耳を立てた。

「気の毒に、溜め込んだ宝石を守るために抵抗して手首を折られたそうだ」

「あぁ、可哀想に。ここのところ毎晩じゃないか。ひとり暮らしの美女ばかり狙う、盗賊騒ぎ……うわっ!」

「親父さんたち! その話、もっと詳しくっ!」

 開店準備中の肉屋と魚屋のご主人の会話に、強引に割り込む。

「盗賊騒ぎって、何? なぜ、ひとり暮らしの美女ばかりが狙われてるの? じゃあ、次はファナっ? ファナしかいないじゃないかぁーっ!」

「ちょっ。兄ちゃん、落ち着きなよ。ファナって、『小麦と酵母亭』の豪快な女主人だろ? 確かに美人だけどさぁ」

「そうそう。男勝りで大酒飲みだから、いくら美人でも狙われるわけない……あ、いや、すぐに狙われる……と思う。なぁ、魚屋っ?」

「お、おう。そうだな。次に狙われる美女は、きっとファナに違いない。なっ、肉屋!」

 よし。燃え滾るファナへの愛情を、おじさん二人への冷え冷えとした恫喝の眼差しに変換してみたら、簡単に同意を得られた。

 そうだろう。そうだろう。どっかの強欲な歌姫よりも、僕のファナのほうが断然、魅力的なんだよ。

 ついでに、盗賊の情報をペラペラと教えてくれたおじさんたちに御礼を言って、即座にその場を立ち去る。

 呑気に朝帰りなんてしてる場合じゃなかった。ファナの身に危険が迫ってたのに、僕の馬鹿やろう。

 そして盗賊め、許さん!

「か弱くて美しいファナは、僕が守るっ。盗賊! だめ! ぜったいっ!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

処理中です...