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恋の作法 【1】
しおりを挟む「……はあぁ……」
一日の終わりを告げる夕焼けに、星の瞬きを乗せた藍色の覆布《おおい》が一気に掛かる。
夜の訪れはあっという間だ。神殿の尖塔の傍らからは、満月も昇り始めている。
ただ静黙していたつもりが、知らず、深い溜め息をついてしまっていた。
「あー、参ったなぁ。にべもないって、ああいうことを言うんだなぁ」
声を抑えた低いぼやきが、密かに夕闇に溶けゆく。
ぼやきの原因は、ほんの数刻前のファナとのやり取り。
『お前は、ただの客。傍に居られるのも迷惑でしかない』とはっきり言い切られ、護衛の申し出を断られてしまった。すこぶる冷淡、素っ気ない態度で。
でもさぁ、そう言われても、僕は『うん』なんて頷けないよ。
厭わしげな表情を向けられたことで落ち込んだりしたけど、それは僕の都合。ファナは悪くない。
何より、僕にとっての最優先事項はファナの安全! これに尽きる!
だから、ファナに見つからないよう陰ながら護衛しようと、閉店後、店の裏手にある彼女の家の庭に忍び込んだ。
たぶん寝室だと思われる部屋の窓の下、ハーブの茂みの中で夜明かしだ。
しばらく本業は休むことにした。呑気に歌ってる場合じゃないよ。
金儲けよりも、愛! ファナ愛!
街の自警団に盗賊が捕まるか、もしくは、のこのこと僕の前に現れたそいつを僕が自らボコボコにぶちのめしてやるか。
とにかくファナの安全が確保されるまでは、極秘警備任務を遂行する。
だってさー、好きなんだ。あの、とことんつれない美女のことが、僕はこんなにも好きなのだから。
「――本当は、こんなにも好き。好きよ、好き。大好き」
……え?
潮の香りを運んでくる風が、鼓膜に届けてきた言葉。それは、自身の想いと余りにも酷似していたけれど、自らが放った声ではない。
強いて言えば、愛する人の声だけど。そんなわけはないから、きっと空耳……。
「シン、ごめんなさい。心にもないことを言ってしまって。あたし、本当は、あなたのことが大好きなのに」
「……っ」
――ドクンッ!
星降る藍色の空に向け、木扉が開け放たれた窓。つまり、僕が潜んでいる茂みの真上から落ちてきた艶やかな掠れ声に、鼓動が跳ね上がった。
これは、まさかっ……?
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