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その瞬間 【3】
しおりを挟む普段は人型を保っているが、満月の夜、月光を浴びると獣の姿に変化する希少種族。
そりゃ、すごく驚いたけどさ。大した問題じゃないよ。
「ねぇ、ファナ? 盗賊の鞭で足を拘束されてるあなたが目に入った時、僕はあなたが人狼族だって、すぐに認識してたんだよ」
「え……」
「確かに衝撃を受けたけど。それよりも、僕の愛する人に暴行を働いてる賊への怒りで頭がはち切れそうになった。で、今は、あなたへの愛おしさしか感じないよ?」
「……嘘。信じられない。だって、知ってるんでしょ? あたしは、もうすぐ……」
「うん、知ってる。満月が人狼に及ぼす作用のことは。真円の月光を浴びると徐々に完全な狼へと姿が変わっていくんだろ? だから、おいで?」
微笑みながら両手を伸ばした。黒毛の耳をくたりと折り、涙で睫毛を濡らしてる愛しい相手に。
「え?」
「僕の腕の中で、『その瞬間』を迎えればいい。泣かなくていいんだ。これからずっと、満月の夜は僕が抱いていてあげる――――あなたに惚れ抜いてる僕が」
「シンっ!」
闇夜に、白銀がひらめいた。
愛する人の姿が輪郭を失いながら宙に飛び、零した涙が煌めき降る。
「ファナっ」
雲間から零れ落ちてくる、さやけき月光のもと。僕の腕の中に、しなやかな獣が落ちてきた。
その身を包んでいるのは、月影の銀雫を弾いて光る、濃密な漆黒。
「やっと捕まえた」
そっと抱きしめ、すべらかな被毛に顔を埋める。鼻腔をくすぐる薫香に、これが宿命の蜜かと戦慄く。
「ファナ」
なんて愛おしいのだろう。
「僕のファナ」
僕だけの、妖しくも美しき黒狼。
「――愛してる」
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