からくれないに、色づいて【Eternity -エタニティ- シリーズ】

冴月希衣@商業BL販売中

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「ねぇ。今日は、どこの発掘現場に行ってたん?」

「んー? 今日は、桜井市だ」

 学校帰りの初琉に『突撃お迎え大作戦』を決行して、数日。

 俺が駅で待ち構えてることに慣れたのか、それとも諦めたのか。最初は少しぎこちなかった笑顔が徐々に柔らかくなってきて、帰り道の会話もスムーズに進むようになってきていた。

 が、本当に並んで歩くだけ。駅でふざけて肩を抱いたり、腰を攫ってからかったりする以外、何の触れ合いもない。

 帰り道では、手すら繋いだことはない。ウブな中坊かよ、全く。

「ふーん、桜井ってお隣やん。でも、まだ暑いから作業は大変やったんちゃうの?」

「あぁ、汗だく。溶けるかと思ったぜ。マジで」

「あははっ。汗だくの零央とか、想像出来ひんわ」

「あ? 一度見てんだろうが。芋掘りの時に」

「あの時は、汗というより土まみれやったやん。すごかったわぁ、あの汚れよう!」

 軽く吹き出したまま、こちらを見上げてくる。気を許してくれてると錯覚するような無防備な笑みが、俺の心をざわめかせる。

 ……手、繋ぎてぇな。

「明日も残暑が厳しいらしいけど、また発掘調査?」

 俺を振り仰ぐ、無垢な瞳。甘く疼く感情を何とか押し込めて、その光を見つめ返す。

 あー、息苦しい。

「んー? 明日は考古学研究所。一日中、缶詰だよ」

 が、胸を締めつける息苦しさに喘いでいることは初琉には気取らせない。見せるのは、暢気で涼しげ、余裕たっぷりの笑みだ。

「考古学研究所? あぁ、本の閲覧許可が出たんやね」

「おー。たまには、冷房の効いてる場所でお勉強してくるぜ」

 俺が奈良に来た目的は、ふたつ。メインは、橿原考古学研究所の発掘調査への参加。それ以外の時間に、研究所が所蔵している発掘報告書や考古学研究の専門図書を閲覧して、自分の研究に役立てている。

 初琉の父。榊教授の紹介のおかげで、どちらの研究活動も捗っている。ありがたいことだ。

「ふふっ。お勉強、頑張ってきてね。なんたって、普段は炎天下での作業を頑張ってるんやもんねぇ?」

 お? いたずらめいた表情も可愛いじゃねぇか。こいつめ。

 乗ってやるとするか。

「おー、初琉。お前、俺のこと良くわかってんじゃねぇか」

「もっちろんよ。ま、九割、お世辞やけどねー」

「あ? ふざけんな」

「あははっ!」

 愛らしく笑み崩れた初琉の髪に、どさくさ紛れに手を伸ばしてやる。

 その俺の手を首を竦めてかわすだろうことは予測済みだから、もう片方の腕で囲い込む。

 捕まえた。

「……何、するん?」

 戸惑った声の主と、間近で目線が合う。

 柔く傾いた夕陽が、俺たちの顔も腕も衣服も、全てを茜色に染め始める。

 気楽ななごみから、声すら出せない緊張へ。無言で絡め合った視線が、場の空気を一変させた気がした。


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