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ありがとう #4
しおりを挟む握りしめ過ぎて、感覚を失いかけてる手。それをいったん緩める。痺れの残った指先を初琉の背中に向けて持ち上げてみるが、肝心の口が何の役にも立たない。
また、力なく下におろしては、ぎゅっと握りしめる。
何、やってんだ。全く。
それでも、もう一度、手を伸ばしたくて。俯いて歩く薄い肩を見つめ続けるが、自然と開いてしまった三メートル程の距離を縮めることが出来ない。
情けない。何も出来ずにいるうちに、榊家の長い門塀が見えてきてしまった。
いよいよ焦り出すが、せき止められてしまったかのように、声が出ない。
待て。待ってくれ。初琉!
その願いが通じたのか。それまで、ずっと同じ速度で歩き続けていた初琉の足が、門の手前でぴたりと止まった。
待ってくれと願っていたのに、突然のことに身体の反応は遅れて。二、三歩ほどの距離まで間を詰めてから、俺も立ち止まった。
歩みは止まったが、変わらずに無言で前を向いたままの初琉の後ろ姿には声がかけられない。ただ、見つめる。
もしかして、もう二度と話しかけるなとでも言われるんだろうか。顔も見たくないとか?
「ねぇねぇ! 明日、お弁当どうする? 要るっ?」
……は?
俺に背を向けたまま、初琉が声を発した。少し張り上げた声が、門塀から跳ね返って俺の耳に届く。
この場の、というより、俺たちが置かれてる状況には全く似つかわしくない明るい問いかけに、脳の処理能力が追いついていかない。
むしろ、聞き間違いなんじゃないかと、そっちに記憶をスライドさせかける。空耳だったか、と。
「ねぇ、お弁当要るの? 要らんの? どっちなん? 早よ、返事してくれるっ?」
直後、勢いよく振り向いた小さな身体から、少々逆ギレ気味の鋭い声が飛んできた。
近いはずなのに、両手を伸ばしても届かないだろう微妙な距離。
実際には、そこに手を伸ばすどころか、声すら発せずに見おろすだけだ。
脇に下ろした手をぎゅっと握りしめて。紅潮した頬と、力を入れたように見開いた瞳で、真っ直ぐに俺を見上げてくる。必死な様子が窺えるその姿に、胸がじんと熱くなる。
初琉……これは、お前から歩み寄ってくれてると思っていいのか? なら、俺は何も無かった体で、それに応じるだけでいいんだな?
けど、何だかなぁ。これじゃあ、マジで俺、情けないよな。
でもさぁ。お前が良い女すぎんのが、悪いんだからな?
だから、もう一度、笑いかけてくれよ。カッコ悪い俺に、もう一度……。
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