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決意 #1
しおりを挟む「――旨い! 外で食う弁当って、マジでうめぇなぁ」
「何か引っかかりを覚える発言やけど……美味しいって言うてはるから、取りあえず許しとくわ」
「ははっ! 許してくれるんだ」
並び立つ樹林に囲まれた空間に、俺と初琉の軽快なやり取りが響く。
橿原神宮の敷地内にある森林遊苑。大和三山のひとつ、畝傍山を正面に望める芝生広場で、ふたり仲良く昼ご飯中。
手作り弁当のランチデートなんて、初めてだ。
昼飯をここで、というのは初琉の提案。考古学研究所の最寄り駅で待ち合わせした後、先に参拝を済ませてから芝生広場まで来た。
さわさわと流れる風の音や、木々の葉ずれの音。木漏れ日が芝生の緑に落とすグラデーションの美しさ。自然に囲まれて、好きな女の手作り弁当を食う。なんだ、これ。最高か。
約束通り、というか、俺の注文通りに握ってくれたおにぎりを大満足で頬張っている。
「おかずも、どれも旨い! お前、なんで俺が食いたいと思ってたもの、わかったんだ?」
「え? あ……あー。たまたまよ、たまたまっ!」
「そっか。『たまたま』か。偶然に感謝だな。とにかく、全部旨い。から揚げも、出汁巻き玉子も」
彩りよく盛りつけられたおかずの中から好物の出汁巻き玉子をひと切れ取って、また口に放り込む。
うーん、うめぇ。口内に広がる出汁の香りと塩加減が、本当に俺の好みだ。
「良かった。お口に合って……ちなみに、から揚げちゃうよ。竜田揚げ」
『お、そうか。竜田揚げっつーのか。なぁ、この出汁巻き玉子の中に入ってるのは刻みネギか? 苦味が無くていいな』
「うん、九条ネギ。甘味が出てるでしょ? 零央、甘い卵焼きは苦手って言ってたけど、出汁の利いた甘味なら大丈夫と思って」
「ん。めっちゃ旨い。色々、考えて作ってくれたのか? サンキューな」
「ふふっ。褒めてくれるのは嬉しいけど、ちゃんと噛んでから喋ってよ?」
おにぎりに海苔を巻いて渡してくれる初琉が、本当に嬉しそうに微笑んでるから。
「このおにぎりも、マジで旨い。なぁ、時々でいいから、弁当作ってくんねぇかな? おにぎりだけでもいいからさ」
少しだけ、我が儘を言ってみた。
「お、お弁当? 零央に?」
「ん。本当に、おにぎりだけでいいんだよ。駄目か? もちろん、作れる時だけでいいんだけど」
「うん、ええよ。大丈夫」
「マジっ? やった!」
言った後に、ちょっと喜びすぎたか? と思ったが、もう取り消せない。実際、嬉しかったしな。あまり迷わずに承諾してくれたことも嬉しかった。
「あ……でも、いつも作れるとは限らへんよ? あと、お弁当の中身も、そんなに期待せんといてね」
「あぁ、わかってる。お前の都合のいい時に頼む」
初琉が、俺のために時間を使ってくれる。たったこれだけのことが、こんなにも嬉しい。
今まで関わってきた女とは、こんなやり取りも感情もすっ飛ばしてきたんだと、今更ながらに思い知る。
初琉の恥ずかしそうな笑みを目にして、俺も自然に口元が綻んだ。
お前が笑うと、嬉しい。ただ、嬉しい。こんなふわふわした気持ちは、初めてだ。
俺、マジで中坊かよ。そう、自分に突っ込みを入れつつ、胸の中をかき回してくる疼きの甘さに耐える。
これが……この感情が恋、か。気づいてしまった今は、むず痒くて居たたまれない。
もどかしくも切なく、自制していても時に迸ってしまいそうな熱情。これが、俺の『初恋』なのか。
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