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小さな手 #4

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 手首ごと握り込んだ小さな手を引っ張り、口元にもってきた。

 はぁ、と息をかけ、手の甲から指先へと、そっと撫でさする。

「……ぁ、っ」

 ぴくんと指先を震わせる反応とともに、あえかな声だけを発した初琉は、俺と合わせた視線を外さない。

 俺も、外さない。張りつめた空気の中、時が過ぎる――。

「――はーちゃん? 悪いけど、二階にコーヒーを運んでもらえるー?」


――びくんっ

 キッチンから飛んできた奥さんの声に、ふたり揃って、あからさまに身体をびくつかせた。

「あっ! う、うんっ。すぐ行く!」

 しっかりと包んでいたはずの手は、呆気ないほどに、するりと離れていく。

 慌てて急須を持ち上げ、駆け去っていく背中を、今度はじっと見送った。

 やべっ。家の中だってこと、フツーに忘れてたぜ。

 息をすることさえ憚られるような、静かで濃密なひと時だった。

「震え、おさまったんだろうか」

 あんな、俺の胸まで軋みそうな、頼りなく切ない表情で手を震わせて……何が、あった?

 もう少し温めてやれたら、良かったのにな。

 小さく溜め息を落とし、すっかり冷めきってしまったお茶に、ゆっくりと口をつける。

「あ、旨い。さっぱりしてるな」

 地元栽培だという、冷めていても口当たりの良い焙じ茶を味わいつつ、思考を巡らせていく。

 あの瞳。俺を真っ直ぐに見つめ返した瞳に浮かんでいた、あの“色”。あれは、どう控えめに受け取っても、俺の自惚れにはならないはずだ。

 どういうことだ? 十束は、特定の相手じゃないのか?

 まぁ、彼氏がいても俺に言い寄ってきた女はゴロゴロいたわけだけど。むしろ、そんな女たちだからこそ後腐れもなく、俺も気楽に遊べたんだが……。初琉は、そういう遊びを楽しめる女じゃない。

 俺がそう思いたいだけなのかもしれないが。さっき俺に見せてくれた“色”とは別の、思いつめたような表情が頭から離れない。

「俺……今夜、眠れんのか?」

  知らず漏れ出てしまう溜め息を抑え込むついでに、残りのお茶を一気に飲み干した。

 身体的にも精神的にも、今夜は腹いっぱいだ。



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