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秋祭りの夜 #2
しおりを挟む「零央くん。今日もお疲れさん」
「いえ、ありがとうございます。いただきます」
今夜の晩飯は、榊先生、奥さん、初琉と俺の四人。榊教授は明日まで不在だ。
「今日は、どないやったかな?」
「はい。実は、黒塚古墳の調査記録で三角縁神獣鏡の――」
榊先生の、教授よりはいくぶんフランクな声かけに、その日の成果と疑問点、自分なりの考察について話を進めていく。
「零央くん。今日の餃子ね、はーちゃんが『二種類作る!』言うて、張り切って作ったんよー。ちょっと量が多いけど、零央くんのために作ったから食べてやってね」
「おばあちゃん! 別に零央のために張り切ったわけちゃうしっ」
「あ、どれも美味しいです」
本当に旨い。連日の屋外での作業で、さすがに残暑の疲れも溜まってきていたが、このエネルギー補給で明日も頑張れそうだ。
ここに滞在するようになって、約一ヶ月。ひとつ、変わったことがある。
初琉が家族の前でもそう呼ぶからか、榊家の皆さんからの呼び名が、気づけば『宮城くん』から『零央くん』に変わっていた。
あ、そうだ。“あのこと”を報告しとかねぇとな。
「榊先生、ひとつ御報告しておきたいことがあるのですが」
「ん? なんや?」
食器を下げる手伝いを終わらせ、食後のお茶を待っている榊先生の傍らに立った。
「来週の火曜と水曜なんですが、研究室の教授の講演会が大阪であるんです。泊まりで行ってきたいと思いますので、よろしくお願いします」
「あぁ、石川くんか。行っといで。私もよろしく言うてたと伝えといてくれるか?」
「はい、ありがとうございます。榊教授には、明日お戻りになられたら御報告させていただきますので」
大阪の大学で行われる、石川教授の講演会。奈良から大阪への移動だから、俺は二日間とも日帰りで行くつもりだった。
が、今日の夕方になって、『自分も大阪に行くから、夜に現地で飲もう』と飯田から誘いがあって泊まりで行くことにした。
ひと月ぶりの飲み会もだが、島根県で研究活動をしてるアイツの話を聞くのも楽しみだ。
「お茶、ご馳走様でした」
奥さんにも報告しなくてはと、湯呑みを持ってキッチンに入る。
「あ、わざわざありがとうね。零央くん」
「いえ。ところで、先生には先ほど御報告したんですが、来週の火曜から水曜にかけて大阪に泊まりで出かけてきますので、よろしくお願いします」
「えっ、火曜日っ?」
え?
食器を洗っていた初琉が、奥さんよりも先に反応したことに驚いた。
何だ?
「そう。ほな、来週の火曜日は夕飯は要らんてことやね。水曜日は、どう?」
「あ、同じ研究室の友人と一緒に行動しますので、水曜日も外食してきます。そんなに遅くならないように帰ってきますので。すみません」
「かまへんよー。お友だちとひさしぶりに会うんやから、ゆっくりしてきたらええわ」
俺を振り向いた初琉が気になったが、奥さんに視線を移して頭を下げる。
そして頭を上げて初琉を見た時には、もう背中が向けられていたために、その表情を窺うことはもう出来なかった。
初琉? 今の反応は、何だったんだ?
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