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秋祭りの夜 #3
しおりを挟む――コンコン
「はい」
「……零央?」
――ドカッ
――ガチャッ!
「……よう、どうした?」
いってぇ! 思いがけない初琉の声に慌てて立ち上がって、座卓に足ぶつけたぜ。
ジンジンと疼く小指の痛みを堪えて涼しい笑みを作るとか、俺も相当なカッコつけだ。
「あ、あの……梨、切ったんやけど」
「お、梨か。サンキュ」
「うん……」
ん?
時々、こんな風に果物やケーキを夜に差し入れてくれる初琉だが、いつもならトレイを渡すなりすぐに立ち去ってしまうのに、今夜は少し違う。
梨を乗せたトレイを持って俯いたままだ。
「初琉? どうした?」
「あ、ううん。何にもないよ? はい、吉野の梨やから味わって食べてね」
「吉野? 吉野は、梨も採れるのか?」
「うん。甘くて美味しいって、この辺では有名なんよ? これは、そうちゃ……梨狩りに行った人からのお土産やけど」
「……へぇ」
今、「そうちゃん」って言いかけたよな。これ、十束の土産かよ。
まぁ、いい。旨いもんに罪はないからな。ありがたく貰っとくぜ。
「そしたら、お勉強頑張ってね。……あ、そうや。おばあちゃんに聞くように言われたんやけど。来週の水曜日って、帰宅時間わかる?」
「あー、たぶん九時過ぎかぁ? 奥さんに外食するって言っちまったし。ダチと晩飯食ってから帰ってくるわ」
ドアを閉めながら聞かれた質問に、ひさびさに会う飯田の顔を思い浮かべて、少し笑いながら答える。
俺に、本気で想う女が出来たことを言ったら、アイツどんな反応すんだろ。
「そっかー。九時……うん、わかった。伝えとくね。ほな、おやすみー」
「おやすみ。寝る前に、梨のドカ食いすんじゃねぇぞ」
「せえへんよ! 夜は、半分にしとくもん」
「ふはっ! 半分は食うのかよ。何なら、ここで食ってく? 口開けたら食わせてやるぞ? 膝の上で」
「ばっ……なっ、何をアホなこと言うてはりますのん?」
「あははっ! 『ますのん』って何だよ、お前!」
堪んねぇな、全く。
真っ赤な顔の初琉を更にからかう。ほんのひと時でも、こうして話せることが、笑顔を見られることが嬉しい。
よし、十束の梨に対抗するわけじゃねぇけど。大阪で人気のスイーツでも買ってきてやるか。
喜ぶかな? コイツ。
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