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秋祭りの夜 #4
しおりを挟む「おーい! 宮城。こっちだ」
改札口を出ると、大きく手を振ってきてる飯田を人混みの中に見つけた。というか、俺がすぐに見つかったのか。
「よう、ひさしぶり」
「おー、ひと月ぶりだな。元気にやってたか? 奈良はどうだ? てゆうか宮城、いい感じに日焼けして更にイケメン度が上がってないか?」
ひと月ぶりの再会。それほどひさしぶりというわけでもないが、年長者に囲まれての研究活動が続いていたせいか、仲間に会えるのは素直に嬉しいと感じられる。
「あ? 日焼けならお前も負けてねぇだろ。お前こそ、念願の出雲での研究だろ? いろいろ聞かせてくれよ」
飯田の屈託のない笑顔を見ると、ほっと気が緩む。
「あぁ、毎日充実してるよ。けど、榊教授のところで研究出来てるお前も羨ましいよ。俺も石川教授に紹介をお願いしようかな? それで明日香村の……」
「お前は、駄目。許さん」
「え?」
あ、しまった。つい……。
「えぇっ? お前がぁ? 嘘だろ! マジか、マジかっ!」
「おい、声がでけぇぞ。もっと抑えろ」
一応、注意したが。もう、遅ぇな。
乗り換えの地下鉄のホーム。そこに飯田の叫び声が響いたことで、周囲からの冷たい視線と失笑の対象になってしまった。
「あ、悪い。けど、驚くなってほうが無理だって。あの、誰にも落ちないことで有名なお前が、こともあろうに片想い! だぞ?」
おい、『あの』って何だ。あと、『片想い』を強調すんな。胸に刺さるわ。
「しかも、その相手が榊教授のお嬢さんで。ひとつ屋根の下で一緒に暮らしてるのに、まだ手を出してないとか聞かされたら、悪い夢でも見てる気分になるじゃないか」
……ほう。なら、本物の悪夢を今から見せてやろうか?
「中学の頃から、遊び相手は女子大生だったお前が? 告白もしないで、仲良く手を繋いで歩くだけで満足してるとか有り得ないし。むしろ、ちょっとお気の毒……うっ、ぐふっ!」
「黙れ――――それ以上、喋ったら、ここ潰すぞ。どうだ? まだ何か言うつもりか?」
相手の喉仏にかけた親指にグッと力を込めて薄く笑ってみせると、怯えた目で何度も首を横に振ってきた。
よし、俺は優しいからな。素直なヤツは、すぐに許してやろう。
「それにしても、意外だったのは本当だぞ?」
喉をすりすりとさすりながら、「言い過ぎた、悪い」と謝った相手が苦笑してる。
「あー、まぁ……だろうな」
俺自身もそう思ってるからな。
「けど――“出逢い”って、そういうもんだろ?」
「うわ……何、その超絶イケメンな微笑み」
口に片手を当てた飯田が、「うっかり惚れそうになるから、やめてくれ。心臓に悪い」と呟いて顔を背けた。
「馬鹿か」
本気で照れてるらしい飯田に冷たい視線を投げかけ、地下鉄の窓に目線を戻す。走行中のそこに映る、吊革を持った自分の顔の横に、初琉の姿を思い浮かべた。
初琉は、俺の見た目で釣れるような女じゃない。とは言っても、最近は少なからずこの容姿に反応してくれてるのにも気づいてはいる。
が、十束とも変わらずに親密だ。定期的に榊家を訪れるアイツとは、単なる親戚とは思えない近さがあるんだと、見てるだけで伝わってくる。
十束のほうは、初琉に惚れてるって丸わかりだが(だから尚更ムカつく)、初琉はどうなのか――。
自惚れたい気持ちとは裏腹に。はっきり見えない初琉の心の在処に、焦れるように想いを馳せた。
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