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宣言 #2
しおりを挟む「初琉? 目、覚めたのか?」
普通に喋ったはずの俺の声は、びっくりするくらい小さく、かすれていた。
これじゃ聞こえなかっただろう。もう一度、同じ台詞を口にしようと息を吸い込んだ時。
「……零、央?」
俺を呼ぶ、愛しい声が聞こえてきた。
「良かったぁ……まだ、居て……くれ、て……」
か細く、途切れ途切れだが、確かに話しかけてくれてる。何より、目が覚めて俺を認識してくれた。もう、それだけで言葉に出来ないくらいの喜びなんだ。
まぶたの奥が、熱い。
「初琉……」
まさか、自分が嬉し涙を流すような人間だったとは。
じわりと浮かんできた涙よりも、そっちのほうが信じられず、涙をそのままに狼狽えてしまう。
「でも……また、行くん?」
「え?」
そのせいか、初琉の言葉を理解出来ずに混乱した。
「行ってしまうん? あの人……のほうが、綺麗やから」
……は? あの人? 誰のことだ。何、言ってる?
「おい、初琉? お前、本当に起きてるのか?」
ベッドに身を寄せ、顔を覗き込んだ。
か細い声で淡々と続けられる言葉は、まるで譫言のよう。覚醒したと思ったのは、勘違いだったのかもしれないと不安になったからだ。
「お化粧も……服装も……私なんかとは、全然違う。綺麗で……お洒落な美人さん、やもんねぇ。私も、あんな風に……なれたら、なぁ」
意味不明な内容が弱々しく告げられ、最後に大きく息をついて、静かになった。
「おい」
また意識を失うんじゃないか? 心配になって、中腰のままベッドに手をつく。もう片方の手を初琉の頬に添えた。
「そしたら……私も、零央と並んで、歩ける、のに……」
は? いつも駅から並んで歩いてんじゃ……。
「零央、に……釣り合う、女の子に……なれる、のになぁ」
「……っ」
「でも……やっぱり、無理やねぇ。いくら見た目を……服装や髪型を、真似しても……健康な、身体にはなれへん、もん。無理……張り合っても、無理やわ」
無理、と数回繰り返した初琉の表情に胸が詰まる。こういうのを『痛い』って表現するのか? ぎゅっと心臓を鷲掴みされたような、息苦しい感じ。
痛い、痛い。こんな表情の初琉を見たくない。
が、ここまで聞いてしまえば、初琉にこの表情をさせてる原因は俺だとわかる。秋祭りの神社で、俺とあの女が一緒にいる現場を初琉はどこかで見てたんだ。
自販機の前で十束と遭遇した前後か……初琉が口にした『綺麗でお洒落な美人さん』は、あの強烈な派手女のことなんだろう。
くそっ。地元の秋祭りに初琉が出向く可能性を一度も考えなかった自分をひどく呪う。が、俺が最優先ですべきことは、言い訳でも後悔でもない。
「初琉、何も気にするな。お前はそのままでいい。ありのままの、飾らないお前自身に俺は惚れてるんだ。お前しか見えてない。誰よりも――――お前だけが、こんなにも愛おしいんだぞ?」
何だ、これは。有り得ないくらい恥ずかしい台詞が、するすると出てくる。俺、こんなキャラじゃないんだぞ。
「ふふっ……夢の中の零央は……いっつも、優しいわぁ。ほんま……優しくて、嬉しい、なぁ」
夢だと思ってる? あぁ。だから、か。だから、こんなにも素直に心の内を見せてくれてるのか。
「おい。現実の俺のほうが、段違いに優しいっつーの」
夢の中の俺は優しいと笑った初琉の表情が、胸を抉る。そこに初琉の諦めを感じたから。
同時に、不謹慎にも、じわじわと湧き上がる喜びにも浸る。夢の中の俺に、幸せを見いだしてくれていたことに。
「私ね? 零央と、行きたかった、んよ? お祭り」
あ……。
「でも、今、ここにいてくれてるから……もう……寂しく、ないわ。すごく嬉しい、もん」
「……悪かった。一緒に行けなくてごめんな?」
俺を、もどかしくも悩ましく打ちのめしてきた恋情が。同じ想いが初琉の中にもあった。
俺こそが、初琉の隣に立つにふさわしい男になりたいのに。俺に釣り合いたい、だなんて……そんな可愛いことを言うのか。
「……っ、この馬鹿やろ」
もう、熱く込み上げてくるものを我慢しなかった。
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