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宣言 #3
しおりを挟む愛しい寝顔を見つめていられる時間は、そう長くは続かなかった。
初琉が眠りに落ちた後、気持ちを立て直した俺が濡れた頬を拭い終わってすぐ。榊教授と榊先生、それに先生の奥さんが揃って病室に入ってきた。
それに合わせたかのように十束も入室してきたから、家族だけで話しやすいよう、病室を出ることにした。
あぁ……どうすっかなぁ、この後。居候の身としての当たり前の行動としては、ここでの役割はもうないわけだから、先に帰宅するべきなんだろう。
が、本音を言えば、まだここに居たい。初琉が目覚めた時、すぐに声をかけられるよう、傍についていてやりたい。
けれど、今の俺には、その資格もなければ、そんな立場でもない。奥さんがここに来たということは、付き添いをされるつもりで来られたと理解していい。
だが、もう少しだけ。せめて、もう一度、アイツの声を聞きたい。俺の名を、呼んでほしい。
「――宮城くん、ちょっと良いですか?」
「あ?」
未練がましく見つめていた病室のドアが、静かに開いた。ドアの手前には、十束。
「では、宮城くんと少し出てきますが、すぐに戻りますので」
病室内の教授たちに声をかけた男が、目線だけを俺に寄越して廊下を進んでいく。
あ? おい、待て。ついて来いってことか。俺、返事してないだろ!
当然ついてくるだろうと言わんばかりの白衣の後ろ姿に苛ついたが。数秒前、十束が開けたドアの向こう側で、白衣の肩越しに榊教授と目が合った。その時、教授が俺を見ながら軽く頷いていた。
だから、黙って白衣の後に続く。
なぁ、これって、そういうことか? 俺に話があるってことか? 今、このタイミングで、ということは――――初琉に関する内容か?
無言で廊下を行く十束になのか。それとも、病室で待つ教授になのか。どちらへの問いかけなのか、自分でもあやふやなまま歩む。
胸中は疑問符だらけだ。
「こちらに」
ひと声残してドアを開けた十束に続いて、星空を見上げるテラスに出ていた。
フェンスの手前までノンストップで進んだ十束が、その場で足を止める。
「君、もう気づいてますか? この病棟のこと」
振り向きざまに、直球で問うてきた。
「あぁ……まぁな。院内の案内板にも表示されてるし、それなりに見当はつけてる」
だから俺も、変に遠回しにしたりせず、端的に返す。
初琉の入院している病棟は、七階。院内の施設案内板によれば、七階はアレルギー内科、そして血液内科の病棟と表示されている。
「では、はーちゃんの病気についても見当をつけてる、と?」
「もちろん」
真っ直ぐ目を見て、頷いた。
「……そう」
ふい、と、視線を外して空を見上げた十束が、そのままの体勢でしばし固まる。
そして、ゆっくりと大きく深呼吸したのち、静かに言葉が紡がれ始めた。
「僕は職務上、これ以上の発言をすることは出来ないんだが……」
そこで、いったん区切って、また目が合わされる。
「それは、彼女の全てを受け止める覚悟が君にはある、と受け取っていいのか?」
強い口調と、射抜くような視線がストレートにぶつけられた。
これが、敬語を取っ払った、十束の本気の表情か。
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