からくれないに、色づいて【Eternity -エタニティ- シリーズ】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
46 / 68

試される覚悟 #1

しおりを挟む



「――なぁ、いいだろ?」

「……っ」

「どんだけ待たせんだよ、俺のこと」

 自分の声の“威力”は、ちゃんと知っている。

「や……待って」

「もう、待てない」

 蕩かすように囁いて、その顔を覗き込んでみれば。俺を見返す瞳が、甘い色を含んで揺れている。

 『待って』と口にしながらも、そこに拒絶の意思がないことに気を良くした俺は、細い首筋に中指をそっとあてがうんだ。鎖骨から上へ。目線を合わせたまま、そろりとなぞり上げていく。

「ひ、人が……」

「大丈夫。誰も見てないから」

 キョロキョロと落ち着かなげに動く瞳を縫い止めるように、これ以上ないくらいに顔を近づけて。ぷっくりとした下唇へと、さらに指を伸ばしてみる。

「そんなわけないやん! ここ、駅やしっ! 利用客さん、ようさん、いてはるやん!」

「あ、そう? 人、たくさんいたかなー? 気づかなかった。俺、お前しか見えてなかったから」

 予測通り、『また、ここか』というところで入った初琉からのツッコミに、にっこりと微笑み返した。

 そんな俺に対して、『うわぁ……』とでも思ってそうな、まさしく残念そうな感想を浮かべているだろう表情に、思わず口元が緩む。

 眉根を寄せ、盛大に顔をしかめた様相にすら、愉悦と満足を感じてしまうほどに、もう俺はコイツにやられてしまってるんだ。



 あの秋祭りの夜から、ひと月半。こんな風にまた、学校帰りの初琉を駅で捕獲。からかうことが出来るようになった。

 本当に、良かった。

 しかし、壁ドンっつーのは、どこでも出来るもんなんだな。自動券売機の横に引っ張ってきた小柄な肢体は、両手で囲んでしまえば、俺しか見えてないはずだ。

 俺の形の影が、初琉を誰からも見えなくさせている。今の状態は俺の独占欲を満たすのに充分な効果を上げて、この不埒な行いが今日一度きりのものになる可能性はゼロになった。

「もう、いい加減にして。早よ、どいて。離れてよっ」

「なんだよ。いつも冷たいな」

 が、すっぽりと覆い隠したはずの影の中から、強い光を宿した瞳が真っ直ぐ俺に向けられる。

 気の強さを証明する口調とは裏腹な、真っ赤に染められた頬に満足していた俺は、その頬をそろりと親指でなぞってから離れることにした。

「だいたい、こんな時間に駅で待ち伏せしてて、ちゃんと研究が出来てるん? 暇なんやね、考古学研究室って」

「ひどいな。ちゃんと発掘現場から直行してきたんだぜ? 今日も間に合って良かった」

「良うないわ! それに、わざわざ壁際に連れてく必要なんかないし!」

「あぁ……そこはほら、ご愛嬌?」

 ぱちんっと片目を瞑った俺が、さらうようにわざとゆっくり腰に回した手は、狙い通り邪険に振り払われた。

「そんなご愛嬌、ひとっ欠片もいらんわ!」

 頬を赤く染めながらも懸命に憎まれ口を利いてくる初琉は、なんて愛らしいんだろう。

「あーあ、せっかく待ってたのに……つれないなぁ。このお嬢は」

「誰も待っててほしいなんて……頼んでへん、もん」

 込み上げてくる愛しさに、この場で抱きしめたい衝動をぐっと我慢して微笑んでみせれば。きつい口調を反省したかのように急に勢いを失って、語尾が小さくなっていく。

 性格の良さが滲み出てる変化に、さらに抱きしめたい衝動が募ったが、これ以上困らせるわけにはいかないから出すのは右手だけだ。

「ま、いいや。帰ろうぜ」

「……うん」

 そっと包み込むように。しかし、しっかりと繋いだ手は、今度は振り払われなかった。

「それにしても、今日は寒かったなぁ」

「お昼過ぎには、雪がちらついてたもんね。発掘作業お疲れさま」

「ん……今夜は鍋にしてくれる?」

「いいよ。大根のいただきものがあるから、みぞれ鍋でいい?」

「おー! 俺、あれ好き。シメは雑炊にしてくれる?」

「うん、いいよ」

「その後、添い寝してあっためてくれる?」

「うん、いい……わけないやん! アホかっ」

「あっははは!」

 何だ、気づいたか。言質、取れなくて残念!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...