47 / 68
8
試される覚悟 #2
しおりを挟む「あれ? 庭に立ってるの、榊先生じゃないか?」
「あ、ほんまや。おじいちゃーん、ただいまー!」
「あぁ、おかえり。なんや、今日も零央くんに連れて帰ってもらったんか」
「ただいま帰りました、先生。駅からの道は物騒ですからね」
「ちょ、おじいちゃん! 零央に連れて帰ってもらったって、どういうこと? 昔から慣れた道やもん。零央がおらんでも、ちゃんと帰れるしっ」
「ここいらは田舎道やから、街灯も少ないし助かるわ。いつもありがとうな、零央くん」
「いえいえ。それはそうと、今日の発掘現場でですね――」
横から抗議する初琉をスルーして追い抜きながら、榊先生に今日の発掘調査の内容について質問を始めた。
俺がいなくても帰れるのは、わかってる。が、ここまで全力の大声で拒絶されるのは、少々面白くない。例え、可愛い照れ隠しだとわかっていても。
「おい、初琉」
狭量さを発揮して先に玄関に入ってみたものの、なかなかドアを開けない初琉に焦れてしまって、結局先生との会話を途中で断念する羽目になる俺は、情けない男の代表だな。
「いつまで外に突っ立ってんだ。風邪引くだろ……って……ぶふっ! 何だよ、その顔!」
榊先生に苦笑されるほどに挙動不審に初琉の名前を出して慌てて迎えに出てみれば。ドアに向かって盛大にアッカンベーをしてる小さな姿が、びくんっと肩を跳ねさせた。
「な、何って。これ、私の通常モードやし!」
「あっははは! この変顔が通常モードって、どんだけだよ。ほんと、お前は可愛いな」
爆笑しながら、素直に『可愛い』と告げる。
口は小さいのに舌は長いんだなと、変態な感想を抱いたことはおくびにも出さず、初冬の風にさらされた冷たい肩に手を伸ばした。
薄い肩を包み込むように抱きしめた俺を、今度は拒絶しない初琉が愛おしい。
「ほら、こんなに冷たくなってる。身体、冷やしたら駄目だろ?」
心のままに背中を優しくさすっては、柔らかな頬に何度も頬ずりを繰り返した。
これも拒まない。それどころか、俺の名を呟いて、ぎゅっとしがみついてくる。普通なら勘違いして、ここでもう一歩進んでしまうところだ。
が、そうはいかない。退院した初琉の態度に違和感を感じた俺は、あの夜の病室でのやり取りについて、それとなく尋ねてみた。
すると、真っ赤に頬を染めた初琉が焦りながら漏らした言葉の端々で理解出来たことがある。
コイツは、あの夜のやり取りを夢だと思ってる。あんなにハッキリと会話してたのに、だ。途中で寝落ちたとはいえ、有り得ねぇ。
けど、夢と混同してるにしても、俺とのスキンシップの度合いが徐々に深まっていることには満足するべきだな。
周囲の目がなければ、俺が自制を忘れそうなほどに素直に身を任せてくれるんだから。
「なぁ。明日、一緒に出かけないか? 榊先生には、さっき話しといたからさ」
「うん、行く」
実際の会話は『話しといた』なんて、冷静なモンじゃない。「明日、初琉さんを誘って出かけますんで! よろしくお願いします! ではっ!」だった。
仕方ねぇ。なかなか家に入ってこない初琉が心配で、何の拉致宣言だっつーくらいの勢いで言い切って外に出てきたからな。
「ほぅ、そうか。よろしく頼むで」という榊先生の笑いを含んだ声が、忘れられねぇ。あー、遠い目になりそうだぜ。
ま、初琉が外出を素直に承諾してくれただけで、よしとするか。
「そろそろ、中に入ろうか」
名残惜しい。もう少し抱きしめていたい。が、仕方ない。これ以上、コイツを寒空の下に立たせておくわけにはいかない。
囲った腕を緩め、初琉のほうから離れてくれるように仕向ける。
……ん?
「初琉?」
せっかく仕向けたんだが、身体をゆっくりと引いただけで、俺のブルゾンを掴んだ手をなかなか緩めようとしない。
まるで、離れがたいとでもいうように。
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる