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終
からくれないに、色づいて #3
しおりを挟む「―――おい、着いたぞー。初琉? おーい、起きてるか? 初琉?」
助手席に座ってはいるが、道中ずっと俺から顔を背けていた小さな頭を覗き込む。
「……起きてますー」
うわ、すげー低い声。
「何だ? まだ怒ってんのか?」
「……っ、怒って! ま、せ、んっ!」
「んだよ、やっぱ怒ってんじゃんか。あれか? キスの最中にキャンパスツアーの皆さんが礼拝堂に入ってきたことか? あれなら、咄嗟にお前の顔隠してやったろ?」
きつく抱きしめて、だけど。
「だから、もう怒んなよ。な?」
「――――って、言われてた」
「あ? 何?」
「零央、キャンパスツアーの学生ガイドさんに『また、新しい彼女か?』って、聞かれてた……『また』って……『また』って……」
あー、アレか。くっそ、アイツめ!
つい漏れそうになった舌打ちを慌てて飲み込んで、表情を保つ。不用意な発言をかましたヤツへの報復は、後日だ。
「俺、ちゃんと訂正したろ? 『嫁さんだ』って説明もしたし」
「でも、皆さん、全然信じてなかったし……爆笑されてただけやし……そのまま抱っこで連れ出されて、すごくすごく恥ずかしかったし……」
仕方ねぇだろ? お前が小声で『もう嫌や。家に帰る』って繰り返すから、めちゃめちゃ焦ったんじゃねぇか。
その後、有無を言わさず車に乗せて、今に至る。
あー、どうすっかなー。しぶしぶ車を降りてくれたものの、まだ仏頂面だよ。どうやったら機嫌直してくれるんだ?
「えぇっ? 何、これっ?」
困惑を顔には出さず、脳内だけで盛大に頭を抱えていると、初琉の表情が一変した。仏頂面から驚愕へ。
「どうしたっ?」
「零央? ねぇ、ねぇ! 東京にも異人館があるん?」
「は?」
「違うの? ここ、まるで神戸の異人館みたいやん。あ、もしかしてレストラン? 隠れ家的な! 素敵な造りやねぇ。でも私、まだお腹すいてないよ? うーん……けど、ケーキくらいなら……」
「あー、妄想途中で遮って悪いけどさー。ここ、俺んち」
興味深そうにキョロキョロする様子で機嫌が直りかけてるとわかったが、嘘をつくわけにもいかないから、早めに真実を告げた。
せっかく直った機嫌がまた悪くなるのは困るが、仕方ない。ケーキが食いたいなら、また出かけるか。
「え……おれん……オレンジ?」
「柑橘類じゃねぇ! 俺の! 家! 見ろ。表札だって、ちゃんと掲げてんだろうが!」
「家って……自宅ってこと? これが? 嘘ぉ……超豪邸やん」
「何、言ってんだ。お前の家こそ、8LDKの豪邸じゃねぇか。ほら、早く入れよ」
「う、うん。お邪魔します」
機嫌が悪くなるどころか、嬉しそうに辺りを見回しながら俺が差し出した手に指を乗せてくれた初琉に、心からの笑みが零れた。
親父が趣味で建てた無駄にデザインに凝った骨董建築。初めて役に立ったな。
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