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終
からくれないに、色づいて #10
しおりを挟む「夕陽、沈んでいくね」
「あぁ」
日輪の最後の輝きが、消えようとしている。照柿色から、ごくごく薄いオレンジ色へ。空を彩る色が移り変わり、縁側に届く光も弱くなってきた。
つと、腕の中におさまっていた初琉が動き、毛布から手を出す。
「どうした?」
「んー、ちょっとね」
返事を濁した後、手のひらを上に向けて、そこを見つめている。ワンピースの袖口から覗く細い手首は血管が透けて見えるほどの白さだが、今、そこには薄いオレンジ色の光線が降り注いでいる。
それを見た瞬間、頭の中でパズルのピースがカチッと嵌まった気がした。
あぁ、これか。
やっと、腑に落ちた。奈良にいた時、駅で捕獲した初琉とともに歩く帰途でコイツがよくやっていた仕草が、これだ。
ふたりで歩く道すがら、初琉の手のひら、手首の血管、その肌に乗せられていた茜色の光。俺が、東京で見る夕景に感じていた物足りなさは、これだった。
「なんだ。ちゃんと、あったんじゃねーか。ここに」
同じものが。
初琉。お前と見る全てが、俺にとっての“色”だったな。
「え? 『あった』って、何が?」
「いや、大したことじゃない。それよりさ、お前、早く俺んとこ来て? 色んなこと、全部すっ飛ばしていいから、ここで一緒に暮らしたい」
早く、その“色”で俺を染めて?
「えっ、そんなこと言われても、まだ卒業式も済んでないしっ。結婚式かて、五月の予約やん」
「まぁ、そうなんだけどさ。それもちゃんとわかってんだけど、待ちきれねぇ気分だからさ。それはそうと、前から聞こうと思ってたんだけど。その仕草、何か意味あんの? その、手のひらを掲げるヤツ」
やっぱ、一応聞いとこう。
「あぁ、これ? うーん、特に意味はないけど……強いて言えば、確認、かな」
「確認?」
「ん、夕陽の色って、昼間の陽射しと違って、どこか特別な感じがするんよ。見てて綺麗やし、なんか落ち着くし。だから、その色にこうやって翳してみることで、今日も無事に終えられたことを確認してるっていうか……わかる?」
「いや、わかんねぇ」
「あっそ。まぁ、そうやろね。こんなん、わかるわけ……」
「あぁ、確認の理由はわかんねぇ。けど、その“意味”ならわかる。たぶんな」
俺の即答に苦笑した初琉が、力なく床におろした手。それを掬いあげ、手首にそっと唇を押し当てる。
「――からくれない、だ」
ここにある、お前の色。それを確認してたんだろ?
10
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