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刺客
しおりを挟む大西洋中央海嶺、と聞いてしっくり来る人は少ないと思われる。更にそこに位置する島の名前など知りもしないだろう。そんな傍観者の皆様に、この私、サンドラ・アルベルトがある島についてお話しよう。
小さな島だ、人口三百万人に満たない程の孤島に建立された帝国。もとは多文化社会・多文化主義であり、移民も多く国際色豊かな国であった。島内で戦争が勃発したのは十五年前の2008年に国王が交代した、その日からである。
「ねえ、ご存知?国王が暗殺された事件」
「ええ、勿論。号外で知ったわ」
「あのお宅の旦那様、王宮勤務だったわよね。国王が暗殺されたってことは……使用人も全交代になるのかしら」
「そうねえ……国が新しくなるのは良いけど、私たち国民に被害を及ぼすような真似は辞めて欲しいわね。特に、旦那の勤務先でいざこざがあると面倒なのよ」
「前の国王がとっても良い人だったって訳でもないけど……いざ暗殺されて王交代ってなると不安よねえ。どうなるのかしら」
……とまあ、ご近所中でおばさま方のこんな会話が繰り広げられていた訳だ。当時国の政治になど全く興味もない十一歳の無垢な少女であった私でも、国王暗殺の事実を知った時は驚いた。大々的に報道されたのは、国王が殺された翌日であった。
【我らが王、暗殺により死す】
センスのない見出しがでかでかと表紙を飾り、隣には
『容疑者は国政に不満を持つ四十代男性(王宮勤務)。取り調べによると、男性は容疑を認め、「彼奴よりも国王に相応しい人間を知っている。其奴を国王にする為に王を殺した」と供述している』
と印刷されている。まあ個人的な見解もあるが、納得してしまうのは否定出来ない。
──それからの国の動きは早かった。
国王暗殺から一週間足らずで国王が指名された。名前はドウェイン・キャベンディッシュ。皮肉なことに、例の容疑者が推した人間である。見た目は銀髪の長身、聡明そうで爽やかな男性。王として就任した時、彼は四十三歳であった。国王としてはまだ若い。
私もニュースで国王就任儀式を眺めた記憶がある。その日は祝日となり、学校を休む口実を作ってくれて有難いと呑気なことを考えていたものだ。
──彼奴が国王になってからは、オルニカ島の平和は音を立てて崩れて行くようだった。
就任一日目、彼は国民に向かって爽やかな笑顔で
「今日からここは俺の支配下地だ。国民が好き勝手する事は一切許さない。現在保たれている法律は全て廃止し、俺が一から作り直したものを規範として生活するように」
と言ったのだ。つまり、要約すれば
「今日から俺は都合の良いように好き勝手政治をするが、お前ら下民の者は一切口出ししないように」
ということだ。公にする辺りタチが悪い。
勿論、反乱が起きた。就任早々『国王を降りろ』とデモが起き、それを暴力で追い払った王宮の人間に腹を立てた国民たちが一丸となって革命軍を興した。当然の結果といえよう。
王宮では、王と使用人によって次のような会話があったようだ。
「何、国民の反乱?」
「はい。十五未満の子供を除く国民百九十六万人のうち、四割ほどの人間が固まっている様子です」
「ふむ……困ったものだな。私も荒っぽいことはしたくないんだが」
「追加でお伝えしますと、国民の怒りの矛先は我々王宮の人間にのみ向けられているという訳ではないようです。まず『第二勢力』と名乗る族……主にスナファガッシュ地方の人間を中心とした反抗勢力が蜂起し、それによる事故や殺人などに対抗する『第三勢力』の二つに別れているとのことでした。第三勢力については……まだ、蜂起したばかりの新芽であります。害のある植物は、若いうちに摘んでおかねばなりません」
「それもそうだな。しかし……今我々が兵を挙げれば、忽ち潰されてしまうのがオチだ。百万人対二千人では、結果は言うまでもないだろう?まずは厄介な第二勢力を買収する。第三勢力はそれから潰すのが良い」
「成程、素晴らしいご名案。第三勢力が強まる前に……第二勢力をこちら側に引っ括めましょう」
「その前に……第三勢力について、少し調べておくとしよう。何、時間はたっぷりあるさ。今のご時世、時の流れでさえも俺に従うのだからな」
国民たちが一丸となって、と言ったか?あれは嘘だ。実際、国民も二つに分裂して争っていたのだ。
国王軍を『第一勢力』とした時に、スナファガッシュ地方で蜂起したのが『第二勢力』。こいつらが余りにも他の国民に二次被害を及ぼすものだから、第一勢力諸共黙らせてやろうと蜂起したのがこの私サンドラ・アルベルト率いる『第三勢力』である。見事なまでに三分裂し、国の治安は益々悪くなっていった。治安維持法などという法律も制定されたようだが、制定した側ですらも無視するほどの非影響力である。加減なんぞまるで無い。
第三勢力などが立ち上がっては、第二勢力も黙っている筈がなかった。私達が『人を殺すな』と言えば言うほど、あいつらは町ごと纏めて人を襲う。国王就任から一ヶ月足らずの2008年12月現在で、第二勢力の被害に遭った町・集落は十三に昇った。
次の話は、被害に遭った村で私が出会った子供の話をしよう。
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