推しに婚約破棄されたとしても可愛いので許す

まと

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「どうしたのですか?お姉さま。あの日からため息ばかりついて」

「レオノール嬢…まさかシャルティのデコピンの後遺症でおかしくなってしまったのでは?
あれは相当なモノだったからな。男の僕でも失神しかけたんだ」

フレント殿下は顔を青くさせ、両手で守るように額を押さえる。相当痛かったんだね。

ここは学園のお気に入りの場所のひとつのカフェテリア。授業を終えて図書館に行こうかと考えていると、私を探していたシャルとフレント殿下にばったり。

そしてお茶に誘われ、今に至る。


「バカ言わないでください、フレント殿下。お姉さまがあれしきでおかしくなってしまう訳がないでしょう?なにせあのような遊びの負けがかさんだ時は、2度3度と連続で私から同様の罰を受けていたんですから。それでも次の日にはケロッとしていました。
正直…次の日学園をお休みされたフレント殿下にはがっかりでしたよ?」

こらシャル、何て事を殿下に…。もうそれアウトだから。完全に不敬だから。私だって初めての時は失神しかけたわ!耐性がついただけ!

「う…。そっ、それではどうしたんだ?目のクマも酷いよ?ちゃんと食事はとっているの?」


「ふぅっ…シャル、フランクに接して頂いているけれど、フレント殿下はこの国の第二王子殿下なのよ?言葉には気を付けなさいと何度も言っているでしょう?…でも、心配かけてごめんね。
フレント殿下もお気を使わせてしまい申し訳ありません。少し悩み事はありますが、ちゃんと眠っているし、食事もとっていますわ」

「ふふ、君たちは本当に姉妹のようだね。しかしレオノール、無理はよくないよ?シャルも心配なんだよね?」

「はい。あの、殿下、言葉遣いが悪くてごめんなさい。努力しますが、これからもたまにポロリと失礼な事を言ってしまうかもしれません。その時は優しく許し欲しいです、ごめんなさい。
ふぅ…これで良いでしょうか、お姉さま。早く何があったか教えてください」

ん?それ心から反省してるのかな?ふぅ…って何?

フレント殿下はフレント殿下で「素直で可愛いなあ、シャルティは」とか言いながら、シャルの頭を撫でている。

バカップル?まあいいや…。



「色々と…どうしたらいいのか分からなくなったの。自分の目指していた軸となるものが、もしかするとすでに破綻しているかもしれなくて…」

「ふむふむ。まあそれだけではよく分かりませんが、お姉さまは昔から謎に考えすぎで不器用な所があったので。 
…ですがお姉さま?やはりどんな時でも人間には何が一番大切で、何を守りたいかで自ずと道が見えてくるものなのです」


「一番大切で何を守りたいか…?」

私が一番大切にしているもの、守りたいもの?そりゃ自分がこの世界で生き残る事。そして…。


「そうです。それさえ見失わなければ意外と簡単に答えは出てくるのではないでしょうか?」

「シャルティ…さすがシャルティだ。やはり君と結婚したい」

「…殿下、あなた簡単すぎますよ。こんなありきたりな言葉なんてどこにでもそこらじゅう至る所に転がっています。まあ、タイミング的に今のお姉さまにはクリティカルヒットしているようですが…」

「本当だ。少しだけ顔色がよくなったようだ。ほらケーキも食べて」

ふふふと二人が私の顔を覗き込み、ケーキを差し出してくれる。いつの間にか注文してくれていたみたいだ。

「お姉さま、シャルはいつだってお姉さまの味方ですよ」

「僕だってそうだ。君とはこうして話すようになってまだ間もないが、控え目で思いやりのある美しい人だと思っている。兄上の婚約者である事とは別として、僕とも仲良くして欲しい。友人として、これからも」

「シャル…殿下…」

「早くモヤモヤを片付けて、また遊びましょう。お姉さまと行きたいお店が沢山あるのですから」

「シャル、ふふっ、そうね」


二人とも、なんて優しいんだろう?
 
溢れる涙が恥ずかしい。すかさずフレント殿下がハンカチを差し出してくれて、シャルが優しく背中をトントン叩いてくれる。

年上なのに少し恥ずかしいな。
それでも幸せだなと思う。
生まれ変わる前の人生には、友達なんて呼べる人なんていなかったから。



その時。

「レオノール!やっと見つけたわ。探したのよ」

「マリローズ…」


花のようにふわりと微笑み現れたマリローズ。なんてタイミングなのだろう。今はどうしたって会いたくなかったというのに。

「やあ、マリローズ嬢」

「あらフレント殿下、ご機嫌よう。えっと…あなたは?」

「はじめまして、シャルティ・ホプソンと申します」

「レオノールのお知り合いかしら?」

「ベリテで出会った私の大切な友人よ」

「ベリテ…レオノールが静養していた片田舎の…。それじゃあ、あなた爵位は…」

「そのようなモノはありません」

「まあっ!レオノールが爵位を持たない人と関わる事があるなんて…あなた相当何か優れたものがあるのねっ?…ああ、とても愛らしいこのお人形のようなお顔が気に入ったのかしら?ねえレオノール」

「マリローズ」

無表情でマリローズを見つめるシャルの前に立つ。シャルは人形と言われるのが一番嫌いなのだ。


「なあに?」


「昔、私があなたを傷付けてしまった事は謝るわ。本当にごめんなさい、本当に…。けれど…シャルは関係ないでしょう?」



くすりと笑ってマリローズが言う。



「レオノール、話したいことがあるの。少しいい?」





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