君に何度でも恋をする

明日葉

文字の大きさ
32 / 41
第4章 さいかい

しおりを挟む
 意識の端でアラームを捉え、なんとか意識を浮上させる。
 花音は目を開け…開けたはずが、まだ、なにかに視界を覆われたように暗くて、身動ぎをする。それで目を覆っていたものが落ちて、自然と目が追った。

(…タオル??)


 そう思ってから、ようやく、あれ?と思う。


(えーっと)


 目の前のこれは?というか、動けない…。


 と、自分の状態を確認し、記憶を辿り、まで、のんびりやっていたのは冷静を保つため。





 そして、現実逃避を決め込もうと。もぞもぞと動くのだけど。


(動けないじゃーん)


 もう、思考は現実から目を逸らしたくて仕方ない。

 というか、と、タオルにもう何度目かの、目を落とした。
 泣いて寝れば、目が腫れるからと気にしていた。これは多分、もともとはあっためたタオルで。でも、眠りに落ちる時もこの体勢だったのを残念ながら覚えているということは、この人は少なくとも一度、ここから離れてそういうことをしてくれてから、またこの状態に戻ったわけで。


 それ気づかず、寝てたって…。


 羞恥に目を落とす。これだけ体に接触しているのに気づかずに寝続けるって、どういう状態だ、と。




 やっぱり、現実逃避。朝ご飯作らないと。仕事。学校。


 と、自分を引き寄せている腕を持ち上げて避けようとして、その腕が逆に力を込めて引き寄せられるのを感じた。

「へ?」

 思わず声を上げて見上げるけれど、まだ、眠っているよう。なのに、寝言?のように、少し掠れた声が、引き寄せられたせいで近くから聞こえるからたまらない。

「まだだめ」

 えーーーーー。


 いたたまれないというか、どうしていいか分からないというか。



 というかそもそも、自然とこんな仕草無意識にするものか?と。他の誰かと間違えてる?


 などと、翔が知ったら筋違いと怒りを見せそうな疑いまでしながら、抜け出そうとした結果。


「花音」


 もぞもぞと格闘する花音を見下ろして、翔が声をかけた。反射的に顔を上げて、思わず目を逸らす。


 なんだその顔。あっまっ。



 あえて気づかなかったことにして、ついでに聞こえなかったことにして、作業に戻…れるわけもなく。巧みに腰を引き上げられ、目の前には目を逸らしたくなるような胸板があったはずが、きれいな鎖骨と喉仏になって、額にやわらかいものが落ちてきた。


「うあっ」


「おきるの?」

 平常運転のようだけれど、寝起きの翔は少し舌足らずで、そして掠れた声で。


 逃げ道を失い、顔を隠したい花音の逃げ場は、目の前の翔の肩口しかなかったわけで。そこに顔を埋めて隠して、どんな顔を取り繕えば良いのかも分からないそれを見られないようにする。
 翔の体がぴくりと動いたようだけれど、自分からは拘束するくせに、逃げ場を失ったこちらの動きにはそんな風にいやそうに動くなんて、勝手だなぁ、と少し、口を尖らせた。その唇が翔の鎖骨に当たったことも、花音は気づかない。

「…っ、花音」


「朝ご飯、作らないといけないので起きたいです」


 すんなりと、その言葉で解放される。
 もぞもぞと起き上がった花音を、寝起きの色気だだ漏れ、と、花音が目を逸らしたくなる翔が見上げる。
「顔、大丈夫そうだな」
「…タオル、ありがとうございました」
「どういたしまして」
 伸びてきた腕にくしゃりと髪を撫でられて、思わず心地よさに目を細めた。その様子にこくん、と、翔が息を飲むけれど、花音は気づくはずもなくそのままベッドから降りた。







 炊飯器のスイッチを入れて、それから風呂場に行ってお風呂を洗って、洗濯機を回して。そうしてから味噌汁を作りながら、すもも…犬のご飯を作る。
 なんてことをしながら、花音は視線を彷徨わせた。
 寝ていていいのに、翔がついて回ってくる。子どもの後追いか?というレベルで。
「あの…」
「ん?」
 言いかけても不思議そうに返されれば、言葉を失って。
 そうこうしている間に隼人が起きてくる。
「おはよう」
「お母さん、おはよう」
 言ってから、その目を翔に向ける。
「おはようございます」
「おはよう」
 隼人の挨拶に翔も返しながら、少し寂しそうな顔。
「隼人、出かけるのか?」
「すももの散歩です」
 言いながら、さっさと出て行く隼人を花音は見送っている。
 そうして、花音は諦めたように、ずっと近くにいて邪魔なくらいの翔を見上げた。
「味見、します?」
 正直、料理はずっと苦手なままで、以前を思い起こせば、翔の方が絶対に上手で。普段は味見なんてしない味噌汁を小皿にとれば、それを受け取りもせず、翔は花音の手にあるまま、きれいな顔を近づけて目を伏せた。
「うん、おいしい」
「っ!」
 殺傷能力の高そうな笑顔に顔を背けて、花音はこっそり深呼吸をする。それはどうも、となんとか返していると、翔はにこにことしていて。






 そうして、花音の一番の衝撃は、隼人が帰ってきてちびたちを起こしてきたところで襲ってきた。
 顔を合わせればどんなに責められてもなにも言い返せないと覚悟していたのに、いまだになにも言われないことが気持ち悪いし緊張が続いているしで仕方ない上に、昨晩の通夜もまだ引きずっているところに、すべてを一瞬忘れるほどの衝撃。
「日向、日和、お母さんとゆっくりしたかったら、もうおきる時間だよ」
「は?」
 隼人の言葉に、翔が目を見開くのを、花音は苦笑いで受け流す。以前、寝坊をして、ゆっくりできなかった結果、非常に駄々をこねた子たちは、結果これが一番効果的に目覚めるようになった。かわいいなぁ、と、目を細める。
 いつもどおり、ぱたぱたと起きてきた日向と日和は、ぎゅっと、花音に一緒に抱きつく。
「「おかあさん、おはよ」」
「おはよう」
 きれいにハモった声に、花音は溢れるように笑って、ぎゅーーっと、まとめて抱きしめた。
 その腕の中から、やはり同じような動きで2人が伺うように翔を振り返る。
(そういえば、なんて呼ぶことになったんだろ)
 呼び方決まったみたいだよ、と、聞いてはいたけど、どうなったのかそういえば聞いていなかった。


「「おとうさ、おはよう」」



 びっくりしすぎて腕の力が緩み、振り返ろうとした花音は、さらに上から隼人まで引き寄せてひっくるめて抱きしめられ、目を白黒させた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語

まつめ
恋愛
18歳の近衛兵士アツリュウは、恋する王女の兄の命を救ったことで、兄王子の護衛官になる。王女を遠くから見られるだけで幸せだと思っていた。けれど王女は幼い頃から館に閉じ込められ、精神を病んだ祖父の世話を押し付けられて自由に外に出れない身だと知る。彼女の優しさを知るごとに想いは募る。そんなアツリュウの王女への想いを利用して、兄王子はアツリュウに命がけの戦をさせる。勝ったら王女の婚約者にしてやろうと約束するも、兄王子はアツリュウの秘密を知っていた。彼は王女に触れることができないことを。婚約者になっても王女を自分では幸せにできない秘密を抱え、遠くから見るだけでいいと諦めるアツリュウ。自信がなく、自分には価値がないと思い込んでいる王女は、アツリュウの命を守りたい、その思いだけを胸に1人で離宮を抜け出して、アツリュウに会いに行く。

グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】

屋月 トム伽
恋愛
18歳になり、結婚が近いと思われたプリムローズは、久しぶりに王都の邸にいる婚約者に会いに行っていた。 だけど、義姉クレアと婚約者ジャンのベッドインを目撃してしまい、婚約破棄されてしまったプリムローズ。 プレスコット伯爵家から追い出すための名目で、金持ちの子爵様に売られるも同然の後妻に入ることになったプリムローズ。 そんなある日、夜会で出会ったクライド・レイヴンクロフト次期公爵様から結婚をもうしこまれる。 しかし、クライドにはすでに親の決めた婚約者がおり、第2夫人でいいなら……と、言われる。 後妻に入るよりは、第2夫人のほうがマシかもとか思っていると、約束だ、と頬にキスをされた。 「必ず迎え入れる」と約束をしたのだ。 でも、クライドとのデートの日にプリムローズは来なかった。 約束をすっぽかされたと思ったクライドは、その日から一向にプリムローズと会うことはなかった。 時折出す手紙のやり取り。プリムローズがどうしたいのかわからないクライドは困惑していた。 そして、プレスコット家での現状を知り、クライドはプリムローズをプレスコット伯爵邸から連れ出し、グリモワールの塔に連れて行き……。 最初は、形だけの結婚のつもりかと思っていたのに、公爵様はひどく甘く、独占欲の固まりだった。 ※以前投稿してました作品を【18歳Ver】に書き直したものです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

初恋を諦めたら、2度目の恋が始まった

suguri
恋愛
柚葉と桃花。双子のお話です。 栗原柚葉は一途に澤田奏のことが好きだった。しかし双子の妹の桃花が奏と付き合ってると言い出して。柚葉は奏と桃花が一緒にいる現場を見てしまう。そんな時、事故に遭った。目覚めた柚葉に奏への恋心はなくなってしまうのか。それから3人は別々の道へと進んでいくが。 初投稿です。宜しくお願いします。 恋愛あるある話を書きました。 事故の描写や性描写も書きますので注意をお願いします。

処理中です...