君に何度でも恋をする

明日葉

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第4章 さいかい

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 朝の慌ただしい時間、そしてお腹が空いた子どもたち、という状況のなか、迷わず花音は一旦棚上げを選択した。
(なにがどうして、おとうさんになった??)


 と、本当は脊髄反射で声に出しそうになったけれど。そうしなくて良かったと、棚上げして少し頭を回転させてホッとする。そんなことしていたら、たぶん、十中八九、いや、間違いなく、翔が怖い。
 とりあえず、全てを受け流して、心を上滑りさせて、スルースキル総動員で、やり過ごしているこの数日。そろそろ誤魔化しが効かなくなるんだろうな、とは思い至りながら、子どもたちと一緒に箸を手に持って手を合わせる。

「いただきます」

 声を揃えていってから、テーブルの上のものを日向と日和の求めるものと、求めないけど食べて欲しいものと取り分けていく。いつも通り、隼人と一緒に。
 勝手がわからない翔に、好きに食べてください?と、微かになんとか笑顔を向けながら日向の「たくあんも!」というのに応じて、刻んだたくあんも取り分ける。

 朝は、変わるのは味噌汁の具と、卵の調理方法くらいで。
 今朝は冷蔵庫にあったあり合わせの具でキャベツとトマトと豆腐の味噌汁と、お弁当に入らなかった分の卵焼き、焼いた塩鮭と、そして、小鉢に納豆、刻みネギ、たくあん、大根おろし、刻んだオクラ、なめたけがどん、と置いてある。1人ずつに置かれているのは茶碗に装ったご飯と味噌汁だけで、あとは好きにとって食べるのがいつものスタイルだ。まあ大体、小鉢のものを全部好きな割合でぶっ込んで、ご飯にかけて食べるということになるのは花音がそうしているのを子どもたちが真似るようになったからなのだろう。
 取り分けてあげれば、日向も日和も自分でもう食べられるので、楽なものだ。好き嫌いはあるし、食べられないほど嫌いなものをわざわざ出して食事を嫌いにさせてしまうほどひどい好き嫌いなわけではないから、本当に楽だなぁ、と思いながら、花音はふっと、視線を感じる。
 目を向ければ、翔と目が合うわけで。
 反射的に見なかったことにして目を逸らして。

(やばっ)

 とは思っても顔には出さない。


 そんな花音の様子を食事をしながら眺めていた隼人は、そっとため息をつく。
 母には、どうやらずっと、ひたすら罪悪感しかないようなのだけれど。ずっとそばにいた隼人からすれば、確かに翔に迷惑をかけるそもそものきっかけを作ったのは母だが、そのあとのことについては翔に問題があると思っている。だが、それを言っても仕方ないし、聞く母でもない。
「あ、母さん、あれ、書いといてくれた?」
「ん?ああ。もちろん」
 忘れっぽい母が、この数日の状況下で忘れずに書いてくれたことに驚きながら、隼人は思わずにこっと笑った。やりたくて決めたことだけれど、母が喜んでいるらしいことがわかる。
「部活、いつから?」
 入部届への保護者のサインが済んだものを渡してくれながら問われて、隼人は来週の月曜、と答える。カレンダーに同時に目を向けた母が、よし、と頷いた。
「じゃあ、今週中に、仕事がんばるね。来週からは残業極力なくす」
「いや、無理しなくていいから」
「無理じゃないよ?」
「うん?そうだね?」
 とりあえず、頷く隼人に花音の目が逸らされる。何度この会話をしたことか。花音の今の部署の仕事量が多いことと、在籍年数を重ねるにつれて花音への負担が増えているのか、時期によってはどうにも残業が避けられない。特にこの年度がわりの忙しさは、隼人も承知している。
「ほら、極力だから、極力」
 ごまかすようにもう一度言った言葉に吹き出して、隼人は食べ終わった皿を持って立ち上がる。
「今日は日向と日和の幼稚園、学校に行きながら送っていくから母さん、?」


「!!!」


 にやっと笑った隼人に、花音は返す言葉もなく、今度こそはっきりと顔ごとそらした。

 もちろんそんな母と子のやりとりを、翔はじっと見つめている。
 そんな翔に、流しに食器を置いた隼人は目を向けた。
「翔くん、おてやわらかにしてくださいね。日向、日和、食べ終わったら歯磨いて顔洗うよ。おいで?」

「「はーい」」



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