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1 順応しましょう
話をしよう 3
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いろいろなものの使い方は興味津々の目で聞いていたのに、それこそドライヤーの使い方だって、スイッチを入れた瞬間の音に驚いて耳としっぽがブワッとなるほどに興味を向けていたのに、ドライヤーを使うことは面倒がった理由は、少し後で栞里にもわかった。ドライヤーの音に驚いた時に、ああ、そうか、とやっと思い至る。聴覚がめちゃくちゃ良いのだ。きっと、嗅覚も。視覚も。感覚はどれも人間の何倍、何十倍とかだろう。と思えば、今までの無造作な自分の行動の中に、驚かせてしまったり不快にさせてしまったりすることもあっただろうに、噯気にも出さなかった。
と、思い返せば、このくらいの不用意な感じは、仕方ない、と栞里は慌てて目を逸らして背を向け、深呼吸をする。いや、そもそもタオルケットを巻いて出てこいと言ったのは自分だ。他にどうしようもなくて。
タオルケットでも、サイズが小さいとか、もう、不可抗力だろう。
栞里が家に運んだ時は、本当に四つ足の獣の姿だった。人と同じ姿で、耳が獣で、尻尾が生えている、という姿が一番長いのは、栞里に合わせているのだろうか。そして、風呂場から出てきたのは、二足歩行をする大きな獣だった。
お風呂場、狭かったよね、大丈夫だった、と心配になる大きさ。いや、栞里にとっては広いお風呂なのだけれど。こぢんまりとした作りのこの家は、空間がどれも広々ととってあるので、なんとかなっているのだろうとぼんやりと思う。
身をかがめてリビングのドアをくぐってきたヴィルは、そんな姿で、タオルケットは腰から下に巻いているだけ。
「そっか。お風呂にせっかく入るんだから、皮膚も毛も、きれいに洗ってさっぱりしたいよね。それ乾かすのにドライヤーは、ないね」
冷静な分析は口にしてしまうのは、冷静じゃない証拠だとは、なかなか相手は思ってくれない。ただ、背を向けたまま、という状況だから、栞里のこれまでの行動と考えあわせてヴィルにもその心境は察することができる。
「シオリ、獣化した俺を触っていたんだろう?この姿なら問題ないと思ったんだが」
声に笑いが含まれている。
なんだか無性に悔しくて、栞里は子供のように頬を膨らませる。
「なんか違うし!蒸し返さないでっ」
そのヴィルから見れば小さく華奢な背中を見て、ヴィルの方が可愛いなぁ、と撫で回したい衝動を覚える。さすがにそれをしたら、ものすごく拒絶されそうで、それが怖くて思いとどまったけれど。
「使った後をどうするか聞いていなかった」
「ああ、そのままで。この後わたしが使うから」
「え?」
引きつった声に、栞里は振り返る。
獣の顔。だけど、表情は分かるのが不思議だ。
「俺の後に?」
「?この国では普通だよ。お客様に先に入ってもらって、家の人間は後で残り湯を使うの」
聞いた瞬間、崩れ落ちるようにしゃがみ込み、ヴィルは大きな両手で顔を覆った。この姿だと、ちゃんと五本指の人間の手が、獣みたいに毛に覆われていて爪が長いだけなのね、となんだか栞里は観察してしまう。
「俺は、客じゃないだろう」
「お客様だよ?」
「…しかも俺の後に湯を使うとか、聞いていれば湯に入らなかったぞ」
「…自分が入った後に誰か入るの、気持ち悪い?文化が違うからそうだよね。うん。今日はシャワーだけにするから大丈夫。安心して?」
お湯をはり直すのもそんなに大変じゃないから、入りたかったら張り直すから、明日からも気にしないで好きなように使ってね?
と言われれば、ヴィルはどんどん落ち込みを深めていく。
「そうじゃない」
「え、お風呂場は一つしかないから、同じところなのが嫌なのは、許してね?なんか、ヴィルは育ちが良さそうだからそこがちょっと心配だったんだけど」
確かに、他の人間と同じ風呂ではなかったが。だが、仕事で遠征すれば部下たちと同じように風呂を使う。風呂に入れれば良い方だ。
いやとにかく、そこじゃない。
「お前の方が、嫌じゃないのか」
「?」
「獣が入ったんだぞ」
「毛だらけなの?だったら…掃除してからかなぁ」
わざとかというくらいの噛み合わなさに、ヴィルらしからぬ蹲み込んだ姿勢から頭を抱え込まれて、さすがに心配になって栞里は歩み寄って覗き込んだ。慣れない風呂で湯当たりでもしたのか、と。
近づいてきた栞里の手元に気付いて、ヴィルは顔を上げる。その手には先ほどここに入れておけと言われたカゴに入れたはずの自分のブリーチズがある。
「シオリ?」
名前を呼ばれ、その視線を追って、栞里は慌てて取り繕おうとするが。どうやって取り繕うというのだろう。脱いでもらった服を洗濯する前にうっかり観察しちゃうとか。乾いている方が見やすいとか、言い訳でしかない。
「や、あの。尻尾、どうやって出してるのかなぁ、と。服を買った後でわたしが加工できる素材にしないといけないかと思って…ごめんなさいっ。無断でやることじゃありませんでした」
「また、ごめん、か」
「いや、ここはどう考えても謝るところです。むしろ謝って済ませようとしていますが」
なぜか偉そうに胸を張って言い返され、ヴィルはつい笑ってしまう。
大きな口には鋭い牙があり、怖いと言われそうな獣の顔が笑ったと見てとって、栞里は可愛い、と思ってしまう。
そうして、手に持っていたヴィルの服を、丁寧にたたんだ。
「もうしませんから。今日は疲れたでしょう。さっきの部屋で休んでください。わたしももう、お風呂に入って寝るから」
「…わかった」
「おやすみなさい、ヴィル」
「ああ、おやすみ」
翌朝。
知らない場所だというのに自分でも信じられないほどの熟睡から目覚めたヴィルは、おそらくここにおいてもらうしかない以上、栞里ときっちり、話し合いが必要だと悟った。
と、思い返せば、このくらいの不用意な感じは、仕方ない、と栞里は慌てて目を逸らして背を向け、深呼吸をする。いや、そもそもタオルケットを巻いて出てこいと言ったのは自分だ。他にどうしようもなくて。
タオルケットでも、サイズが小さいとか、もう、不可抗力だろう。
栞里が家に運んだ時は、本当に四つ足の獣の姿だった。人と同じ姿で、耳が獣で、尻尾が生えている、という姿が一番長いのは、栞里に合わせているのだろうか。そして、風呂場から出てきたのは、二足歩行をする大きな獣だった。
お風呂場、狭かったよね、大丈夫だった、と心配になる大きさ。いや、栞里にとっては広いお風呂なのだけれど。こぢんまりとした作りのこの家は、空間がどれも広々ととってあるので、なんとかなっているのだろうとぼんやりと思う。
身をかがめてリビングのドアをくぐってきたヴィルは、そんな姿で、タオルケットは腰から下に巻いているだけ。
「そっか。お風呂にせっかく入るんだから、皮膚も毛も、きれいに洗ってさっぱりしたいよね。それ乾かすのにドライヤーは、ないね」
冷静な分析は口にしてしまうのは、冷静じゃない証拠だとは、なかなか相手は思ってくれない。ただ、背を向けたまま、という状況だから、栞里のこれまでの行動と考えあわせてヴィルにもその心境は察することができる。
「シオリ、獣化した俺を触っていたんだろう?この姿なら問題ないと思ったんだが」
声に笑いが含まれている。
なんだか無性に悔しくて、栞里は子供のように頬を膨らませる。
「なんか違うし!蒸し返さないでっ」
そのヴィルから見れば小さく華奢な背中を見て、ヴィルの方が可愛いなぁ、と撫で回したい衝動を覚える。さすがにそれをしたら、ものすごく拒絶されそうで、それが怖くて思いとどまったけれど。
「使った後をどうするか聞いていなかった」
「ああ、そのままで。この後わたしが使うから」
「え?」
引きつった声に、栞里は振り返る。
獣の顔。だけど、表情は分かるのが不思議だ。
「俺の後に?」
「?この国では普通だよ。お客様に先に入ってもらって、家の人間は後で残り湯を使うの」
聞いた瞬間、崩れ落ちるようにしゃがみ込み、ヴィルは大きな両手で顔を覆った。この姿だと、ちゃんと五本指の人間の手が、獣みたいに毛に覆われていて爪が長いだけなのね、となんだか栞里は観察してしまう。
「俺は、客じゃないだろう」
「お客様だよ?」
「…しかも俺の後に湯を使うとか、聞いていれば湯に入らなかったぞ」
「…自分が入った後に誰か入るの、気持ち悪い?文化が違うからそうだよね。うん。今日はシャワーだけにするから大丈夫。安心して?」
お湯をはり直すのもそんなに大変じゃないから、入りたかったら張り直すから、明日からも気にしないで好きなように使ってね?
と言われれば、ヴィルはどんどん落ち込みを深めていく。
「そうじゃない」
「え、お風呂場は一つしかないから、同じところなのが嫌なのは、許してね?なんか、ヴィルは育ちが良さそうだからそこがちょっと心配だったんだけど」
確かに、他の人間と同じ風呂ではなかったが。だが、仕事で遠征すれば部下たちと同じように風呂を使う。風呂に入れれば良い方だ。
いやとにかく、そこじゃない。
「お前の方が、嫌じゃないのか」
「?」
「獣が入ったんだぞ」
「毛だらけなの?だったら…掃除してからかなぁ」
わざとかというくらいの噛み合わなさに、ヴィルらしからぬ蹲み込んだ姿勢から頭を抱え込まれて、さすがに心配になって栞里は歩み寄って覗き込んだ。慣れない風呂で湯当たりでもしたのか、と。
近づいてきた栞里の手元に気付いて、ヴィルは顔を上げる。その手には先ほどここに入れておけと言われたカゴに入れたはずの自分のブリーチズがある。
「シオリ?」
名前を呼ばれ、その視線を追って、栞里は慌てて取り繕おうとするが。どうやって取り繕うというのだろう。脱いでもらった服を洗濯する前にうっかり観察しちゃうとか。乾いている方が見やすいとか、言い訳でしかない。
「や、あの。尻尾、どうやって出してるのかなぁ、と。服を買った後でわたしが加工できる素材にしないといけないかと思って…ごめんなさいっ。無断でやることじゃありませんでした」
「また、ごめん、か」
「いや、ここはどう考えても謝るところです。むしろ謝って済ませようとしていますが」
なぜか偉そうに胸を張って言い返され、ヴィルはつい笑ってしまう。
大きな口には鋭い牙があり、怖いと言われそうな獣の顔が笑ったと見てとって、栞里は可愛い、と思ってしまう。
そうして、手に持っていたヴィルの服を、丁寧にたたんだ。
「もうしませんから。今日は疲れたでしょう。さっきの部屋で休んでください。わたしももう、お風呂に入って寝るから」
「…わかった」
「おやすみなさい、ヴィル」
「ああ、おやすみ」
翌朝。
知らない場所だというのに自分でも信じられないほどの熟睡から目覚めたヴィルは、おそらくここにおいてもらうしかない以上、栞里ときっちり、話し合いが必要だと悟った。
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