拾われにきた獣〜氷の獣人公爵〜

明日葉

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幕間

羞恥を突き抜けた

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 腕の中で呆れるのを通り越してかわいそうになるほどに固まっている栞里を見下ろし、ヴィルはため息をつく。
 そのため息で胸が上下するのも、吐き出された息の流れも体感して、栞里は尚更縮こまる。


「楽にしていいぞ」
「うぇ~」


 表現し難い種類の声を出して栞里の体が丸まろうとするが、それは叶わない。
 人型の時も、引き締まった体をしていて、細マッチョだなと思う。いや、着痩せしているだけで、実際相当にしっかりと筋肉がついていることは、初日の夜で分かっている。
 が、半獣人の体はさらに大きい。ただ、背中を流す、と言う名目で割と何回も至近距離で目にしているし触れているし。人肌よりもまだ居心地は悪くなかろうとこれを指定したのだけれど。
 毛皮に覆われた体。毛皮の向こうには、柔らかく、そして必要とあらば鋼鉄のようにもなるのであろう筋肉の鎧を纏っている。獣の姿の時より少し、鼻先は丸いけれど、やはり長い鼻。長く、鞭のようにしなる筋肉を持つ手足。そして、全身の体毛は、栞里の大好きなふわふわもふもふさらさらで。それを維持しているのに栞里も一役買っているのだから。


 いっそ、自分も抱き枕にしてしまえば、この言いようのない恥ずかしさから逃げられるかと、向き合ってみる。そうすれば自然とやんわりと抱き寄せられるから、自分もヴィルに手を回してみた。
 回りきらないけれど。
 手触りは最高。その奥の筋肉の弾力も癖になりそう。
 でも。抱きついていれば、顔を発達した胸板に押し付けるわけで。恥ずかしさを克服する前に、息苦しさに負けた。


「ぷはっ」


 胸元から不意に顔を逸らして新鮮な息を吸い込む様子に、ヴィルは喉の奥で笑う。そんなに顔を押し付けていたら息苦しくもなるだろう。緊張して呼吸が浅いからなおさらだ。


 寝返りをうとうとする気配に、腕を緩めてやる。


 もぞもぞと不器用に動くのが面白い。手を貸してやれば、首筋がほんのりと赤く染まっている。誘われるようにヴィルは鼻先を埋めた。
 少し湿った鼻先が首にあたり、冷たさとくすぐったさに栞里は首を竦める。


 そうしながら、背中にぴったりと、少し体温が何時もより高い気がするヴィルがくっついたのが分かった。時々。そう、昼に女の人たちから助けてもらった時など特にそうだった。どちらかというと、ひんやりとした肌の印象があるのだけれど。でも獣人、というくらいなのだからあったかいのかな、などと思いながら、自分の腰に回された大きな手を見るともなく見つめる。


 なんとなく、その手に手を伸ばせば、なされるがままに、むしろ栞里がしたいように動いてくれるから、その手を持ち上げて目の前まで持ってくる。


「おっきい手だね。指、長い。いいなぁ」
「いいな?」
「指が長くて、綺麗な形の手で羨ましい。…人型の時より、手、大きい?」
「ああ」
 揉み揉み、と、さわさわ、と自分の手に戯れるほっそりとした小さな手を眺めながら、ヴィルは少し、自分の方からも手を動かす。
 逃げるような動きをしたと思えば絡め取られそうになり、強く握り込まれて、少し痛くて、仕返しをしようと思えば届かない遠くに逃げられる。


 ずるいっ



 と、首を捻って振り返る栞里に、もう羞恥の色はない。単純だな、と思いながら、ずるいと言われた片方の手を栞里の両手に与え、もう片方の腕でしっかりと栞里の体を引き寄せる。栞里の背面に、ぴたりと隙間なく体を添わせた。何にも掠め取られないように。入り込まれないように。
 足を絡めとれば、居心地悪そうに逃げようとするから、しっかりと押さえ込んだ。普段触れない足に毛並みが触れてくすぐったいのか。いや、また羞恥心が戻ったかとヴィルは腰に回した手に力を加え、そして、栞里の目の前に尻尾を回して見せた。尻尾でも囲い込むように。

「今日は、この向きでいいか」

「今日は?」


 悪い夢を見た今だけの話じゃないのかというような問い返す声をごまかすように、栞里の前に尻尾を置けば、条件反射のように抱きつくから。
 抱きついた手に先ほどまで栞里の手の相手をしていた方の手を乗せ、握り込む。




「起こして悪かったな、シオリ」
「…眠れそう?」


 わたしは、この状況で眠れる気がしないのだけど。

 というくらい、頭はいっぱいいっぱいなのに。


 ああ


 と短い声なのに幸せそうにヴィルが言うからそんな主張もできず。
 眠れないと思ったのに、背中から感じる心音と、極上の毛皮の手触りに全身を包み込まれた安心感で。





 まんまと栞里は眠りに落ちた。






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