拾われにきた獣〜氷の獣人公爵〜

明日葉

文字の大きさ
65 / 87
4 獣人公爵、大学に行く

卒業

しおりを挟む


「卒業したら、すぐに行くのか?」


 ぶっきらぼうにそう言った、弟、歳里の顔を思い出す。ヴィルを紹介しに帰った時。
 言い出したら聞かないにしても、と、ものすごく不機嫌だった両親。ただそれでも、決めたのなら、と認めてくれた、と栞里は少し、肩の力は抜けた。伝えたいことが、言葉の選び方が下手なのか、いつも両親には少し違って受け止められてしまう。
 ヴィルと一緒にヴィルの国に行くつもりだから、就職活動もしていなかったと言えば、さすがに怒りたかっただろうに。ヴィルがいるから、言葉を飲み込んでいた。勝手な話だと、自分でも思う。


「いつ、て決まってないんだけど。…連絡できそうだったら、歳里には連絡するから。家のことで何か困ったことあったら、連絡ちょうだいね」
「帰ってこないみたいな言い方するんだな」

 栞里は、困惑顔になる。
「簡単に帰ってこられるか、分からないから。…この人、一応なんか、立場のある人みたいだから」











 卒業式当日。入学式もそうだったけれど、栞里の家族は誰もこない。大学なんて、そんなものだと言われればそうなのだろうな、と納得はする。ただ、そう言う割に保護者の数が多いのは、それなりの有名大学だから、だろうか。

「馬子にも」
「うるさいよ、小林くん」

 会場に入る前に合流した小林が言いかけたところで栞里が睨む。
「彼女は?いいの?」
「ああ、大丈夫」
 気のない返事に、栞里はヴィルと顔を見合わせる。
 着ている袴は、オーナーが用意してくれたもの。着付けは、まさかのヴィル。卒業式でこういうものを着ることが多いと事前に乃莉から入れ知恵をされ、なぜか覚えたらしい。なんでこう、なんでもできるんだろうな、と呆れて栞里は任せたが、仕上がりを見てかつてないほどにヴィルの尻尾がぶんぶんと振り回さんばかりに振られていたのを思い出して笑ってしまう。
「どうした?」
「なんでもないよ」
 顔を覗き込んだヴィルに笑いかけながら、仲間たちと写真を撮っていく。
「なんだか、わかってたけど腹が立つくらいに似合うな」
 しっかりとスーツを着込んだヴィルに小林が悪態をつけば、ヴィルは皮肉げに笑みを浮かべて流している。なんだかんだ、この2人、仲良いよなぁ、と栞里は眺めながら、そりゃ似合うだろうな、とも思う。何せ、サイズがなくてオーダーメイドなのだから。

 今日くらいは、ヴィルが軟化するのではないかとなぜか思った集団に囲まれて一蹴し、ついでに隠し撮りをしようとしたのは見事に避けて通るヴィルに呆れながら、栞里は学生最後の日に浸って。
 それぞれにゼミの謝恩会があるからと卒業式後は解散になるからと、そこまではずっと、いつもの顔ぶれと一緒にいた。後輩の瀬崎たちも当たり前のように来てくれていた。


「お前、泣くなよ」
「うるさい。今までみたいに簡単に会えなくなると思うと寂しいんだよ」
「素直だなぁ」

 近いうちに、近況報告かねて集まろうと言うのに笑顔だけ向けて、栞里はヴィルの顔を見上げた。
「帰ろっか」
「…いいのか?」


 名残を惜しまなくて、ではない。
 ここに、栞里には大事なものがたくさんある。一緒に通えばそれもわかった。それを置き去りにしていいのか、と。
 今さら、と笑って栞里はヴィルの大きな手に自分の手を重ねる。




「わたしは、こうやって、ヴィルと手を繋いでいたいの」









 ゆっくりと、坂道を登り、中程にある喫茶店。
 店の前に、車椅子の女性、オーナーと、サライ、そしてもう1人、知らない女性が立っている。

「お帰りなさい。卒業おめでとう」
「オーナー、袴ありがとうございます」
「似合うと思ったの」

 ふわっと笑い、オーナーは一緒にいる女性を示す。

「うちの遠縁の子と結婚してくれた人よ。絢佳さん」


 いろいろなことを引き継いだ人の奥さん、と栞里が納得していると、柔らかく、その人は笑いかける。

「たまたま、わたしあなたたちと同じ大学の卒業生なんです」


 そう言って、お店の前に並んで、と促される。
 オーナーを中心に、栞里とヴィル、サライが並ぶと、楽しそうに写真を撮ってくれるから、栞里は自分のスマホも渡してお願いする。


 撮ってもらった写真を嬉しそうに眺めながら喫茶店に揃って入った直後。




 覚えのある光に、包まれた。










しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜

ちょこの
ファンタジー
もふもふな相棒「ヴァイス」と一緒に、今日もダンジョン生活♪ 高校生の優衣は、ダンジョンに挑むけど、頼れるのはふわふわの相棒だけ。 ゆるふわ魔法あり、ドキドキのバトルあり、モフモフ癒しタイムも満載! ほんわか&ワクワクな日常と冒険が交差する、新感覚ファンタジー!

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...