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しおりを挟む世話をされていたわけでもないのに、艶の良い黒い毛は青みがかった印象もあってきれいだな、と、言葉を交わして警戒心もなくなると呑気に感じる。ケルベロスを見つめて、それから目をスライムに移した。
不思議な生態のその生き物が、本当に目の前にいるのだなと妙に感慨深い。元の世界ではファンタジーやゲームでは大活躍の生き物。サイズ感は思い描いていたものと違い、両腕で抱えるような大きさだ。ただ、先ほどワームを収納したり体に似合わない量を食べていたのを考えると、大きさも姿形も変幻自在なのだろうか。質量は変わらないのではないのかな、などと考え始めて、やめた。
「ダルヴァザ」
ケルベロスに呼びかけると、ふわり、と互いの体を光が一瞬包んだ。
「プリュイ」
スライムとも同じように。
黙って側で見ていたヴィクターが見届けるようにしてから体を引き寄せられた。
契約を交わすにも、魔力が必要になるらしい。補助するように添えられていたヴィクターの手を通して馴染みのある力が流れて外に向かっていった。
勝手のわからないままでも何とかなるのは、いっそ使えないばかりに頼りきりになっているおかげもあるような気がしてくる。他力本願極まっているが。
感謝を伝えようと見上げると、見下ろしている顔が笑っている。
「?」
思わず首を傾げると、ヴィクターは満足げな2体に視線を向ける。
「それで、なんと呼ぶんだ?」
ああ、そうか。
タイちゃんは、名付けたきりほぼつけた名前そのままで呼んでいない。
呼びやすい呼称を使ったところ、真の名は知られない方が良いとなまじ認められたばかりに。そもそも精霊の加護を得ること自体が非常に珍しが、そこにきてタイちゃんは2種類の属性、しかも対照になるものを持ってる。そして、聖女についていた時には下級精霊だったものが、力を消えるほどに酷使しながら別の精霊の助けで生き延びたことで上級精霊になった。らしい。その名を知られることは契約者がいることで安全ではあるが、それでも危険はあるのだという。
とはいえ、そこまで考えてのことではなく、ひたすら呼びやすくて可愛いからだ。
「ダルさんとプーちゃん?」
はなから愛称呼びになるだろうと尋ねるヴィクターもだが、聞かれれば自分が今後なんと呼ぶかはなんとなく予想できてしまう。
え、という顔をする2体に、だめ?と首を傾げると、ため息が聞こえるようだった。
「もう、受け入れてしまったし…」
やや、歯切れ悪いダルヴァザにプリュイの方はけろりとしたものだ。
ところで、と気になることを口にする。
スライムはともかく、ケルベロスの姿は人目を引く。ここでならともかく、人里に降りた時が気がかりだ。
「一応聞くけど、ダルさんはその姿は変えようがないのよね?」
「姿?」
「頭が3つというのは、目立つと思っただけなんだけど。まあ、足は4本だし、変わりようもないか。大きさも、だいぶ大きいし」
「変われるが…役には立たなくなるぞ?」
「え?」
聞き返す間に、大きな存在感が姿を消す。
視線を落とすと、同じ色合いの獣が2体。片方ずつ目の色が違う犬(?)が1体と、目の色は同じ犬が1体。
「え?」
どちらも幼い姿だ。可愛い。可愛いが、違和感がすごい。
なぜ3体じゃない?という疑問もだけれど。
とりあえず状況が飲み込めないでいると、目の色が同じ方が口を開いた。
「頭2つはそっちで一緒になっている。そっちの情報もこちらで受け取れるが、そっちは2体分の脳内を処理して1つの口で話すのが難しいからあまり話せない。身体機能はそっちの方が上だが、元の姿よりは格段に落ちる。何せこの体格だ。戦闘力もなくなる。前の契約者にはこのこの姿は見せたこともない」
「…なるほど?」
2つで一つになれるなら、4本の足を2体で分けて合計8本もあり…なのかしら?
戸惑いしかない様子をヴィクターは眺めていたようだが、この世界の人だけあって状況を受け入れるのは早いらしい。
「うまく使い分ければいいだろう。この森でも、あの大きさでは動きにくかったのではないのか?」
「頭3つのままでも、多少大きさは変えられる」
なるほど、と受けているけれど。そんなにすんなり理解できることなのね?
そんなヴィクターも含めて驚きの目で見てしまう。
「それで、この森にいたお前たちに聞きたいことがある」
言葉を待つような様子に、ヴィクターは目指す山地の方へ視線を向けた。
「あそこの龍のことだ」
なんだ、と2体とも、つまらなそうな口調になった。
「2人もなんだね。人はみんな、あそこの竜を目指す。成体の竜は倒せなくても、あそこのは簡単だからと」
どういうことだろう?
揃って首を傾げた。竜と繋がりの深いヴィクターも知らない情報はどこかのコミュニティでは当たり前の情報で狙っているということか。
「卵はそこまでいければ持ち去るだけだ。割った中である程度育っていれば、卵もいい素材だけれど、竜の体の素材も手に入る」
「え?」
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