8 / 50
第8話・工芸品の裏側
しおりを挟む
”キーンコンカーンコーン”授業終了の鐘がなった。
この授業中、私は完璧な学生を演じてはいたが、さっきの事で一杯で、何も頭に入ってこなかった。
いつもの”リリス”の行動パターンならこの時間私は食堂に向かい、同級生たちと食事やおしゃべりをするはず。でもさっきの職員室での選挙辞退の騒動を何人かは聞きつけていると思う。こんな状況で食堂に行くなんて絶対に良い選択じゃない。だから同級生たちに見つからないよう、私はいそいそと教室をあとにした。
「リリスさん、一緒に食堂に行き・・・。れれ?」
「リリスさんは今日何か用があったのかな?」
いつもリリスを誘う同級生たちはあちこち探してみたが見つけられなかった。
学校はとても広く、食堂の他に、庭園で食事をする人もいる。この人たちは普通教室から近いところに集まって、食事の後すぐに戻ってこれるようにしている。だから庭園の教室から遠いところは誰からも話しかけられることのない場所になる。
バラ園はまさにそのような場所だった。珍しいバラを育てているところは週末、恋人たちにとって格好のデート場となっているが、しかし遠いために昼食の時間にそこに行く人はほとんどいなかった。
私はバラ園へ入っていき、その中にある東屋に座った。
すっとスカートのポケットから包まれたケーキを取り出した。そして静かに、できるだけ音を立てないように食べ始めた。
何か飲みたい・・・
いつも食堂で昼食を食べるのがリリスの日常で、かつて例外はなかった。だからケーキを昼食にしたこともなく、水や紅茶の用意などしていなかった。しかも今水を飲みたいと思っても、教室から一番遠い東屋ではどうすることもできない。言うまでもなく、一度食堂に戻ってしまったら、同級生たちの質問攻めから逃れられない。
このケーキは本当はとっても美味しいに違いないのに、飲み物がないのでとても飲み込めたものではない。
食べにくい・・・でも朝食も食べてないし、お腹はとても空いている。しかも昨日の夜はずっと泣き通しで、もう気力も限界。もし今このケーキを食べなかったら、きっと下校時間までもたない。
それと、この昼食時間を有効に使って、さっき職員室で起きたことをよく思い出さないといけない。
「・・・・・・・・・・・・」生徒会長選挙に向けて努力しなくちゃいけない私から辞退の申し出を聞いた教授たちは、きっととても失望したでしょう・・・。
これは”リリス”がすべきことではなかった。
最初からよく考えるべきだった。会長選に出るかどうかは、死に戻る前の不幸とは関連がない。ただ私がわがままだっただけだ。
・・・・・・・・・
なんとか思い出すのをやめ、選挙のことに考えを集中させる。
大丈夫、生徒会長に当選したとしても、殿下から距離を置くようにすればいいんだから・・・。
そうすれば、殿下のために私が傷つくこともないから・・・
頭の中で数え切れないくらい何度も自分自身を説得しようとした。
でも心の中の気持ちは、どうにも抑えられなくて、涙となって頬を滑り落ちた。
人に聞かれないよう椅子にしがみついて泣いた。
死に戻る前の牢屋の、絶望の中の絶望とは違う。
今度は、自分の目で自分が消えるのをすべて見なければならない。
今度は、自分の手で自分が手にしていたものすべてを葬らなければならない。
苦しい、辛い、嫌だ。
#
#
#
#
#
#
#
「殿下!たった今リリス様のことについて耳にした事があるのですが・・・」とナミスが入ってきた。
「すでにそのことについては話したはずだ。この件についてこれ以上話すことはない。小細工などいらない!」カシリアはやや怒声まじりに言った。
「いえ、そうではありません、殿下。評議会の成績が出て間もなくのことです。リリス様が職員室に入っていき立候補の取り消しを願い出ているのを聞きました。」
「!!!!???ナミス!!貴様コソコソと何をした!!」カシリアは怒鳴った。
「そんな馬鹿なことがあるものか!私がリリスのことを知らないとでも思っているのか!?先日あの完璧な演説をやってのけた女が今日突然諦めただと!?私を謀るなナミス!答えろ!一体何をした!」
カシリアはナミスに近づき怒鳴りつけた。
「殿下、落ち着いてください」ナミスは落ち着いて少し下がった。
「本当に私は何もしておりません。そしてリリス様は確かに辞退を願い出ましたが、しかし教授方は説得していました。あの演説から今日まで何があったのかはわかりかねますが、私の見たところリリス様は情緒不安定に陥っておられます。殿下にとっては良いことかと。」
「リリスに限ってそんなことはありえないな」カシリアは信じられないといった様子で、「つまりあの完璧なリリスが今、心に問題を生じたと?ありえない。もし母君のことが原因であるなら、演説のあの日に異常を見て取れただろう、決して今日ではない。」
カシリアは全く持って信じようとしない。
「まさか父王の意思では!?」
「それはありません。これは陛下のやり方ではありません。」ナミスは冷静に答える。
「わかっている。しかし絶対にリリスのやり方でもない。あの女は絶対に途中で投げ出したりせないことを私はよく知っている。やはり解せない。直接聞いてみるほかないな。」
カシリアは思案の後、真相を突き止めることにし、すぐに皇室用休憩室を出ていく。
「現在昼食の時間です。彼女は食堂かと。」ナミスは付き添いつつ助言をした。
それを聞いたカシリアはさっそうと食堂に入り、部屋の隅々までリリスを探した。
おかしい、いつもならリリスはここにいるはずだ。俗な貴族子女に囲まれて、動く社交場を成しているはず。しかし、今日は見たところそのような集団がいない。この普通ではない光景は、カシリアを混乱させた。
「あっ!カシリア殿下、お食事に来られたのですか?ご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「カシリア殿下、今度の生徒会長選、私はずっと殿下を支持しています。私は・・・」
「カシリア殿下・・・」
媚を売ってくる貴族たちが、カシリアを見つけるとすぐに、少しでも印象を残そうと色々と声をかけてきた。
「・・・・・・」カシリアは軽蔑の目で彼らゴマすり貴族を睨みつける。実に嫌な奴らだ。
食堂の前を通るといつも必ず貴族たちの視線を集めるので、あまり食堂には近づかないことにしていた。
王族である以上、カシリアは常に上流階級の社交場に出なければならない。だから貴族たちと相対する経験も十分に豊富だった。
王族は貴族と同類には違いないが、しかしカシリアは貴族たちの人に対する態度をどうしても好きになれなかった。
媚を売ってくる貴族たちは、目上の者にむかっては、笑顔と愛想をふりまき、相手の好感を得ようとする。しかし目下の者を見つけると、すぐに笑顔はなくなり、傲慢な態度で社交場から追い出しにかかる。
このような口先だけの、権力と名誉のためだけに生きている貴族を、カシリアは心底嫌っていた。
奴らにリリスの爪の垢でも飲ませてやりたい。
リリスはカシリアが見た中で最も素晴らしい貴族の一人で、すべての人に対して貴賎に関係なく向き合う。王族に対しても同じで、カシリアと対するときでも、卑屈になったり傲慢になったりすることはなく、どんなときでも完璧な貴族というものを見せてくれる。あのような自己の欲望ばかり見せつけてくる貴族とは明らかに違う存在だ。
カシリアにとってリリスは、確かに完璧であった。しかし完璧とは心を込めて作り上げた芸術品でしかない。”満点”は一般の学生を熱狂させる。しかし常に”満点”であるリリスは、それが普通になり、人々にとって”あたりまえ”になってしまう。
最も優秀な答え、最も優秀な行動が、カシリアには優秀すぎて面白みが感じられない。
このように思っていたので、今日のリリスの異常な行動がカシリアには殊の外気になった。
貴族を侮蔑する気持ちを抑えつつ、貴族たちに尋ねた。
「リリスがどこにいるかしらないか?探しているのだが。」
「リリスさんなら今日は体調がよくないようでしたよ。」
「そうそう、いつもならリリスさんとご飯を食べるんだけど、今日は授業後すぐにいなくなったわ。」
「それに今日リリスさん遅刻したのよ。初めて見たわ。」
貴族たちから色々と反応が返ってきたが、簡単に言えば”今日のリリスは確かに普通ではない”ということだった。
公爵殿の愛妻が亡くなって一か月間ほどだが、この明らかな異常は、あの何をやっても完璧なリリスが、この時期に陥るべき失態ではありえない。
何が起きたかは定かではないが、なんとしても彼女を捕まえて聞かねばならない。
「そういえば、リリスさんによく似た人がバラ園の方へ行くのを見た気がします。」
その中の一人がためらいがちに言った。
「バラ園?それはリリスにはふさわしくない場所だな。」カシリアは冷たく問い返した。
「も、申し訳ございません。はっきりと本人を確認したわけではありませんので・・・」貴族は慌てて答えた。
「・・・わかった」カシリアはそう言うと、身を翻して食堂を出ていった。
リリスは昼食時間にいなくなり、そしてなんの手がかりも得られなかった。
授業が始まればリリスが帰ってくることはわかっているが、それでは遅すぎる。早く何が起きているのかを明らかにしたい。
「ナミス、お前はどうおもう?」
「日頃リリス様とよく一緒にいる貴族の少女に聞いてみましたが、やはりリリス様がどこへ消えたのかは知らないそうです。」
「・・・。しかたない、まず校舎内を探してみよう。」
「御意」
「正門から左側をお前に任せる、私は右側を探す。」
右側は校舎の外れで、バラ園もそこにある。この手がかりには希望を持っていなかったが、どんなに小さな手がかりでもはっきりさせた方が良いだろう。
カシリアは西の方を見回しながら、ゆっくりとバラ園へと入っていった。
突然、目の前に雪のように白い人影をみた。
整った制服、優雅な歩き方、髪が舞い超然とした姿。
間違いなく、これこそ今日突然にいなくなっったリリスその人だ。
バラ園は教室から最も離れた場所にある。リリスはここで一体何をしている?
合理的な答えを見つけられないが、しかしこれはリリスの行動には全くふさわしくない。
強い好奇心に襲われ、静かに後をつけ、その秘密を観察することにした。
リリスは静かに東屋に座り、スカートからケーキを取り出し、そしてゆっくりと食べ始めた。
これはどういうことだ??????食堂にいかず、こんな遠いところまできて、ただケーキを食べている?
進み出るべきか?カシリアはそれほど我慢強い方ではない。しかしこのあまりにも普通ではない光景に、カシリアはすぐに判断をすることができず、そう遠くないところで隠れて見守るほかなかった。ちょうど頭を下げていたリリスはカシリアを見つけることができなかった。
・・・・・・・・・時間は静かに過ぎていくが、リリスはずっと同じ姿勢のままで、まるで時間の止まった庭園の芸術品のようになっていた。
!!!!!!!!!!!!!!
この広いバラ園はとても静寂だった。たまに風に揺れる草木の音以外何も聞こえなかった。ただ一つ、リリスの涙が地面に落ちる音を除いては。
自分の感情を押さえるように、リリスは強く自分の体を抱きしめ、泣き声を噛み殺し、しかしその苦痛は顔にはっきりと現れていて、手の中のケーキは握りつぶされてしまっているようだ。この静かな庭園に泣き声は聞こえてこないが、涙はその精気のない目からとめどなく流れ出し、地面に落ちるポタポタという音が東屋に響いていた。
・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!
あれは・・・リリスなのか!?
この授業中、私は完璧な学生を演じてはいたが、さっきの事で一杯で、何も頭に入ってこなかった。
いつもの”リリス”の行動パターンならこの時間私は食堂に向かい、同級生たちと食事やおしゃべりをするはず。でもさっきの職員室での選挙辞退の騒動を何人かは聞きつけていると思う。こんな状況で食堂に行くなんて絶対に良い選択じゃない。だから同級生たちに見つからないよう、私はいそいそと教室をあとにした。
「リリスさん、一緒に食堂に行き・・・。れれ?」
「リリスさんは今日何か用があったのかな?」
いつもリリスを誘う同級生たちはあちこち探してみたが見つけられなかった。
学校はとても広く、食堂の他に、庭園で食事をする人もいる。この人たちは普通教室から近いところに集まって、食事の後すぐに戻ってこれるようにしている。だから庭園の教室から遠いところは誰からも話しかけられることのない場所になる。
バラ園はまさにそのような場所だった。珍しいバラを育てているところは週末、恋人たちにとって格好のデート場となっているが、しかし遠いために昼食の時間にそこに行く人はほとんどいなかった。
私はバラ園へ入っていき、その中にある東屋に座った。
すっとスカートのポケットから包まれたケーキを取り出した。そして静かに、できるだけ音を立てないように食べ始めた。
何か飲みたい・・・
いつも食堂で昼食を食べるのがリリスの日常で、かつて例外はなかった。だからケーキを昼食にしたこともなく、水や紅茶の用意などしていなかった。しかも今水を飲みたいと思っても、教室から一番遠い東屋ではどうすることもできない。言うまでもなく、一度食堂に戻ってしまったら、同級生たちの質問攻めから逃れられない。
このケーキは本当はとっても美味しいに違いないのに、飲み物がないのでとても飲み込めたものではない。
食べにくい・・・でも朝食も食べてないし、お腹はとても空いている。しかも昨日の夜はずっと泣き通しで、もう気力も限界。もし今このケーキを食べなかったら、きっと下校時間までもたない。
それと、この昼食時間を有効に使って、さっき職員室で起きたことをよく思い出さないといけない。
「・・・・・・・・・・・・」生徒会長選挙に向けて努力しなくちゃいけない私から辞退の申し出を聞いた教授たちは、きっととても失望したでしょう・・・。
これは”リリス”がすべきことではなかった。
最初からよく考えるべきだった。会長選に出るかどうかは、死に戻る前の不幸とは関連がない。ただ私がわがままだっただけだ。
・・・・・・・・・
なんとか思い出すのをやめ、選挙のことに考えを集中させる。
大丈夫、生徒会長に当選したとしても、殿下から距離を置くようにすればいいんだから・・・。
そうすれば、殿下のために私が傷つくこともないから・・・
頭の中で数え切れないくらい何度も自分自身を説得しようとした。
でも心の中の気持ちは、どうにも抑えられなくて、涙となって頬を滑り落ちた。
人に聞かれないよう椅子にしがみついて泣いた。
死に戻る前の牢屋の、絶望の中の絶望とは違う。
今度は、自分の目で自分が消えるのをすべて見なければならない。
今度は、自分の手で自分が手にしていたものすべてを葬らなければならない。
苦しい、辛い、嫌だ。
#
#
#
#
#
#
#
「殿下!たった今リリス様のことについて耳にした事があるのですが・・・」とナミスが入ってきた。
「すでにそのことについては話したはずだ。この件についてこれ以上話すことはない。小細工などいらない!」カシリアはやや怒声まじりに言った。
「いえ、そうではありません、殿下。評議会の成績が出て間もなくのことです。リリス様が職員室に入っていき立候補の取り消しを願い出ているのを聞きました。」
「!!!!???ナミス!!貴様コソコソと何をした!!」カシリアは怒鳴った。
「そんな馬鹿なことがあるものか!私がリリスのことを知らないとでも思っているのか!?先日あの完璧な演説をやってのけた女が今日突然諦めただと!?私を謀るなナミス!答えろ!一体何をした!」
カシリアはナミスに近づき怒鳴りつけた。
「殿下、落ち着いてください」ナミスは落ち着いて少し下がった。
「本当に私は何もしておりません。そしてリリス様は確かに辞退を願い出ましたが、しかし教授方は説得していました。あの演説から今日まで何があったのかはわかりかねますが、私の見たところリリス様は情緒不安定に陥っておられます。殿下にとっては良いことかと。」
「リリスに限ってそんなことはありえないな」カシリアは信じられないといった様子で、「つまりあの完璧なリリスが今、心に問題を生じたと?ありえない。もし母君のことが原因であるなら、演説のあの日に異常を見て取れただろう、決して今日ではない。」
カシリアは全く持って信じようとしない。
「まさか父王の意思では!?」
「それはありません。これは陛下のやり方ではありません。」ナミスは冷静に答える。
「わかっている。しかし絶対にリリスのやり方でもない。あの女は絶対に途中で投げ出したりせないことを私はよく知っている。やはり解せない。直接聞いてみるほかないな。」
カシリアは思案の後、真相を突き止めることにし、すぐに皇室用休憩室を出ていく。
「現在昼食の時間です。彼女は食堂かと。」ナミスは付き添いつつ助言をした。
それを聞いたカシリアはさっそうと食堂に入り、部屋の隅々までリリスを探した。
おかしい、いつもならリリスはここにいるはずだ。俗な貴族子女に囲まれて、動く社交場を成しているはず。しかし、今日は見たところそのような集団がいない。この普通ではない光景は、カシリアを混乱させた。
「あっ!カシリア殿下、お食事に来られたのですか?ご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「カシリア殿下、今度の生徒会長選、私はずっと殿下を支持しています。私は・・・」
「カシリア殿下・・・」
媚を売ってくる貴族たちが、カシリアを見つけるとすぐに、少しでも印象を残そうと色々と声をかけてきた。
「・・・・・・」カシリアは軽蔑の目で彼らゴマすり貴族を睨みつける。実に嫌な奴らだ。
食堂の前を通るといつも必ず貴族たちの視線を集めるので、あまり食堂には近づかないことにしていた。
王族である以上、カシリアは常に上流階級の社交場に出なければならない。だから貴族たちと相対する経験も十分に豊富だった。
王族は貴族と同類には違いないが、しかしカシリアは貴族たちの人に対する態度をどうしても好きになれなかった。
媚を売ってくる貴族たちは、目上の者にむかっては、笑顔と愛想をふりまき、相手の好感を得ようとする。しかし目下の者を見つけると、すぐに笑顔はなくなり、傲慢な態度で社交場から追い出しにかかる。
このような口先だけの、権力と名誉のためだけに生きている貴族を、カシリアは心底嫌っていた。
奴らにリリスの爪の垢でも飲ませてやりたい。
リリスはカシリアが見た中で最も素晴らしい貴族の一人で、すべての人に対して貴賎に関係なく向き合う。王族に対しても同じで、カシリアと対するときでも、卑屈になったり傲慢になったりすることはなく、どんなときでも完璧な貴族というものを見せてくれる。あのような自己の欲望ばかり見せつけてくる貴族とは明らかに違う存在だ。
カシリアにとってリリスは、確かに完璧であった。しかし完璧とは心を込めて作り上げた芸術品でしかない。”満点”は一般の学生を熱狂させる。しかし常に”満点”であるリリスは、それが普通になり、人々にとって”あたりまえ”になってしまう。
最も優秀な答え、最も優秀な行動が、カシリアには優秀すぎて面白みが感じられない。
このように思っていたので、今日のリリスの異常な行動がカシリアには殊の外気になった。
貴族を侮蔑する気持ちを抑えつつ、貴族たちに尋ねた。
「リリスがどこにいるかしらないか?探しているのだが。」
「リリスさんなら今日は体調がよくないようでしたよ。」
「そうそう、いつもならリリスさんとご飯を食べるんだけど、今日は授業後すぐにいなくなったわ。」
「それに今日リリスさん遅刻したのよ。初めて見たわ。」
貴族たちから色々と反応が返ってきたが、簡単に言えば”今日のリリスは確かに普通ではない”ということだった。
公爵殿の愛妻が亡くなって一か月間ほどだが、この明らかな異常は、あの何をやっても完璧なリリスが、この時期に陥るべき失態ではありえない。
何が起きたかは定かではないが、なんとしても彼女を捕まえて聞かねばならない。
「そういえば、リリスさんによく似た人がバラ園の方へ行くのを見た気がします。」
その中の一人がためらいがちに言った。
「バラ園?それはリリスにはふさわしくない場所だな。」カシリアは冷たく問い返した。
「も、申し訳ございません。はっきりと本人を確認したわけではありませんので・・・」貴族は慌てて答えた。
「・・・わかった」カシリアはそう言うと、身を翻して食堂を出ていった。
リリスは昼食時間にいなくなり、そしてなんの手がかりも得られなかった。
授業が始まればリリスが帰ってくることはわかっているが、それでは遅すぎる。早く何が起きているのかを明らかにしたい。
「ナミス、お前はどうおもう?」
「日頃リリス様とよく一緒にいる貴族の少女に聞いてみましたが、やはりリリス様がどこへ消えたのかは知らないそうです。」
「・・・。しかたない、まず校舎内を探してみよう。」
「御意」
「正門から左側をお前に任せる、私は右側を探す。」
右側は校舎の外れで、バラ園もそこにある。この手がかりには希望を持っていなかったが、どんなに小さな手がかりでもはっきりさせた方が良いだろう。
カシリアは西の方を見回しながら、ゆっくりとバラ園へと入っていった。
突然、目の前に雪のように白い人影をみた。
整った制服、優雅な歩き方、髪が舞い超然とした姿。
間違いなく、これこそ今日突然にいなくなっったリリスその人だ。
バラ園は教室から最も離れた場所にある。リリスはここで一体何をしている?
合理的な答えを見つけられないが、しかしこれはリリスの行動には全くふさわしくない。
強い好奇心に襲われ、静かに後をつけ、その秘密を観察することにした。
リリスは静かに東屋に座り、スカートからケーキを取り出し、そしてゆっくりと食べ始めた。
これはどういうことだ??????食堂にいかず、こんな遠いところまできて、ただケーキを食べている?
進み出るべきか?カシリアはそれほど我慢強い方ではない。しかしこのあまりにも普通ではない光景に、カシリアはすぐに判断をすることができず、そう遠くないところで隠れて見守るほかなかった。ちょうど頭を下げていたリリスはカシリアを見つけることができなかった。
・・・・・・・・・時間は静かに過ぎていくが、リリスはずっと同じ姿勢のままで、まるで時間の止まった庭園の芸術品のようになっていた。
!!!!!!!!!!!!!!
この広いバラ園はとても静寂だった。たまに風に揺れる草木の音以外何も聞こえなかった。ただ一つ、リリスの涙が地面に落ちる音を除いては。
自分の感情を押さえるように、リリスは強く自分の体を抱きしめ、泣き声を噛み殺し、しかしその苦痛は顔にはっきりと現れていて、手の中のケーキは握りつぶされてしまっているようだ。この静かな庭園に泣き声は聞こえてこないが、涙はその精気のない目からとめどなく流れ出し、地面に落ちるポタポタという音が東屋に響いていた。
・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!
あれは・・・リリスなのか!?
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜
白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。
私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。
けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?
関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。
竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。
『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』
❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。
*乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。
*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜
みおな
恋愛
転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?
だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!
これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?
私ってモブですよね?
さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる