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第18話・完璧な作り笑い
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ブヒヒルル。いつの間にか馬車は公爵邸についていた。
出迎えてくれたのは、ロキナだった。
「お嬢様、今日は随分と遅いお帰りですが、どうなさいました?」
ロキナは心配そうに私に聞いた。
王家の馬車が派手すぎたので、何かちゃんとした理由をつけてごまかさないと。私はゆっくりと馬車から降りてから、先に護衛を帰らせた。
「そうね、今日はカシリア殿下と生徒会選挙の話をしてきたわ。時間が遅くなったから、殿下が私に護衛をつけて送ってくれたの」と、何事も無かったように笑顔で答えた。
「あら、殿下とご一緒だったのですね」ロキナは一瞬驚いたが、すぐに優しい微笑みに戻った。
「それは良かったですね、お嬢様。これからも是非殿下ともっと親睦を深めて下さいね」ロキナはどうやら何かいけないことを考えているらしく、笑顔がだんだん変に変わっていた。
「ん…?ああ、この衣装は殿下と踊るために着替えたものだから、変なこと考えないでよね」ロキナの視線の先に気づいて慌てて説明した。
「はいはいかしこまりました、これほど『普通』なことは誰にも言いません」今日のロキナはやけに嬉しそう。まるで私が殿下と何かあったと喜ぶみたいに。
「はあ…」どう言えば良いかわからず、ただ諦めて嘆くしかなかった。
「そうだ…父上は戻ったの?」私は話をそらした。
「公爵様は今日もお仕事でお忙しいとのことですので、未だ当分お戻りになられないと思います。」
「そっか…じゃあ父上は昨日いつごろ戻ったの?」
「昨日は確か夜の11時前後にお戻りになられましたので、今日もそれぐらいのお時間かと思われます」ロキナも少し心配そうに言った。
「うん…分かった」この気持ちはいったいなんなのかしら、とても複雑な気分。父上と顔を合わせなくて済むことでホッとする私と、父上に会えなくて少しがっかりする私がいた。私はいったい喜ぶべきなのか悲しむべきなのか?自分の気持ちを確かめることができない。
「公爵様は最近、お仕事がとてもお忙しいようで、仕方がありませんね」ロキナは既に私の不安に気づいたようで、慌てて慰めてくれた。
「うん、しかたないわね、私今日は早めに休みたい。」
「承知しました、ではお風呂を用意してまいります。」
ロキナの後ろ姿をみて、私はだんだん落ち着いてきた。
ゆっくりと母上の部屋へ入り、そして鍵をかけて、静かに一人の時間を取ろうとする。
母上がお亡くなりになったあと、この部屋はずっと私が使うことになっていた。母上の匂いのついたベッドとお布団で休むことが、唯一私がリラックスできる方法。
前世では母上の死後、父上は早く帰ってきて話をしてくれたり、かつての日常を維持しようとしていたけど、それでも私はそれを長い間乗り越えることができなかった。しかし、すぐに父上は以前のような日常に戻り、帰宅時間も夜遅くなってしまい、顔を合わすことすら難しくなった。
父上のいない間、私はいつも母上のお部屋で泣き、泣き疲れそのまま寝ていた。いつもそばにいてくれたロキナのおかげで、私はあの一番辛い時期を乗り越えられた。
「今日も帰りは遅い…」私は自分に言い聞かせるように、小さな声でつぶやいた。
王家学術能力テストまであと2日、でも前世で既に一度受けたので受験勉強のプレッシャーはなかった。
同時にこれはミカレンとエリナが屋敷にくるまで時間が残されていないことを意味していた。それは王家学術能力テストから3日後、つまり成績公表日当日。
本当ならとっくに心の準備ができていた、はず。
しかしどんなに頑張って忘れようとしても、時々父上が自分に言ったあの言葉が思い浮かぶ。
あれは…前世で私の退路を全て断ち切った言葉。
トントン、ノックの音が聞こえてきた。
「お嬢様、お風呂のご用意ができました。」
ロキナが現れて私の思考を遮った。
既に王家休憩室で入浴したことをうまく説明出来る自信がないので、もう一度入りなおすことにした。
「お嬢様、明日が楽しみですね」
「今日は殿下とこんなにも長い時間お話されたんだもの、明日はもっと色んなことが起きるかもしれませんよ~」
風呂上りにロキナは私にパジャマを着せながら、興奮気味に言った。
「…だからロキナ、あなたは何か勘違いしているよ」私は呆れながら、同時に今日起きた危ないエピソードを隠していた。
「ふふん、私はそう簡単にごまかせませんよ。お嬢様が今回のテストでどんな成績を取られるのだとしても、これから殿下との接触のチャンスは増える一方なのです」
「美しいお嬢様とカッコイイ王子様ですね、どう考えたってお嬢様は殿下とお似合いだと思います~」ロキナは興奮しながら話していた。
「でもそれっておとぎ話でしょう」ロキナに気づかれないよう、私は笑いながら突っ込みを入れた。
「そんなことはありません。きっといいことがあると私は信じています!」ロキナは私が既に母上の死から立ち直り、新生活に向けて一歩ずつ歩みだしているのだと思い、励ましてくれたのでしょう。
「…うん、そうよね、私もそう信じるよ」私は完璧に微笑みながら返事をした。
そうよね、前世で母上が事故に遭って怪我をした時や母上の死を知った時、父上の再婚を聞かされた時も…私が悲しい時はいつもロキナはそばにいて、励ましてくれた。
私のために、父上やミカレン、そしてエリナを相手にすることもいとわなかった。
私の一番親しい人の中で、恐らくロキナは誰よりも私の笑顔を見たかったのだろう。
誰よりも私が幸せになることを祈っていた。
だから、今度こそは小さい頃からずっと一緒にいたロキナに心配をかけられない。
「うん!きっといいことが待っているわ!」
私は笑いながらロキナに言った。とても素敵な笑顔で。
まもなく寝る時間になり、私は母上のベッドで横になり、母上の布団を抱きしめた。
「おやすみなさい、お嬢様」
「おやすみ、ロキナ」
それからロキナは灯りを消し、そっとドアを閉めた。
私はすぐに優しい笑顔をしまい、ただ静かに暗闇に包まれる感覚を味わっていた。
ただ今日起きたことがまだ深く私の記憶に刻まれていて、忘れることができなかった。
あの濡れたハンカチの匂いは、エリナを毒殺した時と同じ匂い…
これが『運命』か…
思案していたら、いつの間にか眠りについていた。
出迎えてくれたのは、ロキナだった。
「お嬢様、今日は随分と遅いお帰りですが、どうなさいました?」
ロキナは心配そうに私に聞いた。
王家の馬車が派手すぎたので、何かちゃんとした理由をつけてごまかさないと。私はゆっくりと馬車から降りてから、先に護衛を帰らせた。
「そうね、今日はカシリア殿下と生徒会選挙の話をしてきたわ。時間が遅くなったから、殿下が私に護衛をつけて送ってくれたの」と、何事も無かったように笑顔で答えた。
「あら、殿下とご一緒だったのですね」ロキナは一瞬驚いたが、すぐに優しい微笑みに戻った。
「それは良かったですね、お嬢様。これからも是非殿下ともっと親睦を深めて下さいね」ロキナはどうやら何かいけないことを考えているらしく、笑顔がだんだん変に変わっていた。
「ん…?ああ、この衣装は殿下と踊るために着替えたものだから、変なこと考えないでよね」ロキナの視線の先に気づいて慌てて説明した。
「はいはいかしこまりました、これほど『普通』なことは誰にも言いません」今日のロキナはやけに嬉しそう。まるで私が殿下と何かあったと喜ぶみたいに。
「はあ…」どう言えば良いかわからず、ただ諦めて嘆くしかなかった。
「そうだ…父上は戻ったの?」私は話をそらした。
「公爵様は今日もお仕事でお忙しいとのことですので、未だ当分お戻りになられないと思います。」
「そっか…じゃあ父上は昨日いつごろ戻ったの?」
「昨日は確か夜の11時前後にお戻りになられましたので、今日もそれぐらいのお時間かと思われます」ロキナも少し心配そうに言った。
「うん…分かった」この気持ちはいったいなんなのかしら、とても複雑な気分。父上と顔を合わせなくて済むことでホッとする私と、父上に会えなくて少しがっかりする私がいた。私はいったい喜ぶべきなのか悲しむべきなのか?自分の気持ちを確かめることができない。
「公爵様は最近、お仕事がとてもお忙しいようで、仕方がありませんね」ロキナは既に私の不安に気づいたようで、慌てて慰めてくれた。
「うん、しかたないわね、私今日は早めに休みたい。」
「承知しました、ではお風呂を用意してまいります。」
ロキナの後ろ姿をみて、私はだんだん落ち着いてきた。
ゆっくりと母上の部屋へ入り、そして鍵をかけて、静かに一人の時間を取ろうとする。
母上がお亡くなりになったあと、この部屋はずっと私が使うことになっていた。母上の匂いのついたベッドとお布団で休むことが、唯一私がリラックスできる方法。
前世では母上の死後、父上は早く帰ってきて話をしてくれたり、かつての日常を維持しようとしていたけど、それでも私はそれを長い間乗り越えることができなかった。しかし、すぐに父上は以前のような日常に戻り、帰宅時間も夜遅くなってしまい、顔を合わすことすら難しくなった。
父上のいない間、私はいつも母上のお部屋で泣き、泣き疲れそのまま寝ていた。いつもそばにいてくれたロキナのおかげで、私はあの一番辛い時期を乗り越えられた。
「今日も帰りは遅い…」私は自分に言い聞かせるように、小さな声でつぶやいた。
王家学術能力テストまであと2日、でも前世で既に一度受けたので受験勉強のプレッシャーはなかった。
同時にこれはミカレンとエリナが屋敷にくるまで時間が残されていないことを意味していた。それは王家学術能力テストから3日後、つまり成績公表日当日。
本当ならとっくに心の準備ができていた、はず。
しかしどんなに頑張って忘れようとしても、時々父上が自分に言ったあの言葉が思い浮かぶ。
あれは…前世で私の退路を全て断ち切った言葉。
トントン、ノックの音が聞こえてきた。
「お嬢様、お風呂のご用意ができました。」
ロキナが現れて私の思考を遮った。
既に王家休憩室で入浴したことをうまく説明出来る自信がないので、もう一度入りなおすことにした。
「お嬢様、明日が楽しみですね」
「今日は殿下とこんなにも長い時間お話されたんだもの、明日はもっと色んなことが起きるかもしれませんよ~」
風呂上りにロキナは私にパジャマを着せながら、興奮気味に言った。
「…だからロキナ、あなたは何か勘違いしているよ」私は呆れながら、同時に今日起きた危ないエピソードを隠していた。
「ふふん、私はそう簡単にごまかせませんよ。お嬢様が今回のテストでどんな成績を取られるのだとしても、これから殿下との接触のチャンスは増える一方なのです」
「美しいお嬢様とカッコイイ王子様ですね、どう考えたってお嬢様は殿下とお似合いだと思います~」ロキナは興奮しながら話していた。
「でもそれっておとぎ話でしょう」ロキナに気づかれないよう、私は笑いながら突っ込みを入れた。
「そんなことはありません。きっといいことがあると私は信じています!」ロキナは私が既に母上の死から立ち直り、新生活に向けて一歩ずつ歩みだしているのだと思い、励ましてくれたのでしょう。
「…うん、そうよね、私もそう信じるよ」私は完璧に微笑みながら返事をした。
そうよね、前世で母上が事故に遭って怪我をした時や母上の死を知った時、父上の再婚を聞かされた時も…私が悲しい時はいつもロキナはそばにいて、励ましてくれた。
私のために、父上やミカレン、そしてエリナを相手にすることもいとわなかった。
私の一番親しい人の中で、恐らくロキナは誰よりも私の笑顔を見たかったのだろう。
誰よりも私が幸せになることを祈っていた。
だから、今度こそは小さい頃からずっと一緒にいたロキナに心配をかけられない。
「うん!きっといいことが待っているわ!」
私は笑いながらロキナに言った。とても素敵な笑顔で。
まもなく寝る時間になり、私は母上のベッドで横になり、母上の布団を抱きしめた。
「おやすみなさい、お嬢様」
「おやすみ、ロキナ」
それからロキナは灯りを消し、そっとドアを閉めた。
私はすぐに優しい笑顔をしまい、ただ静かに暗闇に包まれる感覚を味わっていた。
ただ今日起きたことがまだ深く私の記憶に刻まれていて、忘れることができなかった。
あの濡れたハンカチの匂いは、エリナを毒殺した時と同じ匂い…
これが『運命』か…
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