罪人・完璧令嬢リリスの死に戻り~お伽噺の王子様とお姫様の幸せ、そしてそれを傍観しているもう一人のお姫様の物語~

悪役令嬢リリス

文字の大きさ
25 / 50

第25話・求めるものは何か

しおりを挟む
「???????」

 「????」

 「!!!???????????」

 うるさい。

 耳元で2人が大声で言い争っている声がうるさすぎて、私は眠りから起こされた。

 「誤魔化して無駄ですよ!?私ははっきり見ましたからね!あなたを絶対訴えますわ!」

 「お嬢さん、私は本当に無実なんです。ただリリス様の調子を診に・・・」

 「何が…あったのかしら」

 夢うつつのまま、なんとか起き上がった。

 「リリス様!お目覚めですか!私がここに戻ってきた時ちょうどこのメガネがリリス様に不逞を働こうとしたのをこの目で見ましたの!」

 ファティーナは慌てて駆け寄ってきて、そう説明した。

 「そうではありません。私はただ病人を看病しようとしていただけで、何も変なことをするつもりはありません。」

 メガネをして白衣をまとった見習医の格好の青年が、全力で弁解している。

 今が通常の休憩時間じゃなくて良かった。さもないと2人の喧嘩は学校中の人を引き寄せていたに違いない。

 「あなたは…」

 「あっ、申し遅れました。私はカヴィット・ミセシルと申します。私の姉が先ほどリリス様を診察したカロリン・ミセシル子爵です。」

 カロリン子爵の弟?私は頑張って前世の記憶を探ってみた。確かにそのような人物は存在したが、その記憶では…

 『若くして事故で亡くなった』

 それからカロリン子爵も真実を見つけるため色々と頑張って、しかもそのために何かをやらかしたとも聞いたことがあった。恐らく不幸で可哀想な者なのね。

 「そう…カロリン子爵は今、私のために王室薬局へお薬を取りに行っているよね?それで、あなたは子爵が留守中の医師なのね?」

 「はい、えっと、その通りです」

 事情は大分分かったけど、 カヴィットは少し緊張しているようにみえる。

 「リリス様、この人は今っ」

 ファティーナはさっき見たことを強調したいらしく、会話に割り込んで来た。

 「ファティーナ、彼がカロリン子爵の弟であるのなら、大丈夫だと思うわ。子爵の人柄は皆知っていることじゃないの?」

 私はファティーナの話を中断した。ファティーナが心優しい貴族であることは知っているが、それなりに過激な人でもある。

 カロリン子爵は非常に医学に精通した女性で、多くの成果を出し、若くして栄えある爵位を手に入れた。そのような立派な女性の弟なら、きっと品行の良い人だと私は信じた。

 「信じてあげて、ファティーナ」

 私はとりあえずファティーナの気持ちを落ち着かせることにした。

 「そうです、そうです。私を信用できなくても、姉のことは信用してもらえますよね?」

 ファティーナは私のしっかりとした、優しい目を見て、やっと納得した。

 「…分かりましたわ。それではリリス様、午後の試験まであまり時間がありません。そろそろ行きましょう。」

 ファティーナは分かったと言いつつも、まだカヴィットのことを疑う目で見ていながら、私を支えようと手を伸ばした。

 けど、私の手に触れた瞬間、驚きのあまりに声を上げた。

 「熱い!リリス様、体温が高いですわ!解熱薬を飲む前よりもずっとっ!」

 確かに何かが違う。休む前の疲れに比べて良くなるどころかキツくなる一方。

 「解熱薬を飲んでから逆に体温が上がったんですか?そんなわけがありません。リリス様、さっきのカロリンの診断結果は覚えてますか?」

 『まって、カヴィットはカロリン子爵に言われて私の看病をしに来たんじゃあないの?私の病状を知らないってどういうこと?』

 「カロリンはその、特に診断結果は言わなかったのです。ただ王室薬局に特効薬があるとだけ言い残して…」

 そういえば、王室薬局にしか置かれてない特効薬?つまり私は難しい病気を患っているというの?医学は一般的な学問ではなくて、医学専攻の人しか深い知識を学ばないので、医学についてはよくわからない。

 「リリス様、発熱以外にどこか具合が悪いところはありますか?」

 「体が凄く疲れていて、力が入らない。めまいがして、胸が苦しくて、どんどん呼吸をするのが辛くなってきている」

 「それ・・・は・・・」

 私の話を聞いて、カヴィットもカロリン子爵と同様にしばらく黙り込んだ。

 「そう…分かりました。それならやはり姉が薬を持ってくるのを待つしかないですね。それまでは我慢してもらうしかありません。」

 やはり、難しい病気なの?カヴィットもやはり私に診断結果を言わなかった。

 「わかったわ。それなら私はまずテストの準備をしに行く。後でまたカロリン子爵を探しにくるよ。」

 「でも、リリス様の今の状態で、本当にまだテストを続けられるんですの?」

 ファティーナは私をとても心配しているのがわかるけど、最優秀の貴族として、テストを諦めるなど、名誉毀損になるわ。

 でも、やっぱり体の調子が悪すぎる。

 「…うん、さっきよりは大分良くなったから大丈夫よ」

 こんな嘘は他人を騙すことはできても、既に意識をはっきり保てないフラフラの私には何の役にも立たなかった。できればベッドで寝て薬が来るのを待ちたかった。しかし公爵令嬢として、この程度の病気で試験を諦めることはできない。前世での出来事を考えれば、生徒会から遠ざかるのは最も良い選択だが、既に選挙に立候補した以上、途中で棄権するのは公爵の名を汚すことになる。私のプライドもそんな途中で諦めるようなことを許さない。

 だから、いくらどんなに辛くても耐えるの!頼む私の体!

 「ファティーナ、悪いけど教室まで支えてくれない?」

 「勿論ですわリリス様、まかせてください」

 ファティーナにそう言われ、安心して体をファティーナの方へ少し寄せたが、表面上はやはりファティーナにあまり頼りすぎる失態を見せるわけにはいかなかった。

 短い距離を、私は長い時間をかけてやっと教室までたどり着いた。教室内では皆午後のテストに向けての復習に集中していた。私はファティーナから離れ、姿勢を崩さないようにしながら席に戻った。

 「リリス様!ご無事でしたか?」

 もの好きな貴族少女たちがすぐに集まってきた。

 正直言って、この行動には非常に嫌悪感を覚える。特にこの極限状態にいる時は尚更そう感じた。とはいえ彼女らの挨拶を無視するわけにもいかず、明らかな嫌悪感を表すこともできないので、適当な言葉でこの会話を終わらせるしかなかった。

 「ええ。薬を飲んだら大分良くなったわ。みなさん心配してくれてありがとう。」

 笑う気力がないので、優しい表情で対応するしかなかった。

 「そうなんですか。リリス様、健康には気をつけた方がいいですね…」

 「…」

 締めの世辞が、こんなにも沢山あるとは思わなかった。

 「もうすぐテストが始まる。みんなはもうそろそろ席についてくれ。」

 カシリアが突然冷たい声で彼女らの熱弁を打ち切った。

 「はい…わかりました、殿下…」

 貴族少女達は散っていった。

 振り返ると、カシリアは不機嫌そうにしていた。殿下は元々口数が少なく、貴族との交流を嫌っていた。今の貴族少女たちの挨拶が彼を怒らせたのだろう。

 本当に最悪。生徒会に入る前からこんなにも沢山悪い印象を殿下に残してしまった。

 「…殿下、ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません」

 私は少し頭を下げて、殿下に詫びた。

 「ああ…いや、なんともない」

 殿下はなんだか少し申し訳なさそうに言った。

 ええ?どういうこと?

 ジリリリリリ、鐘の音が響き、午後のテストが始まった。今は他のことを考えないで、テストに専念しよう。問題が配られて、以前の問題と同じだと確認した。よし、早く終わらせてしまいましょう。

 私は頭を抱え、目眩と戦いながら、迅速に解答を書いていた。

 けれどもすぐに息苦しくなり、口で息をしなければならなくなった。まるで窒息寸前のようだった。生きるための酸素が少なくなったかのように、口を大きく開けて空気を取り入れようとしても、だんだん意識が遠のくように感じられた。

 #

 #

 #

 #

 #

 「リリス?大丈夫?」

 苦しそうな喘ぎを聞いたカシリアが周りを気にしながら、小さな声で訊ねたが、リリスは何も聞こえてないかのように無反応だった。

 「…リリス?」

 カシリアは声のトーンを少し上げた。

 それでもリリスは何の反応も見せず、視線はさまよい、瞳も虚ろで、今にも眠ってしまいそうだった。

 「リリス!!大丈夫!?」

 カシリアは異常に気付き、大声で呼んだが、リリスは意識を失い、大きな音とともにテーブルに頭を強く打ちつけた。

 「リリス様!キャァァァァァ!?」

 教室中の生徒たちがこの突然の出来事に驚いて絶叫し、教室はしばらくの間大混乱に陥った。

 「みなさん落ち着いてテストを継続するように。私は今から医師を呼びに行きます」

 試験監督の教授が生徒たちを落ち着かせながら、教室を出た。

 「リリス!?」

 カシリアは軽くリリスの細くて小さな体を揺すってみたが、完全に意識を失って、無反応のようだ。

 手から伝わった体温はあり得ない程の高温で、明らかに通常の発熱ではない。可憐な顔は苦痛に歪み、口で息をしていた。

 ショック!?恐ろしい医学用語がカシリアの頭に浮かんだ。ショックとは血圧が下がって、瀕死の状態になる急性の症候群のこと、治療が間に合わなければ死に至る可能性も……

 クソ!どうしてこんなことに!リリスは昼にもう一度医師に診てもらったはず!一体どこのヤブ医者が招いた事態だ!

 冗談じゃない!これ以上は待ってられない!

 「もう間に合わない!私は先にリリスを医務室へ連れて行く!」

 カシリアは取り乱し気味に叫び、リリスを抱え上げ、慌てながらも優しく運んでいった。

 「キャァァァァァ!」

 カシリアの後ろから耳障りな貴族少女たちの叫び声が聞こえていた。

 「殿下、どうなさいましたか?」

 門番をしていた護衛の騎士たちが集まってきた。

 「後で説明する!今は医務室へ急げ!」

 カシリアは止まることなく、走りながらそう叫んだ。

 今更とはいえ、カシリアはここ数年間自分をずっと上回っていたライバルに再び違和感を感じた。

 軽すぎる体重で脆く感じる細い体、きめ細やかで柔軟な肌、かすかに漂う香り。ありとあらゆるものは、その強さには全く似合わない。

 今腕に抱えているのは、恐らく世の中で最も美しい宝石なのだろう。

 それはどこにあっても、人々に追い求められる幻想。

 リリスは準太子の任を背負う自分とは違い、守るべき国はなく、背負うべき未来もない、羨ましいほどの自由を手にしているはず。

 なのに・・・なぜ、庭でひっそりと佇めば無数の要人を惹きつけることができるこの花は、そこまで必死になるのか?

 愚かで哀れで非論理的なことをするのか。

 全く理解出来ない、意味がわからない。

 リリス、君は一体何を望んでいるのだ!?

 いくら考えても、カシリアは依然答えを得ることはできなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

悪役令嬢はヒロイン(♂)に攻略されてます

みおな
恋愛
 略奪系ゲーム『花盗人の夜』に転生してしまった。  しかも、ヒロインに婚約者を奪われ断罪される悪役令嬢役。  これは円満な婚約解消を目指すしかない!

処理中です...