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第30話・矛盾だらけ-2
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「そうね、仕方のないことだから、父上もきっと分かってくれるわ」
リリスはわずかに微笑みながら言った。
怒りと悲しみが一瞬顔に浮かんだが、またいつもどおりに戻った。これは普通の人なら気づかない変化だった。
「…」
横にいるカシリアは何かに気づいたように黙ったままだった。
その時、部屋の外から急速に近づいてくる足音が聞こえた。誰かが駆けつけてきたらしい。
「リリス!無事か?」
ドアの前に現れたのは、容姿俊秀で、荒い息をした一人の中年貴族。リリスの父であるカスト公爵だった。
「これは殿下、しばらくですな。」
カスト公爵は慌ててカシリアに礼をして、それから直ぐリリスのそばへ駆け寄って、心配そうな眼差しでリリスを見た。彼の不安げな態度と気遣いのある目から、彼もまたリリスを宝石のように深く愛し、リリスの健康をとても大切に思っていることが分かる。
「父上、いらっしゃったのですね!」
父親の到着を見て、リリスは大喜びで微笑んだ。その笑顔は前に見せたものとは全然違う、純粋で高貴で、甘くて温かい笑顔だった。どんなに凍りついた心も、それを一目見ただけで溶けてしまうだろう。
実に矛盾過ぎる。リリスとカスト公爵の関係に何も問題がないというのなら、リリスが今までしてきた不合理な行動は一体何のためだったというのだ?幾らカシリアがリリスのことを気にかけたとしても、今ある情報だけでは、その答えを導き出せそうにない。
「父上は領地の遠い所から駆けつけて来たのですか?そんなに汗をかいて、きっとお疲れなのでしょう。」
「私はいい。おまえこそどうしていきなり倒れたんだ?まさか以前から体調が悪かったのか?くれぐれも無理はするなよ。」
カストは心配そうな顔をしていて、金色の瞳からは父が娘を思う気持ちが溢れ出していた。
「申し訳ございません、父上。今回は私の判断ミスでした。そのせいで、1科目欠席したみたいです。今回は生徒会長になれないと思います。」
リリスは悲しい笑顔を見せた。
「おまえさえ無事ならそれでいい。生徒会の会長など、おまえの健康に比べれば、どうでもいいんだ。」
「父上…」
リリスは安心して、暖かく微笑んだ。
「自分の体を大事にしなさい。何かあったら困るから。倒れたと聞いて、おまえまで私を置いていくのではないかと心配したぞ…」
カストはリリスの手を強く握り、やさしく言った。
その瞬間、突然リリスの顔が、まるで仮面のように凍りついたようにカシリアは感じた。
「はい、父上。今後はより体調に気をかけるようにします。」
リリスは暖かな口調で話していたが、言葉の端々からはさっきまでとはまるで別人のような冷たさを感じた。
カシリアはただ黙って目の前の出来事を記憶した。
母親の件か?つまりはサリス夫人のことだな。しかしその件はもう随分前のことだ。まだ気にしているのか。
まあいい。今それを考えるのはよしておこう。カシリアはそれを気にしないようにしながら、カスト公爵に近づき言った。
「医師にはしっかりと処置してもらった。彼女の病状は今は安定しているが、今夜もう一度薬を投与する必要があるそうだ。そんなわけで、今日はリリスを王家休憩室で休ませようと思う。その方が治療しやすいし、万が一リリスの病状に何かあっても、直ぐ対応できる。」
勿論、これはとっさに考えた言い訳に過ぎない。カストとリリスに注射の中身が対疫病用だと気づかせるわけにはいかない。絶対に、リリスが疫病にかかったことは誰にもばれてはならない。
「殿下のご好意に感謝致します」
カストは、そう言うと直ぐ振り返ってリリスに訊ねた。
「今はどうだ?少しは歩けるか?」
リリスは自分の体を動かしてみて、体調を確かめてみた。
「熱はもう引きました。特に問題ないと思います。殿下のご好意に感謝致します。」
「ロキナ、支えてくれる?」
リリスはロキナに支えられながら、ゆっくりとベッドから降りて、王家休憩室へ歩いて行った。
「そうだ、カスト公爵。少し話があるのだが。」
カシリアはカストを呼び止めた。
カストにそれを聞こうとした時、ドアの前にやってきたザロに話を遮られた。
「殿下、この前の殿下のご命令に関して、ただいま市街地の統管がバド伯爵を連れて報告に参っております。」
ザロは巧みに誘拐事件に関しての部分を伏せて話した。
チッ、タイミングが悪い。カシリアはそう思った。こうなると、カストとの話はまた今度にしないといけない。
王都の市街地は王家の領地だが、バド伯爵が管理していて、治安の最高責任者だ。衛兵統管がバド伯爵を連れて来たということは、誘拐犯組織の根絶ができなかったらしい。それでなければ、衛兵統管が一人で意気揚々と褒美をもらいに来るはずだ。
【バド伯爵の領地がタロシア公爵の領地と隣接していて、王家の領地を直接管理しているせいか、その両勢力に挟まれたバド伯爵は実直な印象の人で、いつも真面目に仕事している。仕事のスピードは期待できないが、仕事に対する態度は悪くない。ただあまりにも慎重すぎて、柔軟にことを決められないのと、頭が固いところが欠点でもある。バド伯爵にはとても可愛くて元気な娘がいたが、まだ小さいときに事故で亡くし、今は息子のブランドを厳しく教育しているらしい。】
今回はおそらく複雑な関係が裏にあることに気づき、伯爵自ら対策の相談をしに来たのだろう。
「すまないがカスト公爵、貴殿との会話はまた今度にしよう。」
そう言い残しカシリアは急いで部屋の外へ歩いて行った。
「メイド達を王家休憩室へ集めろ。リリスが中に仕えるんだ。」
カシリアは歩きながら指示を下した。
リリスはわずかに微笑みながら言った。
怒りと悲しみが一瞬顔に浮かんだが、またいつもどおりに戻った。これは普通の人なら気づかない変化だった。
「…」
横にいるカシリアは何かに気づいたように黙ったままだった。
その時、部屋の外から急速に近づいてくる足音が聞こえた。誰かが駆けつけてきたらしい。
「リリス!無事か?」
ドアの前に現れたのは、容姿俊秀で、荒い息をした一人の中年貴族。リリスの父であるカスト公爵だった。
「これは殿下、しばらくですな。」
カスト公爵は慌ててカシリアに礼をして、それから直ぐリリスのそばへ駆け寄って、心配そうな眼差しでリリスを見た。彼の不安げな態度と気遣いのある目から、彼もまたリリスを宝石のように深く愛し、リリスの健康をとても大切に思っていることが分かる。
「父上、いらっしゃったのですね!」
父親の到着を見て、リリスは大喜びで微笑んだ。その笑顔は前に見せたものとは全然違う、純粋で高貴で、甘くて温かい笑顔だった。どんなに凍りついた心も、それを一目見ただけで溶けてしまうだろう。
実に矛盾過ぎる。リリスとカスト公爵の関係に何も問題がないというのなら、リリスが今までしてきた不合理な行動は一体何のためだったというのだ?幾らカシリアがリリスのことを気にかけたとしても、今ある情報だけでは、その答えを導き出せそうにない。
「父上は領地の遠い所から駆けつけて来たのですか?そんなに汗をかいて、きっとお疲れなのでしょう。」
「私はいい。おまえこそどうしていきなり倒れたんだ?まさか以前から体調が悪かったのか?くれぐれも無理はするなよ。」
カストは心配そうな顔をしていて、金色の瞳からは父が娘を思う気持ちが溢れ出していた。
「申し訳ございません、父上。今回は私の判断ミスでした。そのせいで、1科目欠席したみたいです。今回は生徒会長になれないと思います。」
リリスは悲しい笑顔を見せた。
「おまえさえ無事ならそれでいい。生徒会の会長など、おまえの健康に比べれば、どうでもいいんだ。」
「父上…」
リリスは安心して、暖かく微笑んだ。
「自分の体を大事にしなさい。何かあったら困るから。倒れたと聞いて、おまえまで私を置いていくのではないかと心配したぞ…」
カストはリリスの手を強く握り、やさしく言った。
その瞬間、突然リリスの顔が、まるで仮面のように凍りついたようにカシリアは感じた。
「はい、父上。今後はより体調に気をかけるようにします。」
リリスは暖かな口調で話していたが、言葉の端々からはさっきまでとはまるで別人のような冷たさを感じた。
カシリアはただ黙って目の前の出来事を記憶した。
母親の件か?つまりはサリス夫人のことだな。しかしその件はもう随分前のことだ。まだ気にしているのか。
まあいい。今それを考えるのはよしておこう。カシリアはそれを気にしないようにしながら、カスト公爵に近づき言った。
「医師にはしっかりと処置してもらった。彼女の病状は今は安定しているが、今夜もう一度薬を投与する必要があるそうだ。そんなわけで、今日はリリスを王家休憩室で休ませようと思う。その方が治療しやすいし、万が一リリスの病状に何かあっても、直ぐ対応できる。」
勿論、これはとっさに考えた言い訳に過ぎない。カストとリリスに注射の中身が対疫病用だと気づかせるわけにはいかない。絶対に、リリスが疫病にかかったことは誰にもばれてはならない。
「殿下のご好意に感謝致します」
カストは、そう言うと直ぐ振り返ってリリスに訊ねた。
「今はどうだ?少しは歩けるか?」
リリスは自分の体を動かしてみて、体調を確かめてみた。
「熱はもう引きました。特に問題ないと思います。殿下のご好意に感謝致します。」
「ロキナ、支えてくれる?」
リリスはロキナに支えられながら、ゆっくりとベッドから降りて、王家休憩室へ歩いて行った。
「そうだ、カスト公爵。少し話があるのだが。」
カシリアはカストを呼び止めた。
カストにそれを聞こうとした時、ドアの前にやってきたザロに話を遮られた。
「殿下、この前の殿下のご命令に関して、ただいま市街地の統管がバド伯爵を連れて報告に参っております。」
ザロは巧みに誘拐事件に関しての部分を伏せて話した。
チッ、タイミングが悪い。カシリアはそう思った。こうなると、カストとの話はまた今度にしないといけない。
王都の市街地は王家の領地だが、バド伯爵が管理していて、治安の最高責任者だ。衛兵統管がバド伯爵を連れて来たということは、誘拐犯組織の根絶ができなかったらしい。それでなければ、衛兵統管が一人で意気揚々と褒美をもらいに来るはずだ。
【バド伯爵の領地がタロシア公爵の領地と隣接していて、王家の領地を直接管理しているせいか、その両勢力に挟まれたバド伯爵は実直な印象の人で、いつも真面目に仕事している。仕事のスピードは期待できないが、仕事に対する態度は悪くない。ただあまりにも慎重すぎて、柔軟にことを決められないのと、頭が固いところが欠点でもある。バド伯爵にはとても可愛くて元気な娘がいたが、まだ小さいときに事故で亡くし、今は息子のブランドを厳しく教育しているらしい。】
今回はおそらく複雑な関係が裏にあることに気づき、伯爵自ら対策の相談をしに来たのだろう。
「すまないがカスト公爵、貴殿との会話はまた今度にしよう。」
そう言い残しカシリアは急いで部屋の外へ歩いて行った。
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カシリアは歩きながら指示を下した。
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