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33話。国王、マイスに泣きながら戻ってきてくれと頼む
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「マイスよ。おぬしがもし本当にヴァリトラ様の創造主であるなら、王城を襲う魔物の軍勢を撤退させてくれぬか!? 頼むぅううううッ!」
通信魔導具の水晶玉に映った国王陛下は、完全に切羽詰まった様子だった。
その背後から、爆発音と「ぎゃぁあああッ」という悲鳴が途切れなく響いてきている。
どうやら恐れていた魔物の暴走が始まったみたいだった。しかし、魔物が大軍で王城を襲うとは少々、予想外だ。明らかに統率が取れている。
もしかして、これは……
僕は背後に立つティニーに尋ねた。
「まさかとは思うけど……魔物の軍勢に王城を攻撃させたりはしていないよね?」
「はい。私が攻撃許可を下しました」
ティニーは悪びれる様子もなく告げた。
「王国はミルディン帝国への大規模な侵攻を企てておりましたので。大国同士の戦争となれば、住処の森が焼かれるなどして魔物たちも戦禍を被ります。支配者として、そんな惨事を見過ごす訳にはまいりません。なにより兄様を追放し、そのお命を狙った者どもを懲らしめたいと言われれば、首を縦に振らざるを得ません。むしろ、私が率先して王宮を焼き滅ぼしたいくらいです」
後半はともかく、前半は納得できる理由だった。
戦争の阻止が目的であれば、必要悪と言えるだろう。
「……そうか。攻撃対象は王城だけか? 魔物たちに人の命を奪わないように命令してくれているよね?」
「もちろんです。その代わり、王城はいくらでも破壊して良いと告げています。思う存分、魔物の破壊衝動を解き放ちなさいと」
「それなら、良いか。命令を出す宮廷が機能しなくなれば、もう戦争どころじゃないだろうしね」
「はい」
僕は、ほっと胸を撫で下ろした。無辜の民に被害が出るといった最悪の事態になる心配は無さそうだ。
「良くなぃいいいいッ! 魔物どもは500年の歴史ある王城をメチャクチャにしておるのだぞ! それにその小娘は何者じゃ!? 守護竜ヴァリトラ様はそこにおられるのではないのか!?」
国王陛下の怒鳴り声に、僕はカチンと来た。
まさか、覚えていないのか……?
「この娘は僕の妹ティニーです。国王陛下、ティニーの顔をお忘れですか?」
「なに、ティニーじゃと? そ、それではその娘が、ヴァリトラ様なのか……?」
国王陛下は、突然、媚びるような笑顔になった。
もしかすると、ルーシーからある程度の事情を聞かされたのかも知れない。
「では国王陛下。魔物を撤退させる条件として、今後一切、守護竜ヴァリトラを──僕の妹ティニーを、戦争に利用しないと誓ってください。ティニーはこの4年間、ずっと他国からエルファシア王国を、身を挺して守り続けてきました。僕はこれ以上、妹を傷つけたくはありません」
「な、なに……? 余は、悲願であるミルディン帝国の打倒にようやく乗り出したのだぞ。あと一歩で世界征服の野望が叶うというのに、臣下として余に力を貸す気が無いと申すのか?」
「はい。僕は妹の方が大切ですので」
「兄様……ッ!」
僕がきっぱり断ると、ティニーが弾むような声を出した。
国王陛下は面食らって、うろたえる。
「ぐっ。まさか、辺境に追放したことを恨んでおるのか……? で、では、余の娘、第一王女ルーシーとの結婚と次期国王の座を約束してやろう! これなら、どうじゃ!? おぬしは、世界の頂点に立つ偉大なる大王になれるのだぞ!」
「お断りします。国王の座になど、僕は興味がありません。それよりも、ここで妹と静かに幸せに暮らしていきたいと思います。なにより、ベオグラードは未だ復興中です。今ここで王都に戻るわけにはいきません。そもそも黒死病を鎮めて参れと申されたのは、国王陛下ではありませんか?」
「むぅううッ!」
「マイスよ。この親不孝者め! 今まさにウィンザー公爵家が繁栄するか、没落するかの瀬戸際だというのが、わからぬのか!? 次期国王の座を蹴るなどワシが許さぬぞ!」
父上が国王陛下を押しのけて口を挟んできた。
「ティニーが守護竜ヴァリトラ様だったというなら、コレ以上のことはない! マイスよ。今すぐ、ティニーと共に王都に戻り、魔物どもを一掃するのだ。さすればウィンザー公爵家の栄光は未来永劫、盤石のものとなろう!」
「父上、久しぶりにティニーに会った第一声がソレですか……?」
欲望に濁った目を向けてきた父上に、僕は心底失望した。
「なに? こ、子なら父の役に立つのが当然であろう!? そうであろう、ティニー!」
「お久しぶりですね、父様。私を黒死病にかかった疫病神だと言って捨てたこと、はっきり覚えていますよ」
ティニーは腕を組んで憮然と父上を見つめた。
その静かな迫力に父上は気圧される。
「ぬっ……そ、それは、悪かった。疫病神などと言ったことは撤回しよう。お前はワシの誇りだ! マイスともども、また共に暮らそうではないか? アルフレッドが邪魔だというなら、コヤツは国外追放でも処刑でも構わぬ!」
「はぁあああ!? 父上、それは……!」
後ろでアルフレッドが嘆きの声を上げたが、父上は無視してまくし立てた。
「だから、今すぐワシを助けてくれ。助けるのだ、ティニー!」
「お断りします。私の家族はマイス兄様だけです。父様、あなたはこの4年間一度でも、私のお墓参りに来てくれたことがありましたか?」
ティニーの声はどこまでも冷たく、静かな怒気をたたえていた。
「も、もちろんだとも! お前の墓参りは毎月行っていたぞ。お前の好きなガーベラの花を添えて」
「嘘ですね。私は守護竜ヴァリトラですよ? 【千里眼】の魔法で、父様の動向を探っていましたが、そんなことは一度もされたことがありません。今の今まで、私のことなど忘れていたのですよね? 違いますか?」
「ぐっ……」
父上は、ぐぅの音も出ない様子だった。
「私を見捨てなかったのはマイス兄様だけです。その兄様を黒死病が蔓延する危険な辺境に追放しておいて、いまさら助けて欲しいなど、虫が良すぎます。エルファシア王国が世界最強の国家だというなら、30万の魔物程度、なんとかしてみてください」
「そ、それは。軍の主力をすべて国境沿いに配置してしまい……」
守護竜ヴァリトラの力を当てにしたが故の防衛を意識しない、極端な配置だった。
「なら自業自得ですね。他人からいくら奪っても構わない。しかし、自分は奪われたくないと、おっしゃるのですか?」
ティニーの辛辣な非難に、父上は二の句が継げないようだった。
「父上、さきほど国王陛下にも申し上げたように、今後、守護竜ヴァリトラを戦争に一切、利用しない。僕とティニーに干渉しないと誓うなら、魔物の軍勢を退かせたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「そ、それは……」
父上と国王陛下はお互いに顔を見合わせた。
二人が迷っている間にも、爆音と城壁が崩れる重低音が響いてくる。
「配下には王宮を徹底的に破壊するように命じています。何も手を打たなければ、守護竜ヴァリトラが王国と敵対した事実が、国内外に露呈されることになるでしょう。そうなればもう侵略戦争どころではありません。ミルディン帝国は勢いづいて逆襲してくるでしょう。さらに、国内の被征服地でも反乱が相次ぐハズです」
ティニーがトドメとなる一言を告げた。
「私はソレでも一向に構いませんが?」
国王陛下が脂汗を浮かべていると、その背後がさらに騒がしくなった。
「我らは元ヴァリトラ教団の信者だぁああああッ! ヴァリトラがお怒りになったのは、すべて国王陛下がマイス様を追放したせいだ!」
「国王陛下は今すぐマイス様に謝罪し、ルーシー王女とマイス様の再度の婚約を認めろぉおおおッ!」
「うぉおおおおッ! ヴァリトラ様! 我らは信仰を誤っておりました。マイス様こそ、真なる神! マイス様を最高神と崇めます故、ヴァリトラ教団の復活をお許しくだされぇえええッ!」
「陛下! 今度は民衆が暴動を起こして、城門前に詰めかけて来ています!」
「なにぃいいい!?」
どうやら民衆まで暴れ出しているようだ。
それにしても、何か聞き捨てならないことを言っているような……
「民衆を扇動しているのは、元ヴァリトラ教団の信者たちのようです。彼らは、マイス様を神として崇めよとか、彼とルーシー王女の結婚を認めよ、などと要求しております!」
「ま、まさかルーシーよ! おぬしは、元ヴァリトラ教団の信者どもと手を組んだのか?」
「ふふふっ、さあ。どうでしょうか? しかし、彼らを鎮めるためには、私とマイス様の結婚を認めていただくしかありませんわよね」
さらに、いたずらっ子のようなルーシーの声まで聞こえてきた。どうやらルーシーも王城にいるようだ。
「さあ。お父様、ご決断を。ヴァリトラ様の怒りに触れた者を国王として認める民など、おりませんわ。マイス様をわたくしの伴侶とし、マイス様に王座を譲るのです! さあ、今すぐに!」
「むむむむむっ! い、いや、しかしそれは……」
「ちょっとルーシー、僕は国王になるつもりはないんだけど」
国王陛下も困っているようだが、ルーシーの性急な要求に僕も困惑してしまう。
「ああっ、マイス様、ご覧になっていますか? 今、最大の過ちであるわたくしとマイス様の婚約破棄を撤回させようとしているところです!」
僕の声が届いたようで、大歓喜するルーシーの声が聞こえてきた。魔物と民だけでなく、彼女まで暴走していた。
「ルーシー王女、兄様が困っています。兄様の意思を無視して、話を進めないでください」
「僕はしばらく錬金術の研究に没頭したいし、領主の仕事も山積みだから結婚とかはまだ早いって!」
その時、ひときわ大きな歓声が聞こえてきた。
「陛下、暴徒たちが城門を破壊して、城内に雪崩込んで来ました! 奴らは陛下を見つけ出して拘束し、マイス様に王座を譲れと叫んでおります。て、手が付けられません!」
「わかった、誓う! もう二度とヴァリトラ様を、いやティニー様を戦争に利用しないと誓う……マイスへの仕打ちも謝る! だから、戻ってきてコヤツらをなんとかしてくれ、マイスよぉおおおッ!」
国王陛下と父上は泣きながら懇願した。
通信魔導具の水晶玉に映った国王陛下は、完全に切羽詰まった様子だった。
その背後から、爆発音と「ぎゃぁあああッ」という悲鳴が途切れなく響いてきている。
どうやら恐れていた魔物の暴走が始まったみたいだった。しかし、魔物が大軍で王城を襲うとは少々、予想外だ。明らかに統率が取れている。
もしかして、これは……
僕は背後に立つティニーに尋ねた。
「まさかとは思うけど……魔物の軍勢に王城を攻撃させたりはしていないよね?」
「はい。私が攻撃許可を下しました」
ティニーは悪びれる様子もなく告げた。
「王国はミルディン帝国への大規模な侵攻を企てておりましたので。大国同士の戦争となれば、住処の森が焼かれるなどして魔物たちも戦禍を被ります。支配者として、そんな惨事を見過ごす訳にはまいりません。なにより兄様を追放し、そのお命を狙った者どもを懲らしめたいと言われれば、首を縦に振らざるを得ません。むしろ、私が率先して王宮を焼き滅ぼしたいくらいです」
後半はともかく、前半は納得できる理由だった。
戦争の阻止が目的であれば、必要悪と言えるだろう。
「……そうか。攻撃対象は王城だけか? 魔物たちに人の命を奪わないように命令してくれているよね?」
「もちろんです。その代わり、王城はいくらでも破壊して良いと告げています。思う存分、魔物の破壊衝動を解き放ちなさいと」
「それなら、良いか。命令を出す宮廷が機能しなくなれば、もう戦争どころじゃないだろうしね」
「はい」
僕は、ほっと胸を撫で下ろした。無辜の民に被害が出るといった最悪の事態になる心配は無さそうだ。
「良くなぃいいいいッ! 魔物どもは500年の歴史ある王城をメチャクチャにしておるのだぞ! それにその小娘は何者じゃ!? 守護竜ヴァリトラ様はそこにおられるのではないのか!?」
国王陛下の怒鳴り声に、僕はカチンと来た。
まさか、覚えていないのか……?
「この娘は僕の妹ティニーです。国王陛下、ティニーの顔をお忘れですか?」
「なに、ティニーじゃと? そ、それではその娘が、ヴァリトラ様なのか……?」
国王陛下は、突然、媚びるような笑顔になった。
もしかすると、ルーシーからある程度の事情を聞かされたのかも知れない。
「では国王陛下。魔物を撤退させる条件として、今後一切、守護竜ヴァリトラを──僕の妹ティニーを、戦争に利用しないと誓ってください。ティニーはこの4年間、ずっと他国からエルファシア王国を、身を挺して守り続けてきました。僕はこれ以上、妹を傷つけたくはありません」
「な、なに……? 余は、悲願であるミルディン帝国の打倒にようやく乗り出したのだぞ。あと一歩で世界征服の野望が叶うというのに、臣下として余に力を貸す気が無いと申すのか?」
「はい。僕は妹の方が大切ですので」
「兄様……ッ!」
僕がきっぱり断ると、ティニーが弾むような声を出した。
国王陛下は面食らって、うろたえる。
「ぐっ。まさか、辺境に追放したことを恨んでおるのか……? で、では、余の娘、第一王女ルーシーとの結婚と次期国王の座を約束してやろう! これなら、どうじゃ!? おぬしは、世界の頂点に立つ偉大なる大王になれるのだぞ!」
「お断りします。国王の座になど、僕は興味がありません。それよりも、ここで妹と静かに幸せに暮らしていきたいと思います。なにより、ベオグラードは未だ復興中です。今ここで王都に戻るわけにはいきません。そもそも黒死病を鎮めて参れと申されたのは、国王陛下ではありませんか?」
「むぅううッ!」
「マイスよ。この親不孝者め! 今まさにウィンザー公爵家が繁栄するか、没落するかの瀬戸際だというのが、わからぬのか!? 次期国王の座を蹴るなどワシが許さぬぞ!」
父上が国王陛下を押しのけて口を挟んできた。
「ティニーが守護竜ヴァリトラ様だったというなら、コレ以上のことはない! マイスよ。今すぐ、ティニーと共に王都に戻り、魔物どもを一掃するのだ。さすればウィンザー公爵家の栄光は未来永劫、盤石のものとなろう!」
「父上、久しぶりにティニーに会った第一声がソレですか……?」
欲望に濁った目を向けてきた父上に、僕は心底失望した。
「なに? こ、子なら父の役に立つのが当然であろう!? そうであろう、ティニー!」
「お久しぶりですね、父様。私を黒死病にかかった疫病神だと言って捨てたこと、はっきり覚えていますよ」
ティニーは腕を組んで憮然と父上を見つめた。
その静かな迫力に父上は気圧される。
「ぬっ……そ、それは、悪かった。疫病神などと言ったことは撤回しよう。お前はワシの誇りだ! マイスともども、また共に暮らそうではないか? アルフレッドが邪魔だというなら、コヤツは国外追放でも処刑でも構わぬ!」
「はぁあああ!? 父上、それは……!」
後ろでアルフレッドが嘆きの声を上げたが、父上は無視してまくし立てた。
「だから、今すぐワシを助けてくれ。助けるのだ、ティニー!」
「お断りします。私の家族はマイス兄様だけです。父様、あなたはこの4年間一度でも、私のお墓参りに来てくれたことがありましたか?」
ティニーの声はどこまでも冷たく、静かな怒気をたたえていた。
「も、もちろんだとも! お前の墓参りは毎月行っていたぞ。お前の好きなガーベラの花を添えて」
「嘘ですね。私は守護竜ヴァリトラですよ? 【千里眼】の魔法で、父様の動向を探っていましたが、そんなことは一度もされたことがありません。今の今まで、私のことなど忘れていたのですよね? 違いますか?」
「ぐっ……」
父上は、ぐぅの音も出ない様子だった。
「私を見捨てなかったのはマイス兄様だけです。その兄様を黒死病が蔓延する危険な辺境に追放しておいて、いまさら助けて欲しいなど、虫が良すぎます。エルファシア王国が世界最強の国家だというなら、30万の魔物程度、なんとかしてみてください」
「そ、それは。軍の主力をすべて国境沿いに配置してしまい……」
守護竜ヴァリトラの力を当てにしたが故の防衛を意識しない、極端な配置だった。
「なら自業自得ですね。他人からいくら奪っても構わない。しかし、自分は奪われたくないと、おっしゃるのですか?」
ティニーの辛辣な非難に、父上は二の句が継げないようだった。
「父上、さきほど国王陛下にも申し上げたように、今後、守護竜ヴァリトラを戦争に一切、利用しない。僕とティニーに干渉しないと誓うなら、魔物の軍勢を退かせたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「そ、それは……」
父上と国王陛下はお互いに顔を見合わせた。
二人が迷っている間にも、爆音と城壁が崩れる重低音が響いてくる。
「配下には王宮を徹底的に破壊するように命じています。何も手を打たなければ、守護竜ヴァリトラが王国と敵対した事実が、国内外に露呈されることになるでしょう。そうなればもう侵略戦争どころではありません。ミルディン帝国は勢いづいて逆襲してくるでしょう。さらに、国内の被征服地でも反乱が相次ぐハズです」
ティニーがトドメとなる一言を告げた。
「私はソレでも一向に構いませんが?」
国王陛下が脂汗を浮かべていると、その背後がさらに騒がしくなった。
「我らは元ヴァリトラ教団の信者だぁああああッ! ヴァリトラがお怒りになったのは、すべて国王陛下がマイス様を追放したせいだ!」
「国王陛下は今すぐマイス様に謝罪し、ルーシー王女とマイス様の再度の婚約を認めろぉおおおッ!」
「うぉおおおおッ! ヴァリトラ様! 我らは信仰を誤っておりました。マイス様こそ、真なる神! マイス様を最高神と崇めます故、ヴァリトラ教団の復活をお許しくだされぇえええッ!」
「陛下! 今度は民衆が暴動を起こして、城門前に詰めかけて来ています!」
「なにぃいいい!?」
どうやら民衆まで暴れ出しているようだ。
それにしても、何か聞き捨てならないことを言っているような……
「民衆を扇動しているのは、元ヴァリトラ教団の信者たちのようです。彼らは、マイス様を神として崇めよとか、彼とルーシー王女の結婚を認めよ、などと要求しております!」
「ま、まさかルーシーよ! おぬしは、元ヴァリトラ教団の信者どもと手を組んだのか?」
「ふふふっ、さあ。どうでしょうか? しかし、彼らを鎮めるためには、私とマイス様の結婚を認めていただくしかありませんわよね」
さらに、いたずらっ子のようなルーシーの声まで聞こえてきた。どうやらルーシーも王城にいるようだ。
「さあ。お父様、ご決断を。ヴァリトラ様の怒りに触れた者を国王として認める民など、おりませんわ。マイス様をわたくしの伴侶とし、マイス様に王座を譲るのです! さあ、今すぐに!」
「むむむむむっ! い、いや、しかしそれは……」
「ちょっとルーシー、僕は国王になるつもりはないんだけど」
国王陛下も困っているようだが、ルーシーの性急な要求に僕も困惑してしまう。
「ああっ、マイス様、ご覧になっていますか? 今、最大の過ちであるわたくしとマイス様の婚約破棄を撤回させようとしているところです!」
僕の声が届いたようで、大歓喜するルーシーの声が聞こえてきた。魔物と民だけでなく、彼女まで暴走していた。
「ルーシー王女、兄様が困っています。兄様の意思を無視して、話を進めないでください」
「僕はしばらく錬金術の研究に没頭したいし、領主の仕事も山積みだから結婚とかはまだ早いって!」
その時、ひときわ大きな歓声が聞こえてきた。
「陛下、暴徒たちが城門を破壊して、城内に雪崩込んで来ました! 奴らは陛下を見つけ出して拘束し、マイス様に王座を譲れと叫んでおります。て、手が付けられません!」
「わかった、誓う! もう二度とヴァリトラ様を、いやティニー様を戦争に利用しないと誓う……マイスへの仕打ちも謝る! だから、戻ってきてコヤツらをなんとかしてくれ、マイスよぉおおおッ!」
国王陛下と父上は泣きながら懇願した。
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