ノケモノ黒魔術師のやり直し。勇者に裏切られ、命と愛する者を奪われた俺、過去に戻ってすべてを取り戻します!

こはるんるん

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2章。聖教会との対決。時の聖女

15話。知識チートで敵の裏をかく作戦を立てる

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「カイ様、お夕飯の準備ができました!」
「おおっ、サーシャ! 相変わらず美味そうなのじゃ」

 メイド姿のサーシャが、鍋のオタマを手にして叫ぶ。
 グリゼルダは子犬のように、ヨダレを垂らしていた。
 焚き火にかけられた鍋からは、実に食欲をそそる匂いが立ち昇っている。

「ありがとう。さっそく、いただくとしようか」

 ここは街から離れた森の中だ。
 追手を撒くために、【瞬間移動】を繰り返した俺は、今夜はここで野営することにした。

 本当はすぐにコレットと合流したいところだが、急いては事を仕損じる。
 計画通りに人目につかないルートを選んで、ラクス村に向かうことにした。

「はい、カイ様! こちら、キノコと森ウサギのスープです」

 俺が森で狩ったウサギの新鮮な肉が、ボリューム満点で入っていた。
 長らくソロ冒険者をやっていたおかげで、狩りはお手の物だった。

「カイ様は、獲物を仕留めるのがうまいのじゃ。わらわは森ウサギを見つけることも、できなかったぞ」
「森ウサギは身を隠すのが得意だからな。生態を知っていなければ吸血鬼の超感覚を使っても、見つけるのは難しいと思う」
「はふはふっ! なるほど! わらわにも狩りを教えて欲しいのじゃ」

 熱々スープに舌鼓を打つグリゼルダは、とても聖王国を壊滅寸前にまで追い込んだ魔王には思えなかった。
 サーシャが死なない世界では、グリゼルダの性格は、ふつうの女の子と大して変わらないのだな。

「もちろん、いいぞ」
「ありがたいのじゃ!」
「ふふっ、良かったですね。グリゼルダ様」

 俺たちのやり取りをサーシャが、微笑ましそうに見つめる。

「森ウサギは、敵に見つかりそうになると、木の根元あたりに隠れて、じっと動かないんだ。気配を殺して動かないモノを見つけるのは困難だけど……」
 
 その時、俺の右手に鈍痛が走った。

「どうしたのじゃ?」
「まさか……コレットの護衛につけたアークデーモンがやられたのか!?」

 アークデーモンは俺の魔力供給によって、この世界に顕現している。供給が途絶えれば、行き先を失った魔力が跳ね返ってくるので、すぐにわかった。
 にわかには信じられない。
 軍隊でも動員しなければ、アークデーモンは倒せないハズだ。

「アークデーモン、どういうことだ? 報告してくれ!」
『ハッ! 誠に申し訳ございません。マスター、カイ様』

 アークデーモンの声が聞こえてきた。
 本体が別次元の地獄にあるため、アークデーモンをこの世界で殺しきることはできない。
 倒されてしまうと、24時間召喚不可能になるクールタイムが存在するが、アークデーモンと会話することはできた。

『聖者ヨハンが率いる聖堂騎士団によって、コレット様が拉致されました』
「ヨハン!? どういうことだ……? なぜ、ヤツがコレットを拉致するんだ!?」

 思わず、スープを地面に落としてしまった。
 沸騰するような怒りが、俺の頭を埋め尽す。
 ヨハンは1週目で、俺を裏切って殺した勇者パーティのひとりだ。
 魔王誕生を阻止すれば、コレットがいきなり狙われることは無いと思っていたのだが……

『ハッ、ヨハンめは気になることを言っていました。コレット様を【時の聖女】と呼び、2週目の世界に確実に行けることが証明できたと』
「なんだと……?」

 俺は思考を巡らせる。
 ……おそらくはヨハンは【預言】のスキルで、コレットのクラスと居場所を知ったのだろう。

 1周目でコレットが真のクラス名を秘密にしていたのは、ヨハンに脅されて口止めされていた可能性が高いな。
 しまった。敵の目的を間違えていた。

 ヨハンにとって魔王討伐などオマケであって、本当の狙いは【時の聖女】を幽閉して、その力で2週目の世界に行くことだったのだ。

 こんなことなら、一直線にコレットの元に向かうべきだった。
 悔やんでも悔やみきれない。

『ヨハンは、カイ様を魔王だとして、魔王から聖王国を守るために、コレット様を王城に連れて行くと話していました。そして、コレット様に【聖縛鎖(ホーリーチェイン)】の戒めをかけて、自由意思を奪いました。
 『魔王カイ・オースティンと戦うことに全面的に協力せよ。利敵行為の一切を禁ずる』と……それが我が最後に見た光景です」

 【聖縛鎖(ホーリーチェイン)】だって? 相手にひとつだけ禁止行為を強要する魔法だ。違反すると、激痛が走る。

 いわばコレットを奴隷にしたようなものだ。
 許せるモノではなかった。
 ヨハンと聖教会の連中には、死に勝る地獄を味あわせてやらねばならない。

「……ッ。わかった。ご苦労だった」
『ハッ!』

 だが、コレットの居場所がわかったのは不幸中の幸いだった。
 冷静になって考える。

 2週目の世界に行きたいということは、ヨハンの目的は歴史の改変か?
 あるいは、俺が手に入れたような2週目限定の隠しクラスか?

 その両方である可能性もある。
 未来に起こることを知った上で、最強クラスを手に入れれば、ヤツは教皇となって聖教会を牛耳ることもできるだろう。

「歴史は大きく変わったと思っていたが……『魔王から聖王都を守るためにコレットが王城に幽閉される』という点は、変わらなかったということか……」

 もしかすると、歴史には俺個人がいかに大きく動こうとも変えられない、大きな流れがあるのかも知れない。
 ……だが、それがどうした?
 例え神が立ちはだかろうとも、俺は運命を変えてみせる。

 ヨハン、わざわざ俺に魔王のお墨付きを与えてくれたのは、愚策だったな。
 これで魔族に、俺が魔王だと納得させやすくなった。

 魔族たちを従えて、コレットを必ず奪い返してやる。
 ヨハン、お前はグリゼルダ以上の最凶の魔王を誕生させてしまったんだよ。

「カイ様、大丈夫なのじゃか……? すごい怖い顔なのじゃ」

 グリゼルダが心配そうな顔をしていた。

「悪い。ヨハンから、どうコレットを奪い返すか、考えていたんだ」

 ……多分、俺は無関係な大勢の人間を殺すことになるだろう。
 コレットは俺の大罪を知って悲しむかも知れない。

 だが、コレットがクズのような連中に利用されて、苦しむよりはマシだ。
 ヨハンは目的を達成するために、手段を選ばないだろう。コレットを一刻も早く救出せねばならなかった。

 なにより、もしヨハンが歴史を変えて、ヤツが世界の支配者にでもなったら、この世はおしまいだ。

「いや、かまわぬのじゃ。コレットはカイ様にとって、大事な伴侶(はんりょ)なのじゃろう? わらわたちにも協力させて欲しいのじゃ」
「……コレット様が王城に連れて行かれたとなれば、城攻めですか?」

 サーシャが、新しいスープを椀に注いでくれる。
 ありがたい。
 昔の俺は、たったひとり。何もするにも孤軍奮闘だったが、今の俺にはグリゼルダとサーシャがいる。

「ありがとう、グリゼルダ。サーシャ」

 それが、なによりも心強かった。
 ……まずは、何をするにも腹ごしらえだな。

「そうだな。おそらく聖王都にはコレットによって、聖女の大結界が張られるに違いない。大結界は、許可なき者の侵入を拒むんだ。力押しで突破するか、内通者を作るかしかないな。前者は、魔王だったグリゼルダが散々やって失敗したから、まず不可能だと思う」
「な、なんと……! うむっ、さすがは聖女の大結界といったところじゃな!」

 聖女の大結界は、城内にある神器によって増幅されて聖王都全体を包んでいる。
 内通者にこの神器を破壊してもらえば、結界は弱まり突破することができるハズだ。

「しかし、内通者を作ると言ってもどうやって行うのでしょうか? 私達に協力してくれる者となると……」

 サーシャは考え込んだ。

「それについては考えがあるけど……今はなにより仲間を集めることを優先したいと思う。俺たちだけじゃ、戦力が足りない」
「おおっ、すでに内通者を作る策があるとは!? さすがはカイ様なのじゃ! わらわはまったく思いつかぬ!」
「はい、おみそれしました!」

 グリゼルダとサーシャが尊敬の眼差しを向けてくる。
 俺は思わず苦笑してしまう。

 こういった作戦が立てられるのも、1周目の世界で、魔王グリゼルダvs聖王国軍の対決を見ていたおかげだ。
 何をすれば失敗するか、聖王国軍はどう動く可能性が高いか、知ることができている。

 ヨハン以上に未来を知っていること、なにより敵の能力や性格を知り尽くしているのが俺の強みだ。
 ヨハンの自慢である【預言】スキルの弱点も知っている。
 コレットを人質に取ったことで、俺に勝ったと思っているなら、大間違いだ。

「よし。まずは、グリゼルダの領地をエルザ一党から奪い返そう。すべては、そこからだな」
「おおっ、誠にありがたいのじゃ! わらわはどこまでも魔王カイ様について行くぞ!」

 グリゼルダが歓声を上げた。
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