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疑問の答えはきっと彼が知っている。

「僕は宮木 忍みやぎ しのぶといいます。あなたはどなたでしょうか」

「変わった名前だな。やはり外から来たのか。俺はジュード・ウィスタリア。この街の警備隊長をしている」

ピシッと音がしそうなほど背筋を正したジュードは役職まで教えてくれた。
コスプレした強盗という可能性もなくは無いかもしれないけど、これはやっぱり、異世界に繋がったということなのか。

元彼がハマって読んでいたライトノベルは、そんな話が多かったな。
楽しそうに語る元彼に付き合ってアニメ化したのを一緒に見たのは、つい先週のこと。
懐かしいと思い出すには、最近過ぎる。

じわりとまた涙が込み上げて来た。

「泣いているのか? 怖がらせるつもりは無かったんだが……」

ジュードを見て、見惚れることはあっても怖がったりするわけない。それともここでは、ジュードは怖がられているんだろうか。
気になったが誤解を解くのが先だ。

「ちが、うんです……その、僕、昨日恋人にフラれたばかりで、色々思い出してしまって……」

初対面のジュードに情けない話をするのは恥ずかしいけど、彼に怯えていると思われるよりはマシだ。

「そ、そうなのか。それは、その辛いな」

僕の失恋話にジュードは、軽く目を見張り、宥めるように背中をさすってくれる。その優しさにまた涙が溢れ出すのを堪え、背を向けた。

「ええ。それで今、ちょっと涙腺が緩んでて……気にしないで、ください」

「いや、それは無理だ。ーーその手に持ったものを置いてこっちに来れるか?」

ジュードはそう問いかけて、埃で汚れるのも厭わず古びた椅子に腰掛ける。

はい、と頷いたものの、埃っぽいこちらのテーブルにアップルパイがのった角皿を乗せる気にはなれず、ドアの内側の床にそっと置いた。

ドアを開けたまま、椅子に腰掛けたジュードに近づくと腕を引かれ、膝の上に向かい合わせに座らされる。子どもみたいに。

「ジュードさん?!」

「むかし、兄と喧嘩して負けるとよく母がこうして慰めてくれたんだ」

そう言ってぎゅっと抱きしめられた。軍服に顔を押し付けられながら、手の置きどころすら分からず固まっていると、背中を優しく撫でられる。
温かな手のひらに緊張がほぐれ、強張りも解けた。おずおずと身体を預けると、耳元でくすりと笑われる。

いま、笑われるようなことしたかな。

「すまない。ついシアンを思い出して笑ってしまった」

シアンって誰だ?

「シアンは近所に住んでる黒猫なんだ。そのシアンにミヤはよく似ているなと気付いたらつい吹き出してしまった」

それは僕の髪が黒いから似ているってことなのか。
あと、ミヤって僕のことかな。こっちにはない名字だろうし、ミヤギと聞き取れなかったのかもしれない。

「シアンは会う度に足に纏わりつくくせに抱き上げると、固まって動かなくなるんだ。で、背中を何度か撫でるとやっと安心したように腕の中でも甘えてくれて凄く可愛らしい」

ジュードは猫好きらしく、シアンについて語る声は明るく柔らかい。

「そんなに可愛いなら会ってみたいですね」

「ミヤも猫好きか。飲食店に連れて来れないからうちに来た時に紹介しよう」

その口振りってジュードの家を訪ねることが決定事項なのか、社交辞令なのか。真意は分からないけど、拒否する理由はない。

「お願いします」

「ああ、ぜひ会って撫でてやってくれ。ーーところでミヤ、きみは一体何者だ?」

耳に直接吹き込まれた声は、愛猫のことを語るものとは打って変わった警備隊長らしく鋭いものだった。

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