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「ミヤ、こんなヤツと仲良くしなくていい」

側から見たら微笑みあっているようなトルシェとの間に割って入ったジュードは、憮然とした顔で足を組み、隣に座る僕の肩を抱き寄せた。
そんな彼を反対側に座るトルシェはニヤニヤとした笑みで煽る。

「男の嫉妬は見苦しいだけやで?」

「ああ?」

ジュードの怒気をはらんだ声にトルシェはわざとらしく怯えてみせる。

「おー、こわっ。ミヤちゃんもそんな男なんてやめて、うちと手ぇ組まへん? あのお菓子作ったんミヤちゃんなんやろ?」

「お菓子ってことは」

「コイツが俺の菓子を持ってったんだ。部下を騙してな」

やっぱりトルシェが犯人だったのか。

「人聞き悪いわぁ。情報料として貰っただけやん」

情報料って何だろう。

人の悪い顔をするトルシェにジュードの眉間に皺がよる。
トルシェは遊んでいるつもりなのだろうけど、ジュードの目がどんどん据わっていって怖い。

空気を変えようと、ジュードの袖を引っ張ってこちらに注意を向けた。

「ジュードさん、お菓子ならまた作りますから、ね? ここへ連れて来てくれたのはトルシェさんに値段の相談するためですよね?」

「…………分かった」

縋るように隣を見上げると、ジュードは長いため息の後、頷いてくれた。更に揶揄おうとしたトルシェを軽く睨むとやれやれと肩をすくめられた。
えせ関西人め。呆れたいのはこっちだ。

「ご協力いただけますか」

「値段の相談ってことはまだ決めてないんやね?」

「そうなんです。僕、まだこちらに来たばかりで物価とかよく分かってなくて」

「なるほどなぁ」

余計なことを言わないように言葉少なに話を持ちかけると、トルシェは考え込むように腕を組んだ。
商売人として何か勘づくところがあるのかもしれない。

何か訊かれたらどうしようかと思っていると、ジュードが口を挟んできた。

「お前んとこで国の外から来た商人向けに渡してる価格の目安表があるだろ。リンゴ1つ 銅貨1枚みたいなやつ」

銅貨! 
ということは、銀貨や金貨もあるのかな。
わりと簡単そうで安心した。それに価格表があるのはありがたい。
内心ほっと息を吐いていると、トルシェから思いがけないことを言われた。

「そこのカウンターで1枚あたり銀貨3枚で売ってるなぁ」

「えっ」

お金取るの?
当たり前といえばその通りなんだけど。
……先立つものがない。
お菓子を売らないとお金は手に入らないけど、その値段を決めるために価格表が必要だし。

ジュードに頼めば貸してくれるだろうか。
でも、銀貨3枚が日本円でどのくらいかは分からない。凄く高いならーー

頭を抱えていると、ジュードがトルシェを威圧するようにカウチに背を凭せかけた。

「なら、その価格表と今後ミヤの価格相談にのるってことで菓子の件はチャラにしてやる」

偉そうなジュードの言葉にトルシェの頬が引きつる。

「ギルド長、舐めんなや? 相談料たっかいで?」

「何が望みだ?」

真っ直ぐにトルシェを見つめたまま、ジュードが問う。トルシェも軽薄な笑みを消したやり手の商売人の顔でジュードの強い視線を受け止めた。
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