ヤンデレ乙女ゲームに転生したら

果桃しろくろ

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本編(裏)

ーー 消えた傍観者02

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 高校に入学して、久しぶりに僕たち三人に期待をさせる先輩がいた。その名を桃園葵先輩。
 才色兼備の桃園先輩は、かなり男子から人気があるみたいだけど、どこか世界と一線引いているようで、なにかありそうな先輩。
 それに前回のクイズで、陸と海を見事当てた人。
 その先輩を廊下で捕まえて、クイズを出した。
 陸と僕は、内心ニヤニヤ。
 僕がはいっているクイズの正解率は“〇%”だ。
 まったくもって、意地の悪いクイズ。
(ま、当たるわけないけどね。)
 期待なんてしない。
「えー判んないなー。橙野さん、判る?」
 そう言って、他の……橙野と呼ばれる女子生徒に話を振った。
「え?」
 その先輩も突然の事にビックリしていて。まぁ、通り過ぎようとしているのに、急に話を振られたらビックリするだろうけど。僕は全く期待せずに、ターゲットをその先輩に切り替えた。
(桃園先輩は、次の機会でいいかな)
「じゃあ、どっち?」
「どっちだ?」
「…………っ」
 あー戸惑っている。ごめんね。先輩。さっさと外して(答えて)? 僕らよりも小さな橙野先輩を少し見下ろして解答待ち中。それにしても、ちょっとこのクイズ出す時のポーズ恥ずかしいんだよね。なんてよそ事を考えていると、桃園先輩と橙野先輩がなにやら内緒話。
 桃園先輩の言葉にビックリした橙野先輩は突然大声をあげた。

「え? 右が『陸くん』 左が『空くん』でしょ?」

 ……え? 今、『空くん』って言った?
 僕の名前を? どうして? どうして?
 小学生の頃からやっている正解率〇%のクイズは、初めて会った橙野先輩に破られた。
 陸と僕はすぐさま橙野先輩の手を取り、無理矢理、誰もいない教室に連れて行き逃げられないように鍵をかける。
 はやる気持ちが抑えられない。
 ドキドキする。あーもー。心臓の音が煩い。
 それは隣にいる陸も同じだったようで、二人してドキドキと興奮していた。
「どうして、『空』の事、知っているの?」
「僕(・)の事は、誰も知らないのに」
 殺気立った僕たちから逃げるように、橙野先輩は後ずさりしている。
 ダメ。逃がしてなんかやらない。
「……ま、まちがえた~。てへ」
 必死になって、誤魔化そうとしているし。さっきから、モカ色のツインテールの髪がピョコピョコ跳ねていて目が奪われてしまう。それに、僕らより頭ひとつ小さくて……あ、前に飼っていたウサギみたいだ。
 僕たちが納得いっていないのに、焦ったのか、橙野先輩は泣きそうになりながら、言葉を連ねた。
「だって、前が! 陸海ときたら空! 陸海空! その三つがないとおかしい(・・・・)って思っていたから、思わず出ちゃっただけだし……」
“三つがないとおかしい(・・・・)”……?
「おかしい……」
 でも、僕はいらないって……本宅の人たちには言われて。でも、でも、おかしいって?
 この先輩は僕がいない方がおかしいって?
「空……」
 陸が、心配そうに僕を覗き込む。
 ああ……この気持ち。
 その間も怯えたように僕たちを見つめる橙野先輩。
 その日は、名前とクラスとメルアドをしっかり白状させてから教室に見送った。
 絶対、絶対、逃がさない。

 先輩を見送った後、教室に戻る気がなくなって、屋上に陸と二人で上がった。
 誰もいない屋上。
「どうしよう。僕、嬉しい」
 僕は、とてつもない解放感に満たされた。
 陸と海以外に、僕に気付く人がいた。
「……空」
 何かを思い出したのか、神妙な顔で海が言う。
「どうしたの? 陸?」
「あの先輩、今思うと、よく僕たちを見ていた人だ」
「……!?」
「たまに目があうけど、すぐに逃げて海と気になってずっと捜していたんだけど、見つからなかった。ファンクラブの子でもなかったし……でも、思い出した。あのツインテールに小動物みたいな小さい体。僕たちを見ていたのは、あの先輩だったんだ」
「……じゃあ、僕が入れ替わって学校に来ていた日も見られていたんだね。……海も気にいるかな?」
「勿論」
 陸と二人で笑った。
 頭の上に拡がる空が、僕を解放してくれて。
 この空の下に、僕がいないとおかしいって言ってくれた人がいる。

 家に帰ってすぐに別宅に忍び込み、僕の振りをしている海にも、橙野先輩の事を話す。
「空に気付いたんだ! でも、どうして、空の名前を知っていたんだ?」
「陸海と続いて、そこに『空』ないとおかしいという理屈らしいよ?」
「違いない。うふふふ」
 海と陸も、僕と同じくワクワクしているのが伝わってきた。彼らも、僕と同じで僕たちの区別をつけられない周りに嫌気をさしていたから。髪型や服装を同じにしても、いつか僕ら一人一人を見つけてくれる人を捜していた。
 そして、今日―見つけた。



 次の日から、橙野先輩に対する僕たちの囲い込みが始まった。橙野先輩を見たいという海と陸が今日は入れ替わって、海と僕とで橙野先輩……いや、舞ちゃんを追いかける。ピョンピョン跳ねる、ツインテール。ちょこまか逃げる姿は本当にウサギだ。
「いやああああああっぁぁぁ!!」
 ぴょこ! ぴょこ!
「まいちゃぁぁ―ん。どこ行くのー?」
 可愛い! 可愛い!
 舞ちゃんは、先輩なのに、僕たちよりも小柄で、柔らかそうな髪に肌。瞳も黒目がちで潤ませて、怯えた表情も、僕たちを刺激する。
 そんな中、ファンクラブの子たちが、僕らの舞ちゃんに嫌がらせをしようとしている噂を耳にした。
「許せない」
「舞ちゃん、小さいのに虐めちゃ可愛そうだよ」
「悪いファンクラブの子たちにお仕置きした後、解散させよう?」
「でも、心配だね」
「うん」
「僕たちが見えない所で、舞ちゃんが死んじゃうかもしれない」
「舞ちゃん、弱そうだもんね」
「あのウサギと一緒だよ。今度は間違えないようにしないと」
「そうだ」
「間違えない」
 その後、舞ちゃんに嫌がらせをしようとした“ファンクラブ”を解散させた。
 悪いメンバーの子たちは泣いて叫んで何か言って煩かった気がするけど、もう舞ちゃんに悪口とか話せなくなったみたいだから安心。そして僕たちはある日(・・・)に向けて準備で大忙し。
 その頃になると、桃園先輩は、僕らが舞ちゃんを追いかけているのをニコニコと楽しそうに見ていた。もうあの先輩には興味なんかない。一回目のクイズの正解も偶然だったろうしね!

「ストックのストックはどうするの?」
「ストックで作っちゃえば?」
「頭いいー! じゃあいっぱいストックが出来て安心だね」
「じゃあ、頑張らなきゃ。舞ちゃんは?」
「また気絶しているよ」
「舞ちゃーん。ねぇねぇ、僕、まだなんだけど」
「舞ちゃん……休憩ばかりしていちゃダメだよ?」
「ほら、頑張って、起きて」
「早く、僕たちを安心させてね?」

 舞ちゃん。
 可愛い舞ちゃん。
 前に飼っていたウサギは、ちょっと目をはなした隙に、死んじゃったから。
 舞ちゃんも、ちゃんと見ておかないと。
 今度は失敗しないから安心して?
 恥ずかしがり屋で、弱くて小さな舞ちゃん。 
 僕たち三人でずっと護ってあげなきゃね。
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