ヤンデレ乙女ゲームに転生したら

果桃しろくろ

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本編(裏)

06 消えた傍観者01

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 僕の名前は、清流空。
 上を見上げて見える『空』の方じゃなくて『空(から)っぽ』っていう意味の方の空。
 僕の生まれた家は、歴史がある名門の財閥で祖父が取り仕切っている。そこで産まれたのが、陸 海 空の僕たち。跡取りが“双子”でも具合が悪いのに、よりによって産まれたのが“三つ子”。そして、三番目の僕は一番小さく産まれ、なかなか退院をさせてもらえなかったらしい。
 陸と海から遅れて、一年後、やっと僕が家に帰る事ができた頃には、僕はすっかり邪魔者になっていた。
 すぐに病気になって、死にかける弱い僕。そして、三つ子なのに、二人よりも小さい体。
 陸は、頭が良くてなんでも知っていて。
 海は、社交性が抜き出ていてムードメーカー。
 僕は? 僕は、二人のストック。
 二人に何かあった時に身体を差し出す為のストック。だから、僕は二人よりも食事の制限が厳しかった。スナック菓子なんてもってのほか。体に良いものばかり並べられた食卓は、育ち盛りの僕には厳しい仙人のような食事。たまに食べられる“甘いもの”は、陸と海が、こっそり持ってきてくれた。
 僕は、二人が大好きだった。
 二人も、僕の事が大好きだった。

 ある日、お手伝いさんがウサギを貰ってきてくれた事があった。いつも一人で遊んでいる僕の事を気の毒に思ってくれているようで、同情でも嬉しかった。
 ウサギはすぐに僕に懐いた。たまに遊びにくる陸と海も、すぐにウサギの事が好きになった。
 陸には、スタンピングで足をダンダンいわせる。
 海には、興味津々で鼻を鳴らす。
「この仔、僕たちの見分けがついているみたい」
「すごいね」
 クルクルした瞳にモカ色の毛並み。まだ、手の平に載るサイズ。ピョコピョコ跳ねる耳はたれ耳系なのかな。
 鼻をピクピクさせて、好奇心いっぱいで。なんて、愛らしいんだろう。僕に陸と海以外の大好きなものが出来て、僕らは毎日一緒に遊んだ。
 そのウサギがいなくなった。
 目を離している隙に、ゲージから逃げ出した。
 僕は必死で捜して、行ってはいけないと言われている本宅まで忍び込んで捜した。漸く見つけたウサギは、本宅の軒下で死にかけていた。すぐにウサギの元に駆け寄ってウサギを抱きしめる。早く、早く、病院に連れて行かないと。しかし、僕の願いは聞き届けられない。祖父や父が現れて僕を殴った。僕が本宅に勝手にはいったから。別宅で大人しくしてなかったから。ストックが他人の目に触れるとまずいから。ウサギだけは、護らないといけないと思って、ぎゅっと抱きしめていた。別宅から僕を連れ戻しに来たお手伝いさんに付き添われ、別宅に戻ったけど……腕の中のウサギは……動かなくなっていた。
 僕が目を離したから? ゲージの扉がちゃんと閉まってなかったから? ぽろぽろぽろと落ちる涙。そして、押し寄せる“後悔”で、動かなくなったウサギを抱きしめる。まだ暖かいのに。体はそこにあるのに、中身がなくなった。“空っぽ”になってしまった。どうして、このウサギにはストックがいないんだ。
 代わりがいないと、こんなに辛いなんて。
 死が、僕には恐ろしい。
 いなくなる事がこんなに恐ろしいなんて。ああ……だから、本宅の人は、陸と海がいなくなるのが辛いから、ストックである僕を別宅で飼っているんだ。

 僕がウサギの死を悲しんでいるを知って、深夜二人が別宅に忍び込んできてくれた。
「空」
「空」
「……陸、海」
 三人で泣いて、庭にお墓を作ることにした。
 素手で、うさぎを埋める穴を掘りながら気付くのは、まだ二人に比べて痩せっぽっちな手。二人の半分も穴を掘れていない力の差。三つ子のはずなのに……。
「僕もっと二人に近づかなきゃ。体の大きさが違ったら、いざとなった時にストックになれない」
「空」
「それは違うよ」
 陸と海は、土だらけだけれど、力強い手で僕の手を握り締めた。
「空が強くなるのは、いい事だよ。でも、空だけじゃない。僕も海も空のストックだよ?」
「陸が死んだら空が陸になって。僕が死んだら空が僕になって。空が死んだら僕らが空になるよ」
「二人が僕になるの?」
「そう、僕らなんの為に三つ子なの? 一人に二人もストックがいるなんて、他の人は子どもを作ることでしか出来ないのに」
「そうだよ。僕たちは、ツイ(・・)てる」
「うふふふ」
 近くにあった池に映った僕らの笑顔は、酷く歪んだ笑顔。もう動かない、かたくなった元ウサギを穴にいれ、その周りを花でいっぱい飾って土をかぶせた。
 ペタペタペタと盛り上がった土を、三人で整える。
「……このウサギにもストックが居たら……こんなに悲しくはなかったのにね」
「うん。僕もそう思っていた。だから今度飼う時は失敗しない」
「そうだね」
 僕らはもう一度泣いて、お墓の前で手を合わせた。



 その日以来、僕たちの入れ替わりっこがはじまる。
 はじめは、またバレるんじゃないかと思ったけれど、陸や海の髪型と服装を真似るだけで、不思議とバレなかった。そして、徐々に僕は外の世界を知った。二人から仕入れられる情報や遊びで。
 僕は、学校には行かせてもらえなかったけれど、勉強は二人から教わった。二人に近づけるように努力し、よく食べ、運動し、勉強をした。
 数年たった頃には、僕たちは誰も見分けがつかないほど、すっかり“同じ”になれた。
 僕たち三人は、同じ髪型に同じ仕草を心がけ、誰も僕たちを見分ける人がいなくなった。
「親まで気付かないなんて……ね? うふふ」
「でも……」
「ちょっと、寂しいね」
 その頃には、堂々と本宅に歩いても僕(空)だとバレなくなった。
 だからかな。僕たちは、ある遊びに夢中になった。『どっちがどっちでしょうか?』クイズ。
 僕たち、二人並んでどっちが誰か名前を当ててもらうクイズ。小学生の頃からの十八番のクイズだけど、正解率は限りなく“〇”に近い。
 ごくたまに、当てる子もいるけれど、その時は後日、僕を交えてクイズをする。
 そうすると絶対外れるクイズに早変わり。
(まぁ、誰も僕の存在を知らないから……当たり前っていったら当たり前なんだけれど)
 陸と海と空。
 見分けがつかない事を確認するためのクイズ。
 外れる度に安心する。だってそれが僕の生きる意味で役目だから。
 最初は、楽しんだ。
 誰も僕たちの見分けがつかない。僕たちは、完璧に三人一緒、同じなんだって。でも気付いたんだ。クイズで外れを出される度に、僕たちは微かに絶望もしていた事に。それが積もり積もって、どんどん心にゴミとして溜まっていった。“同じ”になったのは、僕たちからなのに。それでもそれに気付いて欲しいなんて。
 矛盾している。
 判っているよ。
 僕たちに気付いたのは、あのウサギだけ。
 でもね。
 もし……
 ―僕たち一人一人に気付いてくれる人がいたら。


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