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03 騎士の場合
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王子の護衛として“花嫁”の召喚に立ち会った。
それは騎士として、とても名誉な事で俺の胸は高鳴った。
しかし、現れたのは2人だったのだ。
アイリという1人目の儚げな少女を、すぐに王子が気に入ったのに気付いた。
(王子の好み、ドンピシャだろ)
そう思ったのは、俺だけじゃないはず。
澄ました顔をしている宰相も、いつもおどおどしている魔術師も「またか」と思ったはずだ。
王子の女癖の悪さは置いておいて、問題はもう一人の少女――ナオ。
ナオはアイリと違い、甲高い声で泣き叫んで俺たちを苛立たせた。
まぁ、気持ちはわからなくもないが心象が悪すぎるだろう。
案の定、王子がすぐにでも殺そうと、俺に目で合図をおくっていた。
が、そこは宰相に止められていた。
アイリは、王子が抱きかかえ王宮の方へ連れて行き、ナオは俺が引きずるように牢へぶち込んだ。
アイリは順調に、神殿に馴染んでいった。
俺は詳しくは知らないが、全て“記録通り”らしい。
誰にでも好かれ、愛される少女アイリ。
かく言う俺も、彼女に惹かれていった。
そして一目でも彼女を見ようと、任務が終わると神殿の側を通って宿舎へ帰るのが日課になっていた。
ある日。
いつものように、仕事帰りにアイリと話そうと神殿に向かう途中、ナオを見かけた。
牢に入れてから俺はナオに会っていなかったが“噂”だけは聞いていた。
いつも、ヘラヘラと笑っている女。
皆、アイリに感謝もしないナオをよく思わずに虐げているが、それがなんだというのだ。
ナオが未だに生活をおくれているのは、アイリのおかげと言っていい。
(生かしてやっている、有難みもわからない……愚かな女)
――斬ってやろうか。
王子もナオを忌々しく思っていた。
お咎めはないだろう。あっても、少しの謹慎と僅かな減給くらいだ。
愛しの少女――アイリの立場を危うくするのなら……。
洗濯をしているナオの後ろに立ち、小剣に手をやる。
背中越しにみるナオの後ろ姿は、頭には大きな布が巻かれ、髪を隠していた。
ブカブカな下働きの服は粗末で、ナオを一層貧相に見せていたのだが……近づいて聴こえる歌声。
初日にあれほど泣き叫んでいたナオは、なんと鼻歌を歌っていた。耳馴染んだメロディーに、その歌声……。
「おい」
「…!! 騎士様!!」
ナオは慌てて立ち上がり、俺に向って微笑んだのだ。
召喚した日、俺はナオに対して剣を向け牢に放り込んだ。
決して、良い第一印象ではないだろう。なのに、こいつは俺を見て笑った。
俺の機嫌をとる笑いじゃない。心からの笑みでだ。
「……お前」
「す、すいません。これを持っていかないと怒られますので」
大げさな一礼をし、頭に巻いている布で更に顔を隠しながらも洗濯物が入ったタライを持って小走りで去っていく。
一瞬見えた顔が、心に引っかかる。
あの女は、あんな顔をしていただろうか。そして――あの“鼻歌”
しかし、近くにアイリが現れ、その事はすぐに頭の中から消えてなくなった。
事件が起こった。
神官が、アイリではなくナオを攫おうとしたのだ。
奇しくも、魔術師の活躍で事なきは得たが、アイリが攫われていたと思うと、肝が冷えた。
捕らえられた神官は自害したと魔術師の報告があった。
アイリがナオを気にかけ、大事に思っている事は城の誰もが知っている。
ナオを利用してアイリに危害を加えようとしていたのか。
それとも捕らえて自分のモノにしようとしていたのか。
今となってはわからない。
一緒に現場検証をした魔術師の言葉に、なぜか心がザワついたが気のせいだろう。
そして、しばらく時が経って、ナオが城から消えた。
試練の3日目。
一筋の光が神殿ではなく、森の中に落ちた。
その時、俺はあの日の魔術師の言葉を思い出したのだ。
あの時、魔術師はこう言った。
「愚かな者。触れてはいけないものに触れてしまったからだ」
それは騎士として、とても名誉な事で俺の胸は高鳴った。
しかし、現れたのは2人だったのだ。
アイリという1人目の儚げな少女を、すぐに王子が気に入ったのに気付いた。
(王子の好み、ドンピシャだろ)
そう思ったのは、俺だけじゃないはず。
澄ました顔をしている宰相も、いつもおどおどしている魔術師も「またか」と思ったはずだ。
王子の女癖の悪さは置いておいて、問題はもう一人の少女――ナオ。
ナオはアイリと違い、甲高い声で泣き叫んで俺たちを苛立たせた。
まぁ、気持ちはわからなくもないが心象が悪すぎるだろう。
案の定、王子がすぐにでも殺そうと、俺に目で合図をおくっていた。
が、そこは宰相に止められていた。
アイリは、王子が抱きかかえ王宮の方へ連れて行き、ナオは俺が引きずるように牢へぶち込んだ。
アイリは順調に、神殿に馴染んでいった。
俺は詳しくは知らないが、全て“記録通り”らしい。
誰にでも好かれ、愛される少女アイリ。
かく言う俺も、彼女に惹かれていった。
そして一目でも彼女を見ようと、任務が終わると神殿の側を通って宿舎へ帰るのが日課になっていた。
ある日。
いつものように、仕事帰りにアイリと話そうと神殿に向かう途中、ナオを見かけた。
牢に入れてから俺はナオに会っていなかったが“噂”だけは聞いていた。
いつも、ヘラヘラと笑っている女。
皆、アイリに感謝もしないナオをよく思わずに虐げているが、それがなんだというのだ。
ナオが未だに生活をおくれているのは、アイリのおかげと言っていい。
(生かしてやっている、有難みもわからない……愚かな女)
――斬ってやろうか。
王子もナオを忌々しく思っていた。
お咎めはないだろう。あっても、少しの謹慎と僅かな減給くらいだ。
愛しの少女――アイリの立場を危うくするのなら……。
洗濯をしているナオの後ろに立ち、小剣に手をやる。
背中越しにみるナオの後ろ姿は、頭には大きな布が巻かれ、髪を隠していた。
ブカブカな下働きの服は粗末で、ナオを一層貧相に見せていたのだが……近づいて聴こえる歌声。
初日にあれほど泣き叫んでいたナオは、なんと鼻歌を歌っていた。耳馴染んだメロディーに、その歌声……。
「おい」
「…!! 騎士様!!」
ナオは慌てて立ち上がり、俺に向って微笑んだのだ。
召喚した日、俺はナオに対して剣を向け牢に放り込んだ。
決して、良い第一印象ではないだろう。なのに、こいつは俺を見て笑った。
俺の機嫌をとる笑いじゃない。心からの笑みでだ。
「……お前」
「す、すいません。これを持っていかないと怒られますので」
大げさな一礼をし、頭に巻いている布で更に顔を隠しながらも洗濯物が入ったタライを持って小走りで去っていく。
一瞬見えた顔が、心に引っかかる。
あの女は、あんな顔をしていただろうか。そして――あの“鼻歌”
しかし、近くにアイリが現れ、その事はすぐに頭の中から消えてなくなった。
事件が起こった。
神官が、アイリではなくナオを攫おうとしたのだ。
奇しくも、魔術師の活躍で事なきは得たが、アイリが攫われていたと思うと、肝が冷えた。
捕らえられた神官は自害したと魔術師の報告があった。
アイリがナオを気にかけ、大事に思っている事は城の誰もが知っている。
ナオを利用してアイリに危害を加えようとしていたのか。
それとも捕らえて自分のモノにしようとしていたのか。
今となってはわからない。
一緒に現場検証をした魔術師の言葉に、なぜか心がザワついたが気のせいだろう。
そして、しばらく時が経って、ナオが城から消えた。
試練の3日目。
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