神の花嫁

果桃しろくろ

文字の大きさ
9 / 20

07 ××の場合

しおりを挟む
 私には、愛しい女がいた。

 愛していた私の花嫁は、いつしか私の元から姿を消した。

 世界中を捜しても、彼女を感じられない。
 そんな時、ある国で数年前に“召還”を行っていた事を耳にする。


 もしや。
 彼女はその時に、こことは違う遠い異世界に吸い込まれてしまったのではないか。
 すぐにでも、異世界に捜しに行きたかった。
 しかし、私とて有能ではない。私はこの世界から動けず異世界には干渉が出来ないのだ。


 彼女を異世界に飛ばした罪は、その国の者に償ってもらう事にした。


 魔術師達が行う召喚時に、彼女の微かに残った欠片を込め、彼女が戻ってくるようまじないをかけたが、一向に戻ってくる気配がない。
 しかし、召喚によって、無理矢理連れて来られた少女たちには、彼女と似た・・魂の持ち主で、皆、清らかで美しかった。

 彼女に似た異世界から来た少女たちの為、この世界で暮らしていけるよう身体の仕組みを変え、言葉や文字を理解させ、召喚時には冷静になるよう、まじないをかけ、そして、幸せな暮らしが出来るよう、寂しくないよう、愛されるように“加護”をつけたのだ。

 私は、国に呪いもかけた。花嫁にかける“加護”がないと、国を立ち行かないようにしたのだ。“加護”が切れた状態のままにしておくと、奇病を流行らし、暗に警告をした。もし、“召喚”を蔑ろにすると、私の怒りを喰らう事になるぞ……と。

 その後、国の者達は“神の花嫁”に選ばれなかった少女を、王の后として娶り、それがいつしか習わしとなった。“加護”を持つ少女を王妃とすると、国は栄えた。そして、少女たちは幸せに暮らして生涯を終えた。

 それからというもの、私の“加護”が切れる期間……約100年単位で“召喚”が行われるようになったのだ。





 そして、今回の召喚。


 一体、何百年待ったのか。
 私はもはや諦めに近い感情でその様子を観察していた。


 ――が


 現れたのは、二人の少女だった。

 今までは、一人だったのだが…。
 私はもしやの予感と共に、直様、彼女たちに“加護“のまじないをかけた。


  アイリという少女。

 アイリは、この国の者たちにすぐに愛された。
 一部、私のまじないが効かなかった者たちもいるようだったが、花嫁としての1年間。彼女が余程の事をしない限り、私の“加護”は彼女を守ってくれるだろう。


  ナオという少女。

 彼女は、なぜか、私の“加護”を受けない少女。言葉と文字は理解していたが、その他のまじないが全然効かなかったのだ。
  “誰からも愛される、祝福されるはずの加護” その恩恵も受けられず、城の者たちは、彼女を粗末に扱った。

 召喚された少女が、神殿に1年間に暮らすというには、この世界に馴染むという意味もあった。
 この1年間で、この世界で生活し、呼吸をし、この世界の食べ物を食べる事によって、今迄住んでいた異世界の異物を浄化し、私の彼女ならば……本来の姿に戻る。
 そんな期間でもあった。


 私は、彼女たちの観察を続ける。

 一向に何も変わらない――アイリ。
 一方、ナオの変化は凄まじかった。

 彼女を覆っていた殻が少しずつ剥がれ落ちていく様に……この世界では珍しい黒い髪の色が、私と同じ薄い金色に輝く。
 肌が透き通るよう白く滑らかになり、瞳のエメラルドグリーンを見た時に、私は確信したのだ。
  彼女こそが、私の愛する……。

 異世界へ、魂が落ちた時に、彼女の造形も変わったのだろう。
 我々には、異世界の食べ物は毒になる。
 それが、歪んだ形で、彼女の体内に蓄積されて、本来の姿を覆い隠していた。
 そして、元の世界に戻った彼女は、この世界の食べ物を食べ、暮らし、呼吸することによって浄化されたのだ。


 私の花嫁の証に“純潔”を失ったアイリへの“加護”が徐々に消えていったが、彼女が見付かった今、もういいだろう。
 この国の者もアイリを“神の花嫁”としての仕来りを教えたはずなのだから。



 時は満ちた。



 約束の期日、迎えに参るぞ。


 ――愛しの花嫁ナオ




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

処理中です...