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妖精の稲妻
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リュカはさっとかまえ、かるくあごをひいた。
音が弾けると同時に、くっとリュカは身を引き絞る。
高い音が天をめざしかけのぼってゆく。
音の波を追いかけるようにリュカの身は跳ね、片足がリズミカルに地をはなれた。
右手は勇ましく素早い勢いでメロディを奏でて、左手は弦と一本になって、背筋をしならせる。
勇敢でありながらも切なく何かを追い求める狂おしい響きが、四方へ散るのではなく一心に天空へと突き抜けてゆく。
まるで龍を追う稲妻のように。
おれには、暗い闇をかけのぼるその閃光が見えた。
聞いたことがある。はるか高みのそのうえ、宇宙とこの星の大気圏が接するところでは、闇と青の光膜が火花を散らし、稲妻は地を裂くのではなく、宇宙へ高く吸い上げられて爆ぜるという。
妖精の火という名で呼ばれるその閃光は、この星と宇宙とが対等にせめぎ合って存在することのあかしであると。
リュカがその烽火を高くあげている。
彼はあくまで楽しそうに、身をしならせ、のびあがり、時に腰を折って硬質の音を弾きだす。
己の放つ音色のゆき先になどまるで頓着がないように、無邪気に髪をゆらし、足でリズムを刻んでいる。
薄い背中からにじみでているものは、音を奏でる初々しいよろこび以外の何ものでもなかった。けれどその音色は宇宙とつながってゆく。宇宙の暗闇へ吸いこまれていく。彼も知らないうちに、何か巨大なものの目を覚まさせてしまったみたいに。何かが彼に見入っている。何かと、リュカがしだいに一体となっていく。
胸の空洞を揺さぶられる。おれは気づいた。おれのなかにも宇宙があると。鳴き叫び踊りながら、なにかを追いもとめ、互いをけずりあう闇と光とが。
はるか彼方でこの星の大気をこすり、ひっかきながら鳴き声をあげる妖精の稲妻。
リュカが弓を持つ腕を高くあげたとき、すべての心象が花火のように弾け散った。
もう目をこらしても、そこにはいつものとおり、照れたように鼻の下をこすり、おどけた仕草でこちらに笑いかけるリュカがいるだけだった。
隣でイバラが目を大きくこぼれんばかりに見開いて、拍手をおくっている。
おれは何もできずに、ただリュカの目をのぞきこんだ。
どこを見ているのだろう。彼には何が見えていたのだろう。
リュカの目は、彼のしぐさ同様、いたって無邪気だった。
おれが口をあけたまま自分を見ているのに気づいた彼は、にやっと笑って目をすがめ、こう言った。
ー見たかっ!あ、いや。聴いたかっ、かな?
たしかに見た、とおれは思った。
音が弾けると同時に、くっとリュカは身を引き絞る。
高い音が天をめざしかけのぼってゆく。
音の波を追いかけるようにリュカの身は跳ね、片足がリズミカルに地をはなれた。
右手は勇ましく素早い勢いでメロディを奏でて、左手は弦と一本になって、背筋をしならせる。
勇敢でありながらも切なく何かを追い求める狂おしい響きが、四方へ散るのではなく一心に天空へと突き抜けてゆく。
まるで龍を追う稲妻のように。
おれには、暗い闇をかけのぼるその閃光が見えた。
聞いたことがある。はるか高みのそのうえ、宇宙とこの星の大気圏が接するところでは、闇と青の光膜が火花を散らし、稲妻は地を裂くのではなく、宇宙へ高く吸い上げられて爆ぜるという。
妖精の火という名で呼ばれるその閃光は、この星と宇宙とが対等にせめぎ合って存在することのあかしであると。
リュカがその烽火を高くあげている。
彼はあくまで楽しそうに、身をしならせ、のびあがり、時に腰を折って硬質の音を弾きだす。
己の放つ音色のゆき先になどまるで頓着がないように、無邪気に髪をゆらし、足でリズムを刻んでいる。
薄い背中からにじみでているものは、音を奏でる初々しいよろこび以外の何ものでもなかった。けれどその音色は宇宙とつながってゆく。宇宙の暗闇へ吸いこまれていく。彼も知らないうちに、何か巨大なものの目を覚まさせてしまったみたいに。何かが彼に見入っている。何かと、リュカがしだいに一体となっていく。
胸の空洞を揺さぶられる。おれは気づいた。おれのなかにも宇宙があると。鳴き叫び踊りながら、なにかを追いもとめ、互いをけずりあう闇と光とが。
はるか彼方でこの星の大気をこすり、ひっかきながら鳴き声をあげる妖精の稲妻。
リュカが弓を持つ腕を高くあげたとき、すべての心象が花火のように弾け散った。
もう目をこらしても、そこにはいつものとおり、照れたように鼻の下をこすり、おどけた仕草でこちらに笑いかけるリュカがいるだけだった。
隣でイバラが目を大きくこぼれんばかりに見開いて、拍手をおくっている。
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どこを見ているのだろう。彼には何が見えていたのだろう。
リュカの目は、彼のしぐさ同様、いたって無邪気だった。
おれが口をあけたまま自分を見ているのに気づいた彼は、にやっと笑って目をすがめ、こう言った。
ー見たかっ!あ、いや。聴いたかっ、かな?
たしかに見た、とおれは思った。
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