【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ

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第十七話 collar2

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 二週間後。
 京都旅行出発前。

「ただいま。受け取り行ってきたよ」

 理玖さんが高級感漂う袋を持って帰ってきた。
 まさかそこにcollarが入っているというのか。

「さあ座って」

 渚は促されるままいつものソファーに座る。
 全くもって落ち着かない。

 理玖さんは袋から小箱を取り出した。
 でこぼこがあり皮のようにみせてある箱にブランド名の印字されたリボンが巻かれている。
 これだけでも高そうで、一体collar一つにいくら注ぎ込んだのか。恐ろしい。

「箱、開けるね」

 理玖さんの手によってリボンが解かれる。
 外から帰ってきたばかりだから手袋をつけたままの手がゆっくりとリボンを引く。
 なめらかなリボンはさして抵抗もなくほどけ、丸めてまとめられる。
 そうしてそっと蓋が持ち上げられ、中身があらわになる。

 中には相談した通りのチョーカーが入っていた。
 新品の皮のあの独特な香りがする。
 赤のリボンは丁寧な加工でやわらかそうで、きっと肌に触れても痛くない。

「すごい……想像以上だ」
「それはよかった。これ付けてもいい?」
「うん。お願い」
「じゃあ僕に背中みせね」

 渚が身体を横へ向けると理玖さんの指が首に触れた。
 黒革の手袋に包まれた手が紐を辿って首をなぞり、結び目までやってくる。
 絡まりがないか確認するため息が掛かるほどの距離まで理玖さんの顔が近づく。
 手袋越しの指先が時折首に触れてくすぐったい。
 あまりに熱心に見るものだから渚自身が見られている気がして落ち着かない。
 変な汗が出そうなほど良く見聞されてから紐の端が引かれ、結びが解かれる。

 紐を解く、という単純な行為のはずなのに、理玖さんが妙に色っぽい。
 吐息一つもしめっぽくて、手袋越しでも指先が熱くて、視線がじっとりしていて。
 まるで前戯でも施されているかのような変な気分になる。
 この二週間、風呂へ入る前に何度も解かれたが、どうにもこの感覚にはなれない。

 組紐がするりと首から抜け落ち、理玖さんに回収される。
 赤地に金のラインが入ったそれは、やはり理玖さんの手元にあるのが一番ふさわしい。
 けれど、どうしても名残惜しくて見つめてしまう。

「これ、気になる?」
「まあ二週間ほぼずっとつけてたから」
「あげようか?」

 理玖さんは組紐を何度か折りたたむと渚の手をとりくるりと巻きつける。

「こういう風にブレスレットにしてもいいし、髪を伸ばしてまとめるのに使ってもいいし」

 理玖さんの手が渚の髪へ伸びる。
 ここへきた当初は痛んで酷い状態だった髪も理玖さんのおかげで少しずつマシになってきている。
 同じシャンプーに同じリンスを使っているので髪からも理玖さんと同じ香りがする。
 少しばかり手触りも良くなっていればいいなと思う。

「どうする? つける?」

 理玖さんはそう言いつつもとっくに渚に渡す気になっているらしい。
 渚の手を取り掌を開かせるとその上に巻いた組紐を握らせている。

 渚は少し思案した後、紐を持ち上げ理玖さんの髪へかざしてみた。
 照明の下で金糸が煌めいている。派手な赤も理玖さんの顔の良さでもってちょうどいい。

「やっぱりこれは理玖さんがつけてるのがいい。理玖さんが一番似合うよ」
「そう? 渚が言うなら従うよ」

 理玖さんは一度髪を解き手櫛でとかしてから、黒のゴムでまとめ直し、最後に飾りとして組紐をつけた。
 一つ一つの動きが手慣れていてカッコいい。
 思わずじっと見つめてしまう。

「なーに。見惚れてた?」
「そうかも」

 理玖さんは何をしても様になる。
 こうやって渚に問いかける時だって、傾いた顔の角度と影、優しく細められた目、ゆるく弧をえがく口元、揺れる髪と長く筋張っているのがよくわかる首、どれをとっても一級品で美術品のように美しい。
 見惚れてない時がないくらい、ずっと綺麗だと思っている。
 そこまでは伝えるつもりはないけれど。

「ねえ、collarつけていい?」
「うん。貴方の手でつけて」
「わかった」

 collarが持ち上げられ、首に巻かれる。やわらかい革の感触がする。
 長さはぴったりで、安心した。
 サイズについて、一番良いはお店に行って採寸することだ。
 しかしきちんとしたcollarもつけずに渚を外に出すことを理玖さんは嫌がった。
 そのため理玖さんがメジャーで測って、その値を元に作ってもらった。
 細かい部分は紐の締め具合で調節すれば良いが、それでも大きすぎたり小さすぎたりしないか不安だった。
 理玖さんを信用していない訳ではないが、サイズがぴったりでけっこう安心した。

「ここ押さえててもらえる?」
「わかった」

 このチョーカーは本来ある留め具を取り払い、本当に紐を解くことでしか外せないようになっている。
 そのためつけるには一度はもうを全て抜いて、もう一度つけ直す必要があった。

 肌に優しい素材を選んで作られたリボンは目当ての色を出すのとアレルギー対策で、わざわざ染色したんだと理玖さんが言っていた。
 細かいところまでこだわられていて、理玖さんのcollarへの熱意を感じる。
 知り合いに渚が誰のものか知らしめるだけでなくこだわったcollarによってちょっかいかけたら危険な相手のSubだとわからせるんだとか。
 ただの独占欲ならともかく、あの事件のことを気にしてだったら申し訳ない。

 紐はまず一番上の金具に裏から通される。
 そうしてクロスして今度は表から。
 順々に紐を通し、一度きゅっとしぼられる。

「キツくない?」
「大丈夫。なんともない」

 渚的にはもう少しキツくしてもらったほうが落ち着きそうであるが、長時間つけることを考えるとこれが一番いいだろう。
 首を上下左右に動かして問題ないことを確認し、頷く。

「じゃあこのまま結ぶね」

 首の後ろで何かされるのは少々くすぐったいが、我慢してじっとする。
 何度かシュッとリボンが擦れる音がしたあと理玖さんの指が離れた。

「よし、できた。ちょっと待ってて鏡とってくる」

 理玖さんは洗面所へ行き、二つ鏡を持って帰ってきた。
 大きめのと、中くらいの手鏡だ。

「これで見てみな」

 中くらいの手鏡は丸くて、持ち手があるので持ちやすい。
 鏡を覗き込めば、艶のある革で首元が絞められている。
 本当にチョーカーがついているのが感慨深くて、思わず手でなぞってしまう。
 中央についた飾りの中にはGPSが入っていて安心する。
 これがあればたとえ離れ離れになってもきっと理玖さんが見つけ出してくれる。
 それだけでひどく安心してしまう。

「ちょっと角度調整するよ。これで、後ろも見える。初めてにしては綺麗に結べてると思わない?」

 なるほど、合わせ鏡のようにして後ろ側を見るために二つも鏡を持ってきていたのか。
 自分でも少し首の向きを変えて、後ろを見てみる。
 丁寧に絞められた紐が一番下でリボン結びにされている。
 紐の長さがぴったりで、長すぎて背中が痒くなることも短すぎてリボンが不恰好になることもない。
 リボン結びは少し可愛すぎる気がしなくもないが、他の結び方があるかもわからないので何も言わないことにした。

「理玖さん、ありがと」
「どういたしまして。……実は自分用にもう一つ買ってきたものがあって」

 理玖さんは箱から何かを取る。
 出てきたのはcollarが入っていた箱と同じデザインで、手のひらくらいのサイズの箱。
 サクッとリボンを解き蓋を開いてしまう。
 中に入っていたのはcollarと同じ革、同じリボンで作られたピアス。
 中華モチーフの金具と共に革勢の飾りがリボンでまとめられている。

「シミラールックってあるでしょ? そんな感じで渚のDomってアピールしたいなって思ったんだ」

 Domとして責任もって渚の面倒をみるという宣言みたいで嬉しくなってしまう。
 理玖さんはちゃんと渚のことを大切にしてくれるとわかっているが、アピールは何度あっても嬉しい。

「つけてくれる?」
「やり方わからない」
「教えるからさ。お願い!」
「……わかった」

 慣れないながらも理玖さんに教わりながらピアスホールに金具を通して留める。

「痛くないの」
「大丈夫だよ。そういう形になってるからね。どう? 似合う?」
「うん」
「よかった」

 二人で大きめの鏡を覗き込む。
 渚の首元のチョーカーと理玖さんの耳元のピアス。
 二人の関係を証明するものができた。

「理玖さん、本当にありがとう」
「どーも。これからもよろしくね」

 心の底からこの人のsubになって良かったと思う。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

みんみん
2025.11.03 みんみん

続き楽しみにしてます!!
応援してます!!

2025.11.04 橘スミレ

みんみん様
応援ありがとうございます!!
続きのお話も期待に応えられるよう頑張ってきます!!

解除
黎明
2025.11.03 黎明

すでにこの先にわくわくしています!
執筆応援していますっ!

2025.11.03 橘スミレ

黎明様
応援ありがとうございます!
この先も楽しんでもらえるよう頑張ります!

解除
トリさん
2025.10.26 トリさん

楽しみにしています!!

2025.10.27 橘スミレ

トリさん様
ありがとうございます!!

解除

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