転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

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第2章

8話 転生令嬢、備えの為に突っ走る

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 正直な所、崖から落ちたせいで、どうやって村まで戻っていいやら分からなかった私達だが、モーリンのお陰ですぐに戻る事ができた。
 崖の側に生えてる木々や土なんかを操作して、崖を上がる階段作ってくれたのだ。
 流石は緑と大地の精霊、とでも言うべきか。
 少しばかり癪だけど、今後はちゃんと敬おうと思う。
 露骨にへりくだるのは嫌だけど。
 そんな事を思いながら、ちまいモーリンを肩に乗せたまま村に入って道を駆け、私達は息を切らしながらトーマスさん家に突撃した。

「こんにちはー! ばあちゃんいるー!?」

「大変大変! 森神様がプリムを巫女様に選んだの!」

「いきなりごめんライラさん! 緊急事態なの! トーマスさん呼んで!」

『その通りじゃ! 村長むらおさを呼べーいっ!』

「ええっ!? あ、あらあら……っ、まあ、どうしましょう! 本当に森神様なの……!?」

 家の中の細々とした仕事をしていたライラさんは、いきなり口々に色んな事を叫びながら家に駆け込んで来た私達や、私の肩に乗っかってるモーリンを見て、腰を抜かさんばかりに驚いていたが、すぐに気を取り直し、「ちょっと待っててちょうだい!」と言い残して、家の裏手へ走っていく。
 もういいお歳なのに、心臓に悪い真似して本当にごめんなさい、ライラさん。



 有り難い事に、ライラさんは私の言葉を即座に信じ(喋るモーリンの姿を直に見たせいもあると思うが)、家の裏手で畑仕事をしていたトーマスさんを引っ張って来てくれた。
 そしてライラさん含め、私はトーマスさんについさっきの出来事と、モーリンの発言を掻い摘んで説明する。

 ちなみに、次期村長とも言うべき立場にあるジェスさんだが、なんと彼、猟師会の訓練場に行っていて不在らしい。
 ライラさん曰く、今日になって突然、いずれ村を守っていく身として、今からでもある程度身体を鍛えて力をつけておきたい、とか言い出して、家を飛び出して行ったらしいが……。
 うーん。なんかそぐわないなぁ。

 どっちかというとジェスさんって、前線で戦う肉体労働派じゃなくて、後衛で策を練る頭脳労働派な感じがするしさ。もしかしなくてもあの人、嫁探しの為に新たなモテ路線を模索しようとしてるだけなんじゃ……。
 いや、今はその話は脇に置いておこう。
 案の定トーマスさんも、ジェスさんの話は完全にスルーして、難しい顔で顎をさすっている。

「……むう……。大地の穢れ、か……。なんにしても、早期にご神託を賜りました事、心よりお礼申し上げます。森神様」

『なに、そう畏まらずともよい。お主ら村の住人も、妾にとっては庇護すべき山に生きる命ゆえ、当然の事をしたまでじゃ』

 ライラさんが、取り急ぎ引っ張り出しテーブルの上に置いた、厚めのクッションに悠々と鎮座し、そうのたまう森神様ことモーリン。
 控えめな発言とは裏腹に、めっちゃ偉そうな態度でいらっしゃいます。

「しかし、まさかプリムが巫女に選ばれるとは。……いや、片眼の色が金に染まるほどの強大な魔力といい、生まれながらに有するスキルの力と言い、存外必然だったのかも知れんな……」

『うむ。お主の言う通りじゃ。こやつは妾の巫女として相応しい力を持っておる。
 それに、知性の方もなかなか素晴らしいのじゃ。この齢からすれば天才的と呼んでもよかろう。まあ、大人になったらただの人、という可能性も大いにあるがのう』

「ほっといて。つかあんたは、私を褒めたいのか貶したいのかどっちなのよ」

『細かい事を気にするでない。今はそれより、眼前にある危機の話を進めようぞ。
 村長の様子から察するに、なにか穢れに関する事柄を知っているのではないか?』

「はい。実は――」

 トーマスさんがジェスさんから伝え聞いた、例のザクロ風邪の話を詳しく説明する。
 ついでに、今この場に同席しているトリアとゼクスにも、ザクロ風邪の話を聞かせるつもりだったようで、比較的分かりやすい言葉を選んで使うトーマスさん。
 話を聞き、ザクロ風邪の恐ろしさを知ったトリアとゼクスは、強張った顔で互いに身を寄せ合っている。
 仲いいよな、この2人。

『……成程。ザクロ風邪か。体力のない者にとっては死病にも等しい病よの。防ぐ手立てなどは考えておるのか?』

「……いいえ。村の外から来た者と接する時には距離を取ったり、その後に手洗いやうがいを徹底するなどの、消極的な対策しか取れておりません。
 息子が聞き及んだ話によれば、今年の夏に王都で、注射器で投与するタイプの、ザクロ風邪の予防薬が完成したらしいのですが……そのような新薬がこの村にまで届く訳もなし。内心、いつザクロ風邪が入り込んでくるかと、恐々としている有り様です」

 トーマスさんが苦い表情で言う。

『そうか。ではプリム、我が巫女よ。お主がその予防薬とやらを出すのだ』

「へ?」

 ちょっと待て。
 いきなり何を言い出すんだこのおキツネ様は。
 前世が元ヤンだった女に、そんな薬の知識なんてあるわきゃないでしょうが!

『なに間の抜けたキョトン顔をしておるのじゃ。よう思い出すがいい。お主の持つ神のスキル『強欲』の権能を』

「え? ええっと……私のスキル『強欲』は、望んだ物を何でも出せる力……よね」

『それだけではあるまい。スキルの権能を十全に用いれば、望んだ『物』だけでなく、望んだ『知識』も手にできるはずじゃ』

「あっ!」

 モーリンに指摘され、私は思わず声を上げた。
 そうか! そのテがあったか!
 私がスキルの権能を使って、ザクロ風邪の知識と薬の知識を手に入れれば、予防薬のイメージもお手の物! 普通に出せるようになるじゃん!
 しかも、トーマスさんの話じゃ注射器使った投薬治療も当たり前みたいだし、こいつぁ更に話が早い!
 すげぇ! これぞまさしく神からもたらされた天啓だ!

「ありがとうモーリン! さっすが山の守護神様よね! その発想、頭から抜けてた! お見事!」

『フフン、そうじゃろそうじゃろ! それでこそ我が巫女! 色々と分かっておるわ! というか、もういっそこの場でやってみせい!』

「よっしゃあ! プリム、いっきまーす!」

 私とモーリンは、ポカンとしているトーマスさん達を置き去りに、勝手にテンション上げて盛り上がる。
 しまいには、マジでその場でスキルを使い、ザクロ風邪の予防薬を出せるか模索してみた所――

 予防薬どころか治療薬まで出せちゃいました。
 ていうか、完治後に残ったあばたを消す薬まで出せちゃったさ!
 当然、感染経路とか潜伏期間とか、予防対策の情報とかも丸分かり!

 すげぇなスキル『強欲』! チートもここまで来ると笑えてくる! いや、もう笑うしかない!
 ククク、もはやザクロ風邪なんて微塵も怖くねえぜ!
 どっからでもかかって来いやぁ!

 あまりの事に驚いて、お口をあんぐり開けて茫然としてるトーマスさん達を置き去りに、私はハイテンションで大はしゃぎする。
 てな訳で、村で使う予防薬と、予防接種用の注射器並びに治療薬、あばた消しを、余剰分含めてその場にドンと出した私は、上がりにアガッたテンションに任せ、他の対策も進める事にした。
 つまり、村がロックダウンに陥った際に必須となる、食料品などを含めた各種備蓄の用意である。

 そこまでやる必要あるのかって?
 ええありますとも。
 だって昔の人は言いました。
 『備えあれば患いなし』、と!


 自分で言うのもなんだけど、私はめっちゃ張り切っていた。
 この山に、リトス共々身一つで放り出されてからひと月以上。
 ザルツ村の人達と積極的に関わるようになってからは数週間。
 大した時間は過ごしてないが、私はトーマスさん達含めた、この村の人達がすっかり好きになっていた。だから、村の為にできる事があるなら何でもやろう、という気持ちになっていたのだ。
 なんの為に得たんだか知らないが、折角持って生まれたドチート能力、こういう時に使わずいつ使う!

 そんなこんなで私はまず、トーマスさん家の畑がある家の裏手に案内してもらい、今後も開墾の予定がない場所の木々、およそ30本以上をスキルでまるっと消して、出来た空き地にでっかい備蓄倉庫をドカンと出した。
 それから続いて、全粒粉の入った大袋、干し肉含めた乾物類、野菜の塩漬け、果物の砂糖漬け、魚介の油漬けを瓶に詰めた保存食などをバンバン出し続けていた所、不意にクラッときて――急に立ってられなくなってぶっ倒れました。

 もしかして、これって世間一般で言う所の魔力切れ?
 いい歳して調子に乗るからこういう事になるんだよね。
 ああ、これ後で絶対怒られるやつ……。

 絶え間なく頭を殴り付けられてるみたいな酷い頭痛の中、トーマスさん達の焦った声や悲鳴を聞きながら、私は意識を手放した。

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