転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

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第5章

閑話 ある男が被った妥当な災難

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 そこかしこから火の手を上げる家屋や、打ち壊されて残骸と化した物置きの陰に身を潜めて移動しながら、トラゴスは頭を抱える。
 一体どうしてこうなった、と。

 レカニス王から命を受けた翌々日(流石に翌日の出陣は無理だった)、村を見せしめに滅ぼす為の部隊・総数200名を編成し、サラード砦を出立したトラゴスだったが、山を登り、村へ突入したその時には、村の中には誰もいなかった。完全にもぬけの殻だ。
 トラゴスは顔をしかめて舌打ちする。

「身の程を弁える能さえ持ち合わせない山猿の分際で、手間のかかる真似を……!」

「将軍、いかが致しましょうか」

「決まっているだろう! 探せ! 1人残らず探し出して殺すのだ! 王の不興を買えばどうなるか、連中の薄汚い命を対価にとくと教え込んでやれ!」

「ははぁっ!」

 トラゴスから檄を飛ばされ、兵士達は武器を片手に村中へ散っていく。
 兵士達は、目に付く設備や家屋などに火を点け、それらを打ち壊しながら、村の中や周辺を捜索し続けた……のだが、2時間近く捜索を続けてなお、子供1人発見できなかった。
 しかも、従軍魔法使いの生体探知魔法にさえ引っかからない。
 例え幻覚魔法を使っても、生体探知魔法の網に引っかからずにいる事は、実質不可能だというのに。

 住居や畑を作る為、切り開かれた村の周囲は、柵から少し離れただけで木々の密集する深い森になる。あとは、人ひとりが辛うじて通れそうな幅しかない、細く狭い獣道が幾つかある程度。
 この獣道を通って逃げたと考えるには、いささか無理があるだろう。

 村の隅には、マス目模様の書かれた黒いガラス板が、何枚も屋根の上に乗せられた奇妙な家があったが、そこにも隠し通路は存在しなかった。
 また、その家の中には、大小様々なサイズの、用途の分からない金属製とおぼしき箱も所々に点在していたが、それらは全て、何かの魔法具である可能性を考えて破壊させ、その上で家に火を放っている。問題は起こらないはずだ。

 村の最奥、最も小高い場所に建っている、村長の家とおぼしき比較的大きな家の中も、隠し通路の有無の確認などを含めてくまなく捜索したが、隠し通路などは存在せず、家の裏手にも、こぢんまりとした家庭菜園しかない。
 そこから先は案の定、他の周囲と同じく深い森が広がるばかり。
 地元の人間であっても、足を踏み入れようとは思わないだろう。

 生活物資や食料などがそっくりそのまま残されている所、そして足の遅い年寄りを多く抱えている現状、その2つから鑑みるに、村人達はみな、遠くまでは逃げていない。いや、逃げられるはずがないのだ。
 ならば間違いなく村人達は、村から比較的近い場所に身を潜めている。
 そうとしか考えられない。だというのになぜ――

 トラゴスが顔をしかめながら親指の爪を噛んでいると、突如村の入り口が騒がしくなった。

「なんだ、なにが起きた!」

「はっ、哨戒の兵が言うには、非武装の若い男女が突如、村の中に駆け込んで来たとの事です! 恐らくは、この村の住民かと」

「ふん、ようやく尻尾を出したか。よし、まずはその2人を捕らえ、締め上げて残りの村人が潜伏している場所を吐かせろ! どんな手を使っても、どれほど痛めつけても構わん! だが、そいつらが仲間の居所を吐くまでは殺すなよ!」

「了解しました!」

 村の入り口に向かって駆けていく兵士の背を見据えながら、トラゴスは小さく安堵の息を吐く。
 しかし、事はトラゴスが思った通りには運ばなかった。
 報告にあった、村の住民だと思われる2人の若い男女は、兵達の攻撃を一切受け付けないばかりか、掌で触れただけで兵士をどこぞへ消してしまうのだ。

 焦ったトラゴスは、従軍魔法使いを呼び付けるよう残りの兵に命じたが、どこを探しても見当たらないという。しまいには、従軍魔法使いを探していた兵士までもが、いつの間にか姿を消していなくなる始末。
 トラゴスが保身の感情から物陰に身を隠し、そこで呆然と屈み込んでいる間にも兵士は次々と消えていき――気付けば、誰もいなくなっていた。

(なっ……! あれは……アレは一体なんだ!? 何が起きてる!? 訳が分からん! ――クソ、クソクソッ! ふざけやがって!)

 理解の範疇を大きく逸脱した現象を見せ付けられ、すっかり浮足立って腰が引けたトラゴスは、頭の中で罵詈雑言を吐き散らし、こっそりその場から逃げ出し始める。

(こうなったら、もう一度だ! もう一度、国境の砦にいる残りの兵を、全て掻き集めて戻ってきてやる! 全戦力を投入して夜襲だ! 今後の栄達と繁栄の為にも、このまま終わって堪るものか――!)

 きつく歯を食いしばり、脳内で威勢のいい言葉を並べ立てながら、物音ひとつ立てまいとコソコソ動くトラゴスだったが、そうは問屋が卸さない。
 赤毛の若い女に逃げている所を見付けられ、逃げる背中を思い切り蹴り飛ばされた。

「ぐへぇっ!?」

 受けた衝撃に耐え切れず、踏まれたカエルのような悲鳴を上げながら地面へ倒れ込んだトラゴスの頭を、今度は謎の衝撃が襲う。
 目の奥で火花が散った瞬間に、頭を蹴り飛ばされたのだと気付いたが、気付いた所でどうしようもない。

「ぎゃあっ!」

 トラゴスの悲鳴に続くように、ひしゃげた特注の兜がどこかの茂みの中へすっ飛んでいき、ついでにトラゴスの意識も半分どこぞへ飛んでいく。
 そして。

「こんのクソッタレのクズ指揮官! てめぇも部下と同じ所に行って来ぉぉい!!」

 赤毛の女が発した言葉に続いて、朦朧としていた頭を更に容赦なくひっぱたかれたトラゴスは、今度こそ完全に意識を飛ばした。
 自分が精霊の魔法にかかり、遠方へ放り出された事にも気付かないまま。

 意識が飛んだ次の瞬間、いきなり温水の中に放り込まれた事でトラゴスは無事意識を取り戻したが、その代わり、温水の中にとうの立ったご婦人が裸体を浸しているという、訳の分からない状況のさなかへ放り込まれていた。
 要するにトラゴスは運悪く、貴族のご婦人が入浴していた大浴場の風呂の中へ転送されてしまったのだ。

 その事によりトラゴスはこれ以降、下手な戦よりよほど面倒な騒ぎに巻き込まれる羽目になるのだが――
 大変どうでもいい話なので、その辺りは全て省略させて頂く事とする。

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